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人生自分満足可其充分
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 マオの謀略の後、スザクはらしくもなく憔悴しきった様子で、ルルーシュの部屋のベッドに倒れこんだ。彼は軍の宿舎に戻るつもりでいたらしいが、それを引き止めたのはルルーシュだ。どこか、一人にしてはいけない気がしたのだ。ナナリーは既に自室に寝かしてある。彼女も長く緊張状態が続いたせいか、昼間だというのにすぐに寝息を立てた。後のことは咲世子に任せてあるし、大丈夫だろう。
 「…ルルーシュ、ナナリーについててあげなよ」
 先程から、シーツを身体に掛けずにいるスザクはずっとこう訴えている。しかし、何度もルルーシュは首を横に振った。
 「お前が寝たら、そうする」
 「僕は大丈夫だから。ナナリーが不安がるよ。怖い夢でも見て、起きて君が傍にいなかったら、あの子が可哀想だ」
 それはお前だろう。ルルーシュは口に出すことなく毒吐いた。きっと彼の頭の中には、七年前の情景が走馬灯のようにぐるぐる巡っているに違いなかった。その証拠に、スザクの両手は固く握り締められている。そのことに本人が気付いていないから、ルルーシュは心配なのだ。
 昔、七年前の俺ならば、こんなことで、と鼻で笑ったかもしれない。スザクは強いんだから、と無条件に信じ込み、このように扱うこともなかっただろう。あの暴君が悪夢に怯える?有り得ない。きっとそう思ったに違いない。
 けれど時は過ぎた。七年という長い月日。あの頃、自身やナナリーのことで精一杯だった俺には、今のスザクの苦しみがよくわかった。自分も、母が死んだことをトラウマに悪夢を見たことは数々ある。ナナリーなどきっとその比ではないだろう。何せ、あの子は目の前で母親を殺されたのだ。安定しているという方が、間違っている。
 しかしスザクはどうだ。再会した時、こいつは酷く安定していた。と思う。物腰は相変わらずだが、口調や表情が記憶と食い違っている違和感を感じつつも、そんな場合でもないことに関わらず、俺は素直にスザクが生きていたことに喜んだ。軍に入っていたのは気に入らないが、ああ、ちゃんと笑っている。元気にしていたのかと。
 それも今となっては見当違い甚だしい。
 スザクはあの時何故、黙って撃たれたのか。不意打ち?いや、マシンガンの弾を避けれる男が、まさかすぐ背後の殺気や銃口に気付かなかったわけがないのだ。ならば、相手が上司だったから?抗議くらいしたはずだ。しかしスザクはしなかった。気付かない振りをした。

 あの時、スザクは己が撃たれることを分かっていたのだ。

 考えた末の結論に、ルルーシュは膝の上で組んでいた両手をきつく握り締めた。悔しくてたまらない。スザクの口から聞く前に、スザクがそれを話す決心をする前に、事故であったが、他人を媒体にしてスザクの触れられたくない部分に土足で踏み入ってしまったことが、許せない。
 現実問題、あの時からスザクはルルーシュに対してずっと怯えている。ルルーシュが「誰にも言わない」と言ったことを疑っているわけではないが、彼の根本が、ルルーシュを遠ざけたがっている。
 それに気付きつつも、ルルーシュは彼の好きなようにやらせるわけにはいかなかった。自分の場合は、同じ傷を負うナナリーがいたからまだ正気を保てたのだ。しかし、スザクは。
 彼にそのような人間がいれば、きっと、ここまで怯えることなどないはずなのだ。

 「…七年間。ずっと一人で背負ってきたのか」
 びくり、とスザクの肩が分かり易く縮こまった。言ってしまってから、ルルーシュは後悔したが、このまま何も話さないでいたら、これから先ずっとこの話題を持つことなど出来ないと危惧した。だからルルーシュは続けた。
 「俺は、お前がこの七年間何をしていたかは知らない。七年前、俺達が別れるとき、お前、何か言いたかったんだろう。でも言えなかったんだよな」
 「違う、ルルーシュ。僕は君達を信用していなかったわけじゃない…」
 「わかってるよ。わかっているから、落ち着け」
 上体を起こしたスザクを、ルルーシュはベッドへ押し戻した。
 「俺は…俺は殺すつもりなんてなかったんだ…」
 瞳を虚ろにして、スザクは天井を見上げた。視界にルルーシュの姿は映らないが、ルルーシュはスザクの右手を握り締めた。その手が握り返してこないことに、ルルーシュは悲痛になる。
 「戦争が嫌だった…たくさん死んでいくんだ。日本人も、ブリタニア人も、たくさん死んでいく…僕もルルーシュもナナリーもいつか殺されるんじゃないかって、ずっと怖かった……だから、父さんが、皆に戦えって命令する父さんさえ説得できれば、戦いは終わるって、本気で思ってた」
 そしたら、ルルーシュもナナリーも死なずにすむんだ。
 掠れた声が酷く幼い。ルルーシュは「うん」、と肯定とも否定ともとれないような曖昧な相槌をついた。
 事実上、枢木ゲンブの死により、戦争は終わった。幼かったスザクの考えは間違いではなかった。しかし、ルルーシュの回転の速い頭は、それだけでは駄目だったという結論に至る。頭を失った国は、相手国の体の良い玩具だ。エリア11のナンバーズの人権は他植民エリアと比べれば戦後七年経ったとしても、最低レベルだ。世界有数のサクラダイト産出地であることや、未だ日本軍に力を残したまま無理矢理終戦してしまったため、レジスタンス活動があまりに頻繁であるということも要因の一つではある。

 けれど、それは――
 「みんな僕のせいだ」
 スザクは左腕で自らの顔を覆った。きっと隠された彼の顔は、泣きそうに歪んでいるのだろう。
 「違う」、ルルーシュは真っ向から否定した。
 「それは違う。スザクのせいじゃない。お前が日本を貶めたなど、あるわけないだろう」
 「全ての原因は僕だ…」
 「日本の負けは避けられなかった。それは、スザクだってわかっていたはずだ。お前がどうこうした、しなかったからってその結果は変わらない」
 「でも、交渉の場は持てたはずなんだ…」
 「京都が持ったんだろう。反枢木内閣派の。……その結果が、今のこの状況なんだよ、スザク。お前のせいじゃない」
 お前はよくやった、などと言えるわけもない。スザクは悔いているからこそ、名誉ブリタニア人になり、軍人になった。ルルーシュとしては、すぐにでも辞めて欲しいと思う。しかしこれはきっと彼が課した自分への罰なのだ。
 もし、日本が普通に負けていたら。否、枢木ゲンブの謀略により、ブリタニアに売られていたら。ルルーシュはそれを知っていた。だから七年前、自分は薬を含まされ、ナナリーは連れ去られた。スザクはこれを知っていただろうか。枢木ゲンブ自決のニュースが飛び込んできたとき、スザクはおかしくなかったか。スザクに助けられたのだと言っていたナナリーは、その後のスザクの様子の変化に敏感に気付いていた。俺自身もそうだ。いつも元気でよく喋るスザクが、ゲンブの死を耳にする前から、随分大人しくなっていた。ならば、あの時だ。あの時、既にゲンブは死んでいた。スザクに殺されていた。

 おかしい。
 何かが食い違っている。

 スザクは、まだ俺に何かを隠している。そんな気がしてならない。

 七年前。ブリタニアと日本が緊迫状態にあり、その頃太平洋及び東シナ海上にて戦争が開始された頃。

 薬の効き目が切れて目を覚まし、外に出ればすぐにナナリーは見つかった。外は雨が降っていた。俺は泥まみれになりながら縁側に佇む車椅子に駆け寄った。何があったと問えば、ナナリーはわからない、と首を横に振った。スザクはどうした、と訊けば、どこかに行ってしまってわからない。足音が雨にかき消されてわからなくなったと不安げに答えた。今までどこにいたんだ、と尋ねると、ゲンブ様とお話していたとナナリーは答えた。そうだ、これは枢木の、ゲンブの策略だ。そう思い出した俺は、泥だらけの靴を脱ぎ捨てて縁側を走った。
 結局、自力でスザクを見つけることはできなかったが、あそこで俺は、見覚えのある老師を見た。
 桐原泰三。そして、藤堂鏡志郎。その二人が黒塗りの車に乗り込むところを目撃していた。

 その日の内にスザクに逢えることはなかったが、次の日、尋常じゃない様子のスザクは蔵を訪ねてきた。
 そして突然の、本家行き。

 そうだ、あの時だ。
 ならば、スザクは。こいつが本当に責めるべきは。

 スザクの手を握るルルーシュの手が、小刻みに震える。
 スザクはいつの間にか眠ってしまったのか、それに気付くことはなかった。ルルーシュは息を呑んで、彼の顔を覆う左腕を外させ、身体にシーツを被せてやった。
 目尻には涙の跡がある。きっと泣いていたのだろう。それを見て、ルルーシュは胸が張り裂けそうだった。ルルーシュは気付いてしまった。スザクの罪の根本に、我々兄妹が存在していたのではないかという可能性に。

 「すまない、スザク」
 もう力んでいないスザクの右手を額に当てて、ルルーシュは神に懺悔するように許しの言葉を紡いだ。
 枢木スザクという存在を破壊してしまった一端を担っていた。否、根本を担っていたかもしれないという事実は、ルルーシュの胸の中に納得という言葉と共にストンと落ちた。そして湧き上がってきたのは、罪悪感と、守られていたことに気付いていなかった自分への怒りと、他人事にように彼を励まそうとしていた自分のおこがましさを呪った感情だ。
 「すまない…すまなかった…」
 なぁ、俺達のこと恨んでないのか。声にならない問いを、ルルーシュは投げかけた。
 きっと彼は、「まさか」と言うのだろう。自分達を恨まずにいられる彼は、どうしようもないくらい強かった。この根本的な部分だけは変わらないでいてしまった。
 しかし同時に、ルルーシュにはその恨み言受け入れる強さなど持ちえていないと痛いくらいわかってしまった。

 卑怯だと思う。言葉にさせる機会を与えることもしない俺は、こうしてスザクが眠っている間に懺悔する俺は、どうしようもなく卑怯だ。

 外はいつの間にか、激しい夕立が降り続いていた。




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 歴史上に残る哲学者達は常に人の生死について次のように表現した。人は生まれながら死に向かっていると。行き着く先は結局死しかないのだと。
 そんな難しいこと言われてもわからない、という顔をした八年前のお前。人は、何か大切なものとか、目指すものがあるから頑張って生きているんだと、言い切ったお前。覚えているか、スザク。お前はあの頃何も知らず、無垢で、無邪気で、いつも俺達兄妹を救ってくれた。力になってくれた。
 そんなお前に、俺は一体何をしてやれただろう。傷つけることしかできなかった気がするんだ。いや、そうなんだろうな。お前に嘘をついて、お前の大切なものを傷つけながら、俺は生きてきた。お前は…いいや、お前は何も悪くなかった。お前は、スザク。お前の人生を、最大限に利用して見せた。誰も巻き込まず、己だけを犠牲にして。俺には、決してできないことだ。だからお前が羨ましくもあり、嫉ましく、誇りに思う。

 「気持ち悪いな」
 ゼロの仮面を手に、スザクは笑った。
 「何か言い残すことはないか、と尋ねたのはお前だろう。…全く、お前は本当に、やな奴だよ」
 正装の白い肩を竦めて、目の前の“ゼロ”に扮装した“枢木スザクだった男”を、しっかりと目に焼き付けるようにルルーシュは瞬きを恐れた。同じ服を着ているはずなのに、物腰が違うだけで、こうも別人に見えてしまうものなのか。いや、それはきっと自分達が中身が誰であるかを知っているせいかもしれない。
 「お前がそんなの着てるなんて、違和感ありありだな」
 「着こなしたくないよ。…いや、それでも着こなさないといけないんだったね」
 「ああ。約束は、守れよ」
 ルルーシュも。
 緩く微笑んで、スザクはゼロの仮面を顔面に覆った。これで、枢木スザクという男は、完全に死んだことになる。ゼロは象徴。民の前に仮面の下を一生晒すことなく、その一生を、全て世界に捧ぐ。世界が彼に救済を求め、彼は世界に応え続ける。その命の炎がかき消えるまで。
 まさか、己の作った偶像に己が殺されるとは、あの頃は思いもしなかっただろう。ルルーシュはおかしくなって、口元が引き攣った。
 「…あとでな、“ゼロ”」
 「えぇ、悪逆皇帝ルルーシュ殿」
 変声機を通して聴こえる声は、一年前のゼロとなんら変わりない。口調も、おかしいくらい、自分とそっくりだ。
 彼は、まさしくゼロだ。
 ルルーシュは更に笑みを濃くした。

 「お前、演技上手くなったな」




 無様に壇上を転げ落ちる姿は、なんと滑稽な最期か。
 スザクは、否、ゼロは無慈悲に妹姫に抱かれながら息を引き取ったルルーシュ・ヴィ・ブリタニアを見下ろしていた。
 あの時、倒れていく身体を抱き止めていてやりたかったと思うのは、まだ自分に良心が残っている証拠なのだろう。落ちていく背中に、らしくもなく手を伸ばしそうになって、剣に着いた血糊を振り払う振りをして誤魔化した。
 仮面についた血痕は、風化し黒く染まっていく。皇帝の政治に恐れ戦き、反感を抱いていた組織が、コーネリアの指揮の下、ブリタニア軍を抑えていく。民衆も協力し、公開処刑を控えていた反逆者を解放していく。ナナリーとルルーシュに近づくものは誰一人としていない。

 しかし、丁度道路の中央から歩いてくる人影を見つけて、ゼロは溜息をついた。
 コーネリア・リ・ブリタニア。横に、紅月カレン。種類の違った赤が、しっかりとした足取りで此方へ向かってくる。近づくにつれ、カレンの方は耐えるように視線を伏せていた。
 「…ゼロ」
 ゼロを見上げるなり、コーネリアは鋭い眼光で睨みつけた。ゼロは怯みもせず、コーネリアを見下ろす。
 カレンは何かを恐れているかのように、ゼロとは目を合わさなかった。
 「今、貴様に問おう」
 黒光りするライフルを掲げ、高らかに皇女は謳う。照準は定められていない。
 「…ほう、何を」
 「貴様は、何者だ」
 「私はゼロ。…愚問ですな、コーネリア殿下」
 鼻で笑うように腰に手を当てるゼロに、コーネリアの眉間が更に険しくなる。誰もが二人の対峙を固唾を飲んで見守っていた。彼は、あそこでゼロの姿をしている男は、一体何者なのか。ゼロの正体は衆知、ルルーシュである。それは実際に彼の仮面を脱ぐ姿を目撃した騎士団が一番よく知っている。賑わえば会話など聞こえないくらいの人数が通りに集まっているはずなのに、誰一人として、声を上げる者はいない。まるで誰もいなくなった街のように、閑散としていた。ただ唯一聴こえるのは、幼い少女の嗚咽だけだ。
 「弱者に味方し強者を罰する、人々の救世主。ゼロはその象徴であると、世界にお伝えしたはずだが。
 象徴に個人という概念は存在しない。コーネリア、聡明な貴公は一体どのような答えをお望みか」
 コーネリアは押し黙った。ライフルを下ろし、そして、その眼光も仕舞い込んだ。
 それを合図にか、ゼロは両腕を十字架のように広げ、高らかに声を上げた。
 「人々よ!悪逆皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは今ここに亡びた!世界はフレイヤという脅威から解放される…」
 嘗てルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの所有していた剣を引き抜き、天上へ掲げる。
 「ルルーシュ皇帝の死を礎に、強者が弱者を虐げない、優しい世界を作るため、私は全力を注ごう」
 二度目の歓声が、上がる。
 ゼロ!ゼロ!ゼロ!ゼロ!――皆が救世主の名を讃え、叫び、尊び、死に逝く者を、冷然と突き放した。
 仮面の下で、緑の双眸に涙を浮かべながら、ゼロは笑う。

 コーネリアは気付いていた。彼は自分と話してから一度も、下を、ナナリーに抱かれ、カレンが難しそうな顔で見つめるルルーシュを見下ろしていない。きっと、この後も、この歓声が止むまで、彼が下を見ることはないのだろう。
 きっと、彼を知る者は、ルルーシュとあの男を知る者は、ゼロの正体に気付いている。解放した瞬間、カレンは言った。「あれはゼロだ」と。泣きそうな顔をして、強く断言した。藤堂は何も言わず、苦しげに目を伏せていた。
 真相はわからない。ただ、彼らが何をしようとしていたかというのは、今この状況を見れば、明らかではないか。
 きっと私の読みは当たっている。けれどそれを口にすることは、奴らの覚悟を冒涜することだ。例え、罪人であったとしても、それを、奴らの築こうとしていた夢まで奪う資格を持っているなどと言える程、己は傲慢でも、偽善者でもない。
 世界は救われた。しかし彼らは、一部の人間を、たった少しの人間の心を、救うことはできなかったらしい。
 胸が、痛いのだ。
 たかが自分勝手な同情で気が狂えそうだと、コーネリアは拳を強く握った。



 ルルーシュの遺体は反皇帝派に奪われる前に、夜明けか夕暮れか、暗がりの空の下、しめやかに埋葬された。そこの墓碑に刻まれているのは、彼の名ではなく、彼の騎士であった「枢木スザク」の名が記されている。悪逆皇帝の墓など、建てたところでどうせ扱いは決まっているのだ。それならば、公には海に流したとでも伝えて、誰も掘り返すことがなさそうな無人の墓碑の下に埋葬してやる方がゼロの気持ちは晴れた。今だけは仮面を脱ぎ捨て、口元の黒いマスクだけで、身丈の半分程のシャベルを手に、ゼロは一人墓を荒らした。漸く土から棺の表面が現れた頃には、あたりはすっかり真っ暗で、頭上には星々が煌いている。漸くそこで、ゼロは今が夜であることに気付いた。
 墓碑の下に埋葬されていた、枯れかけの花が詰められた空っぽの棺を見つめながら、ほっと息をつく。傍らに毛布で大事そうに包めていた力の入らないルルーシュの身体を抱き上げ、ゼロはそこに寝かしつけた。ルルーシュの顔は酷く穏やかだ。特に顔の筋肉を後から弄ったわけではないが、きっと、彼は満足だったのだろう。最期に看取られたのが最愛の妹だったからかも知れない。彼女の慟哭を思い出して、ゼロは強く目を瞑った。
 泣いてはいけない。全てわかった上でやったことだ。
 枯れた花に囲まれて眠るルルーシュは、本当にただ寝ているようで、しかし、彼を囲む萎れた花は、彼の死を現実に反映しているようだ。出来ることなら、新しい花を添えてやりたいがそれは出来そうにない。時間はもう残されていない。長らく政庁を空けていれば、不審に思われるに違いないからだ。
 「…君に手向ける花を持たなくて、すまない」
 青白くなった頬に軽く触れると、嘗て主君を失った時のように冷たくて、また目頭が熱くなる。涙が滲むのを堪えながら、ゼロは黒塗りの決して軽くはない棺の蓋を、ゆっくり、ゆっくりと被せていく。金の名札にKURURUGI SUZAKU 2000-2018と刻まれたそれは、やがて完全に外界を隔絶した。表情のない黒をゼロは暫く見下ろして、もう一度シャベルを手に取った。
 土の山から掬ったそれを、ザッ、ザッ、と手早く被せていく。ふと視界の端に、地面にいくつかの染みが出来ていたのが見えたが、それはきっと汗だと、ゼロは手を休めなかった。

 見栄えは少し悪いかもしれないが、枢木スザクの墓は元通りだ。掘り返した土の跡が見られるものの、明日の昼間になれば湿った土も乾いて判別はつかなくなるだろう。
 爪の間が土に汚れ、豆だらけになった手に黒革の手袋を装着し、足元の仮面を拾い上げながら、ゼロは墓碑に刻まれた名を撫でた。ここにルルーシュの名を刻んでやることは出来ない。ルルーシュもそれを望んでいないだろう。寧ろ彼は、きっとゼロは己の身体を海に捨てると思っていたに違いない。ゼロレクイエムにルルーシュの遺体の処分の計画などなかったが、これくらいの自由は許されるだろう。
 やがてゼロは外套を翻し、仮面を被りながら踵を返した。
 土に汚れたシャベルは、庭師から無断で拝借したものだ。夜明けと共にこっそり返しておくとしよう。



 車椅子に座る初代ブリタニア合衆国大統領となった少女は、目の前の黒色を腫れぼったい目で見上げた。この時、ルルーシュの遺体が入ったとされている棺を太平洋の海に沈めた後だった。尤も、中身が空虚だと知っているのはゼロだけだ。
 「思い出話を、聞いて下さいますか」
 仮面の男、ゼロは黙して頷いた。ナナリーは柔らかく微笑んで見せようとしたが、失敗してしまい、結局下手に顔を歪めてしまうこととなってしまった。
 「私の短い人生の中で、一番幸せだった頃は、このアリエス離宮でお母様とお兄様と一緒に住んでいたときです」
 太陽の柔らかな光が降り注ぐバラ園を見渡して、「全く変わっていないのですね」とうっとりと呟くが、その表情に落ちる影はどうしても拭えない。事実ナナリーの手は震えていた。震えながら、フレアスカートの裾を堪えるように握り締めている。ゼロはそれに気付いていたが、特に言葉をかけることはない。
 そんな彼に、ナナリーは「やはり」、と現実を思い知らされるのだ。彼の纏う雰囲気の根本は変わってはいないが、その振る舞いは、以前の彼よりも温度を更に低くしたようなものだ。手を握っても、手袋越しの彼の真意はわからない。自分が手袋を取るように言えば、きっと彼は何も言わず取り去るのだろう。しかし、そうしたことは一度もない。ナナリーにはその手を握られる自信がまだなかった。枢木スザクを殺し、兄ルルーシュを殺した彼の手を握ることは、どうしても。
 「それと同じくらい幸せだと思ったのは、初めて日本に住んだときです。暮らしはこことは全く違って、私はいつもお兄様に頼りっきりだったのですけど…そこで会った私達の初めての友達が、スザクさんでした」
 ナナリーは探るようにゼロを注意深く見つめたが、彼に反応はなかった。
 「スザクさんは、今まで出会った人達とは違って、元気で、人を惹きつける磁石を持っているんじゃないかと思うくらい、不思議な人でした。私はその頃、色々なことがショックで笑えなかったのですが、スザクさんが笑うと、不思議と、私も笑えるようになって。お兄様はびっくりしていました。それから、スザクさんはお兄様もずっと笑っていなかったって教えてくれたんです。私は自分のことに精一杯で、目が見えないとしても、そのことに気付けなかったことがショックでした。けれど、その後、お兄様は笑ったんです」
 声だけしかわからなかったけれど、確かに。
 「それからは、戦争でスザクさんとは離れ離れになってしまいました。お兄様と私は、きっとあの人は生きていると信じていました。それから…もう、二年も前になるのですね。突然スザクさんが学園に転入してきて、本当に、びっくりして。…嬉しかった」
 ナナリーはその時触れた手を大事そうに握り締めた。
 「お兄様も、何かと私を理由に食事に誘っていたようですけど、本当は、お兄様の方が舞い上がってたんです。本当に嬉しそうで、私も勿論嬉しくって。……でも、それもあっという間に…。ブラックリベリオンの後、スザクさんは少し、寂しそうにされることがあって…それでも私は、ユフィ姉様のようにあの方を癒してあげることはできなかった。スザクさんは私達を助けてくれたのに…私はエリア11を昇格させることしか、スザクさんを、助けることはできなかった」
 気付いたら、知らない間に、知らないところで、私の手の届かないところで、全ては後戻りできない方向へと進んでいた。
 「シュナイゼル兄様にギアスのことを聞いて……お兄様がゼロで、人を操っていたことを知って…私は止めなきゃいけないと思いました。たとえ、お兄様やスザクさんを…傷つけることになっても、そのやり方は間違っていると、伝えたかった。
 でも、やっぱり何も知らないでいたのは私の方。
 お兄様とスザクさんはずるいです。…私を置いて、ずっと先に歩いていってしまうの。…スザクさん」
 ナナリーは伏せていた瞳をゼロの仮面へ向けた。
 「私、八年ぶりにお兄様のお顔を見たのです。ずっと昔から変わっていなくて、でも、昔のように優しく笑っていらっしゃらなかった。けれど、最期は、最期は微笑んでくださった。昔と…同じように…。
 でも、私は…私は…スザクさんの姿を知らないんです」
 両手を握り締めているナナリーの双眸からは一筋、二筋と涙が零れた。一度決壊してしまったそれは、もう止めることは出来ない。
 すると、ゼロは漸くナナリーへ身体ごと振り向いた。
 「写真や映像がありましょう」、無慈悲な言葉を、エフェクター越しの声で告げた。
 ナナリーはいいえ、いいえと首を激しく横に振る。
 けれどゼロは、首を縦にも横にも振らずに、冷酷と取られても仕方ないような言葉を吐き続けた。
 「枢木スザクは死んだ。墓碑の下、安らかに眠っていることでしょう」
 ナナリーは涙でぼやける視界の中で、成長したスザクが柔らかく微笑んでいるのが見えた気がした。


 ナナリーは、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアを海に葬った日以来、殆ど弱音は吐かなくなった。
 笑顔で民衆の手に応え、会議に出席し、しっかりと自分の思いや主張を伝える。その際には必ず、事前にゼロとシュナイゼルに提案し、メリットとデメリットを照らし合わせ、自国にとってどうすれば有益となり、不利な状況を回避できるか、同時に他国を卑下することなく、協力という形で話を進めるにはどうすればいいか。こういう時、殆ど頼りになるのはシュナイゼルだ。彼はゼロの命なら何でも従った。ゼロが従うナナリーの”頼み”にも嫌な顔一つせず引き受けた。彼の紫色の瞳は常にギアスの痕跡である赤色で縁取られている。ナナリーはそれを見て哀しげな顔をするが、政治力に置いて、あのルルーシュよりも優れているとされる彼の力は必要だった。けれどナナリーは命令をしない。頼む、という形で手渡す。そしてシュナイゼルのことを、未だシュナイゼル兄様と呼んだ。ゼロは、シュナイゼルと呼んだ。無論、当の本人は嫌な顔一つしない。
 「来月十日、日本で各国首脳会議があります。ご出席なさるのは、今回の議長の合衆国日本より扇首相、合衆国中華より黎星刻、合衆国インドより…」
 文官のスケジュール報告に、ナナリーは二言で頷いた。下がっても宜しいですよ、と促されると、文官は深く頭を下げ、黒革の分厚い手帳を手に執務室を去った。
 文官の声に耳を傾けていたゼロは、ふと背後の大きな窓の外を見遣る。見事な庭が広がる世界に、鳥が何羽か木に止まっていた。緑生い茂る芝生はふかふかしていそうで、きっと寝転んだらすぐにでも眠ってしまえそうだ。シュナイゼルが傍に近寄り、ゼロ様、と声を掛けた。
 「なんだ」
 「昼の休憩時間になりました。ナナリー閣下も、今日の仕事はこれでおしまいです」
 「ああ…そうだったな」
 ナナリーの立派な机の上には、きちんと整理された書類がまとめて置かれていた。今日は特に会議もない。ナナリーにとっては久々にゆっくり寛げる午後となりそうだ。
 「ゼロさん。宜しければ、この後一緒にお茶でもしませんか。シュナイゼル兄様も」
 「ええ、構いませんよ」
 「ナナリー、私は別に構わないのだけどね。ゼロ様、私がご一緒しても宜しいのですか」
 「ナナリー閣下がそう言うのであれば、私は構わない」
 シュナイゼルは仕事以外では、ナナリーのことを妹として接した。余りにも自然だ。考えて見れば当たり前なのかもしれない。彼が強制されていることはゼロの下につくことであり、ナナリーの下につくことではない。だからこそ、ゼロはシュナイゼルを絶対遵守させて置きながら時折疑う。いつか自分の命を破り、ナナリーに刃を向けたりはしないか。ゼロは最初に告げた。「自分は王になる気はない」と。シュナイゼルは承諾した。しかしそれは守られるのだろうか。例え、ギアスの力であったとしても。彼と行動するようになってからかれこれ半年は経つが、未だに不信感は拭えないでいた。
 「けれど、まずはこの書類を届けなければなりませんね」
 「私が行きましょう。シュナイゼル、半分持ってくれ」
 辞書を三冊重ねたくらいの分量はゼロにとってさして重荷ではなかったが、シュナイゼルをここに残す理由を作りたくはなかった。
 「すみません。ありがとう御座います。では、お茶とお菓子を用意をして待っていますね。後ほどラウンジで」
 「ええ、楽しみにしていますよ。…行くぞ」
 「畏まりました」
 きっとこの瞬間、シュナイゼルの瞳に縁取られた赤が一層深まったことだろう。ゼロは振り返りもせずそう思った。

 廊下に出遣ると、進行方向に二つの白の燕尾服を見かけた。ゼロとシュナイゼルは丁度その手前で曲がる予定なのだが、この距離だと鉢合わせは免れないだろう。とはいえ、避ける理由も持ち合わせてはいない。
 ほうら、見てみろ。白の燕尾服を纏った片方の長身が、あからさまな負の感情を曝け出した。それが憎しみか、敵意か、それとも不安かは分からないが、ゼロは彼のこの顔が好きではない。かといって嫌いでもない。それでいい、とどこかで納得しているからかもしれない。
 「これはこれは、仮面の殿方。雑用ですか?」
 九十八代目皇帝陛下の直属の騎士として第九席に名を連ねていた女傑、ノネット・エニアグラム卿はだっはっは、と豪快に笑った。現在は大統領閣下直属のガードとして落ち着いている。それでいて昔からの騎士服を脱ごうとしないところは、やはり強い意志と誇りか。彼女と親しい第二皇女、コーネリアの先輩だけあって、そういうところは似ていた。
 「そのようなものです。急ぎますので、これにて」
 「おやおや、随分連れないですねぇ。そうだ、今度一杯しませんか。貴方と語らうのはとても面白そうだ!」
 「…考えておきましょう」
 「楽しみにしていますよ」
 こういう態度は昔と変わらずで本当に冷や冷やさせられる。なんとなく気迫で押し負かされるのだ。
 去り際に気付かれないよう溜息をついて、後ろを歩くシュナイゼルがくすっと笑ったのを背中で聞いた。
 「エニアグラム卿は苦手かい」
 そういう彼の瞳は赤く縁取られていない。こういう時、ゼロの心臓はいつも止まりそうになる。
 「……ああ、そうだな」

 黒色と白色の背中を見送っていた笑顔をさっと消して、ノネットは頭上の金髪頭を睨みつけた。
 「ジノ、そのあからさまな態度はどうにかならんのか」
 「何かおかしかったですか?」
 「半年前からずっと、お前が正常だったことなどないがな」
 心底呆れたように罵るノネットに、ジノはむっと顔を顰めた。半年前と言えば、ルルーシュがゼロによって殺された時期だ。
 「…一体何が不満だ。彼は窮地に陥っていたお前たちを救った。そして世界をな。お前は、私達はそれが目的で戦っていたんだろう?本来なら感謝こそすれ、なのにお前はゼロを否定する」
 「そんなことは」
 「あるんだよ。こっちもいい加減イライラしてるんだ。そんなことでは、いつか任務にも支障が出るぞ」
 長い脚を大股に開き、態と踵を鳴らしてジノを突き放していく。追いかけるどころか、ジノは段々歩みを止め、ついには立ち止まった。
 段々距離が開き、あからさまに「こっちくんな」と怒っている背中に、ジノは追いかけることを諦めていた。
 「エニアグラム卿は、彼が枢木スザクであるとお思いですか」
 その脚は止まり、彼女は腰に片手をついて肩ごしに振り返った。
 彼女の釣り目が、戦闘中のように鋭敏な眼差しに変わり、全身が無数の針に刺されるような緊張が走る。
 「それが貴様の本音か。ジノ・ヴァインベルグ」
 感情の篭らない、否、静かな怒りしか篭らない声が廊下に響く。
 緊張で手が冷たくなっていくのをどこかで感じながら、外にも聴こえるんじゃないかと思うくらい心臓が脈打つ。
 恐怖だ。
 普段傍に置く者に対して敵意を向けない彼女から、初めて向けられる殺気。自分よりも長くこの道を歩いているその風格に敵う術もなく、ジノは息を詰まらせた。
 彼女が怒っている理由が、本気でわからない。得体の知れない不安感が湧くのを覚えながら、ジノはノネットの言葉を待った。
 すると彼女は、抑揚のない声で告げた。
 「考える時間はたくさんあったろう。なのに貴様はあの日から一歩も進歩していないらしい。
 そんなに認めたくないなら教えてやるが今回限りだ。枢木は死んだ。あいつはルルーシュと手を組んだ裏切り者だ。だから私達が殺した。……そのような愚問二度とするなよヴァインベルグ。実に不愉快だ」
 愚問だと、不愉快だと片付けて、ノネットは颯爽と翻り去った。その強靭な後姿は後を追うことも許さない。
 残されたジノは、彼女の背中が次の角を曲がるまで呆然と立ち竦んでいた。

 混乱していたのだ。
 彼女の言うことは紛うことなき真実である。自分でも頭では理解していたことだったが、彼を、ゼロを見ている内に…否、ルルーシュを殺したときのゼロの姿が脳裏に浮かぶ度に、面影を重ねてしまう。けれどスザクは死んでしまった。自分はランスロットが爆発する瞬間を見て、彼の墓が作られたことも民間の放送局の中継で知った。盛大でいて、どこか寂しい葬式と、ルルーシュによる唯一の騎士を労う演説。そして世界への声明。彼に対しクーデターを行った者は自分を含め、大半が監禁された。そして公開処刑当日、我々はゼロによって救われる。けれどゼロは、ルルーシュだ。しかしあのゼロは、ルルーシュではなかった。
 ゼロの正体は明かされず仕舞いであったが、どちらにせよ世界は安定に向かっている。それでいい。それでいいんだと思っていても、思おうとしても、ジノは先へ進めないでいた。
 ノネットと同様の任を負うものの、これも殆ど成り行きだ。クーデターを起こした時に守りたかった物、あの時確かに自分にとってそれはブリタニアだったのだから、ブリタニアに尽くすのは当然だった。自分自身もそうだと信じて疑わなかった。ルルーシュが死んだ時は、素直に世界が解放されたと喜んだ。
 しかし日に日に、わからなくなるのだ。自分の知らないどこかで、自分が気付いていないうちに、何かが起きていたのではないか。それも、あの時だけではなくて、ずっと前からそれは起こっていたのではないか。
 ただの予感だった。それでも、何故か否定できないでいる自分がいることに、ジノは混乱する。
 自分はどこかで間違っていたのではないかという不安、根拠もないのに。

 「どうして、私が間違っていると思うんだ…」

 ルルーシュは悪だった。彼と手を組んだスザクもそうだ。彼らの暴挙に抗った我々は正しかったはずだ。
 ゼロがスザクだと言うのなら、その根拠は。あの武人の動きは確かに彼なら可能な動きではあった。もしスザクが生きていたとして、どうして彼が共犯のルルーシュを殺すのか。世界を手に入れた王の騎士の権力を捨てるという大きなデメリットがある。しかも仮面を取ろうとしない辺り、不自然だ。恐怖に怯えていた人々による名誉を求めるのなら、素顔を明かすくらいはするのではないか。しかしこれは、ゼロの中身が別人な場合でも言える。素顔を明かせない理由があるはずだ。それが既に死んだ人物であるから、などと極論すぎる。中身がスザクであったとして、ならばどうして、彼はルルーシュ側についていたのか。彼を倒したいのなら、最初から敵対していればよかったはずなのに。

 そこまで考えて、ジノは苦笑した。気がつけば、スザクが生きている場合ばかり考えている。最悪だ。
 結論が出ない思考の海へ溺れるような感覚に、ジノは壁に背中を預けた。
※本編が実は夢でしたーって話。要するに夢オチ。出てくるのはスザクさんとジノさんのみ。

080925 加筆修正 長いので折りました。

 ナイフを心臓に突き刺した。
 呪いが解けたから。
 意外と、痛くて。刃は冷たいのに、身体に入った瞬間、とても熱くて。思わず目を見開いた。涙がボロボロ出てくる。痛すぎて、痛すぎて。

 痛い。

 やっぱり銃弾にすれば良かっただろうか。けれど、銃は、一瞬な気がしてなんだか嫌だった。
 自分が放った銃弾を受けた人間は、眠るように死ぬ。倒れこんで、ちょっとだけ身体をビクビクさせて、目を開いたまま、一瞬にしてどこかに行ってしまう。眠るようだと、僕は比喩する。だから、そんなのじゃ、罰にならない気がした。
 もっと苦しまなければならない。父を殺したときと同じ方法で。僕も、俺も、同じように。目には目を、刃には刃を、だ。

 父さんはさぞかし苦しかったろう。子供の力だ、自分のように的確に急所を狙ったわけでもない。きっと、今感じている痛みよりも、痛かったろう。辛かったろう。殺すにしても、もっと優しく殺してあげられれば。せめて、そうしてあげられれば。あれ、違うな。違う。殺すことに優しいも優しくないもない。殺すということが罪なのに。自分はどこかおかしくなってしまったんだろうか。今までこんなこと、考えたこともなかった。
 死ぬ直前だからかな。だから、父さんがあの時どう思ったか、考えてしまうのかな。それにしたって、今までそれを考えなかったのは、ちょっと変だったかな。今更だけど。

 天井が遠い。目が見えなくなる。ああ、ユフィもこんな感じだったのか。本当に、真っ暗だ。何も見えない。寒い。
 ユフィの手も冷たかった。きっと寒かったんだろう。だからあの時彼女は手を伸ばしたのだろうか。僕はちゃんと彼女の手を温めてあげられただろうか。緊張で手が冷たくなっていなかったと思いたい。
 彼女の昇る場所はきっと暖かいところだと思うから、僕はあまり心配はしていないのだけれど。
 ただ、残念なのは、僕はきっと君と同じ場所には行けないってこと。君に一度でいいから会いたかった。会って、抱き締めて、感謝の気持ちを伝えたいのに。
 死んでもできないんだなぁと思うと、涙が出る。

 ああ、もう泣いてたんだった。

 全身の感覚がなくなっていく。もう何も聴こえない、見えない、動けない。冷たい。寒い。

 いつの間にか、痛みもなくなっていた。僕の死がこんなに安らかでいいのかな。

 これは罰なのに。
 

 少年は項垂れた。コンクリートタイルの地面に両手をつき、肩と膝だけが少年の身体を支えている。やがて、そうしていることすら疲れてしまって、身体を反転させる。後ろのフェンスに凭れ掛かれ、見上げた空は紫色に染まりつつある。何時間、そうしていたのかはわからない。そう思考することすら、少年は疲れきっていた。
 少年を支配するのはただ後悔という感情だけだ。少年は己が罪を犯したことを知っている。その罪の重さも同様に。しかしながら、最後のピースである償う術を少年は得られなかった。罪を贖う術を知らない彼は、ただひたすら過去を思い返しては自責する。唯一の「死」という選択肢を、少年は何年か前に捨て去ってしまった。何度ループしたところで、違った答えは見出せない。

 夜に冷えた風が柔らかい亜麻色の髪を揺らした。一体自分は何をしているのだろう。何がしたかったのだろう。自問自答を繰り返す。
 ある人は言った。「我々は日本人であり、ここは日本の地である。何人たりともこの地と血を穢すことは許されぬ」と。イレブンという俗称を否定し、民族の尊厳を主張する文句だ。終戦して早々立ち上がったレジスタンスが主義主張として掲げていたことをきっかけに、ブリタニアの被侵略者への対応に不満を抱いていた日本人は怒りのままに立ち上がった。しかし、結局は大した武器を持たない民間人の烏合の衆。絶対的な武力による粛清によって、いつの間にかその組織は潰えたが。
 同じ日本人としてその主張に賛同するかといえば、スザクは迷いつつも是と答えるかもしれない。もしかしたら、同じようにレジスタンスとして活動していたかもしれない。

 有り得ない。

 スザクは、きっと自分は「否」と答えたであろうと考える。主張には賛同できる。しかし、武力によって強行的に解決するなど、決して賢い方法ではないということを、少年は身をもって知っていたからだ。

何を思ったかスザジノ♀(スザ←ジノ?)で御座います。苦手な人は要注意。しかも悲恋です。スザユフィ前提だもの。
スザクさんの女体化は許せないのにジノさんの女体化は許せる自分。…あれぇー?
ジノってイタリア人男性名らしいので、一応ここではジーナと名乗らせています。愛称はジノってことにしておいてあげてください。どうせ痛い内容ですから。
 「カレン、今だ!」
 「わかってる!」

 紅蓮がルミナスコーンを突破しようとしているのに息を飲みつつも、意外にも僕の頭は冷静だった。
 ああ、いつの間に君達は仲良くなったのか。随分、阿吽の呼吸なんだな。
 これは嫉妬だろうか。紅蓮が遅いかかってくる。トリスタンが落ちていく。衝撃が襲う。途端に、目の前の紅蓮が、カレンが、憎らしく思えた。

 その場所は僕のものだったはずなのに。僕がいたはずなのに。僕が、僕が。

 その思考に気付いて、僕は面白いと笑った。この身も力も全てユフィに捧げると決めていたのに、これは嫉妬だ。
 今となっては懐かしい、まだシャルルの騎士であった頃。遠征では、どのナンバーよりも、ジノと組む場合が多かった。彼とはやりやすかった、と思う。いや、わからない。他のナンバーと組んだことは殆どなかったから、勝手にそう思い込んでいたのかもしれない。ただ、彼と組むことは苦ではなかった。時々、戦闘中に軽く冗談を言うから、少しハラハラさせられる部分はあったと思う。

 でもそれももう、昔のことなんだ。ジノのことを完璧には切り捨てられなかった。彼女と同じように、僕の心に踏み入ろうとしてくれた彼を、自ら切り捨てる術なんて持っていなかったし、持っていたとしても出来っこなかった。

 きっと何も知らないでいれたら。ルルーシュのギアスのことや、シャルルやマリアンヌの野望、その暴走が引き起こしたことを知らなければ、きっと今でも僕はルルーシュを憎み続けていただろう。許したわけではない。けれど、何も知らなければ、きっと今頃は、こんな場所で、こんな状況にはなかったはずだ。

 紅蓮の有線輻射波動の右腕が伸びる。どうにか避けて、MVSを振り翳した。トリスタンはもう見えない。
 上手く脱出できていればいい。

 ダモクレスにハッキングした通信はまだ寄越されていない。ルルーシュはまだ、梃子摺っているようだ。
 まだか。まだか。焦りが募る。ルルーシュ、早くしてくれ。気持ち悪いんだ。早く終わらせたい。全てを。


 明日がほしいと僕らは叫ぶ。けれどその先に僕らはいない。最後まで矛盾している。けれど、それは必要なことだ。

 きっとジノと会話するのもこれで最後なのだろう。最後の戦友との会話が、アレとは、滑稽だ。だが自分には相応しい。


 さあ、胸の辺りで疼く気持ち悪いものが下へと操縦桿を突き動かさないように。早く。

 ごうんごうん、ごうんごうん。

 洗濯機の荘厳な音が静かな朝の食卓に響く。二人は慣れた様子で、食後のコーヒーを嗜んでいた。
 底が見え始めたマグカップの中を覗き込みながら、ヒルダは次のように呟いた。
 「そろそろ、名誉申請しない?」
 スザクは新聞を眺めていた視線を「何事か」という目でヒルダに移した。一方、ヒルダは残りのコーヒーをぐっと飲み干して、マグカップを皿の傍らに置いた。
 やっと視線が交差することになり、スザクは掠れた声で小さく「今、なんて」と呟く。開けっ放しの窓からは少しひんやりとした風が入り込んだ。起き抜けでふわふわなハニーブロンドの髪が小さく揺れる。
 「あんた、ずっとこのままでいるつもりなの」
 と、無感動にヒルダは付け足した。
 発育途中の小さな手は痙攣するように震えている。スザクは混乱していた。今、この人は一体何を言ったのだろう。
 名誉ブリタニア人になれ、とそう言ったのだろうか。

 殆ど毎日、租界からゲットーへ時々食料や日用品を持ってきてくれる恩人。
 時折酔っ払って帰ってくるから、既に第二の家と化している。
 翌日は二日酔いのせいでなかなか起きてくれないから、とりあえず10時までは寝かせてあげて、そして起こす。
 朝食をもてなして、他愛のない会話をして、彼女が自宅に帰り、そして一日が終わる。

 今日も同じパターンで一日が始まると思っていた。

 なのに、


 ガタンッ!

 イスが大きな音を立てながら後ろ向きに倒れる。
 自分よりも高くなった目線に、ヒルダは怯むことなく真っ直ぐに応えていた。その視線が痛くて、スザクは強く目を細める。
 「……うして…?」
 「何が」
 「いまさら、そんな…!」
 唇が震えているせいで、声が頼りない。いつも落ち着いている彼がらしくもなく動揺しているのを横目に、恩人は「今更じゃないわ」と切り返した。
 「そろそろ潮時なのよ。頼り切りってわけじゃないけど、今は私が生活を庇護している状態なのはわかっているでしょう。別に私は、スザクが働きもしないぐーたらだって言ってるわけじゃない。ブリタニアの会社はなかなかイレブンを雇おうとはしないわ。雇ったとしても、信じられないくらいの低賃金。それに、まだ子供のあんたを雇ってくれる会社なんてない。だからこそ、私はあんたを途中で道端に捨てるようなことはしたくない。するつもりもない」
 「…意味がわからない」
 顔を俯けるスザクに、ヒルダはふわりと笑った。
 「租界で一緒に住もう、スザク」
 俯いたまま、翡翠の瞳は大きく見開かれる。ゆっくりと、ゆっくりとした動作で顔を上げ、目の前の存在を視界に捉えた。ヒルダはもう一度、同じ言葉を口にした。
 「私と一緒に住もう」
 は、は、とスザクの口が酸素を求めるように動く。やがて肩は震えだし、顔をくしゃりと歪め、身体に憑こうとしている悪魔でも振り払うかのように、大きく頭を左右に振った。緑色に包まれた瞳孔は恐怖と絶望に伸縮を繰り返した。頭の中で目まぐるしく回る過去の情景。幸せだったあの頃。何も知らないでいたあの頃。まだ自分は日本人だと誇れていたあの頃。その宝物さえ、つまらない、無垢で、幼稚な理由で壊してしまった罪。腹に刺さったナイフを抱くようにして背を曲げる父。呻きながら呼ばれた名には憎悪か、苦痛か、どちらもかが混ざっていただろう。
 租界入り、名誉ブリタニア人になるということは、“元日本人のイレブン”という名をも失うということだ。名などどうでもいいではないか、と言われるだろう。事実名誉ブリタニア人であれ、元ナンバーズに対する風当たりは甘くない。ブリタニアの国是故、きっとこれからもそれが改善されることはないだろう。しかし、スザクにとってそれが問題というわけではなかった。
 もう日本人と名乗れないのなら、せめて、イレブンと。そんな浅墓で何の徳にもならない、否、民族としての矜持は守れるのだろう、とにかく、スザクはひたすらそれを欲に従順な亡者のように抱き締めていた。しかし、この少年にとってそれは矜持を守るためではない。

 無理だ、そんなの、できるわけがない。その権利がない。頭の中で拒否する自分自身の声が響く。それでも喉を通してそれが音になることはない。とうとう涙で視界が滲み、スザクはダイニングを飛び出した。短い廊下を走り、靴も履かずに、裸足のまま玄関のドアを開け、まだ少し肌寒い外へ飛び出した。
 コンクリートの地面を走り、団地の階段を上へと駆け上がる。ただ我武者羅に、息をすることも止まることも忘れるくらい、我武者羅に。

 そして辿り付いた屋上のフェンスに勢いよくぶち当たって、手が白くなるくらい網状になった針金を握った。

 「あああああああああああああああああああああああ!!!!」

 子供の悲痛な叫び声を聞いて、下の階の部屋で取り残されていたヒルダは、寂寥に目を閉じた。

 

 二日程して、拾った子犬は熱を出した。息は荒く、粥を喉に通すのもきつそうに見えた。医者に診せるのが最善だが、ここは租界に近しといえど、租界ではない。ゲットーに医者などいるわけもなく、ましてやイレブンであるスザクを連れて租界に入ろうとすれば問答無用で追い出される。治療を受けられずに死んでいくなど、矯正エリアによくあることだ。それがエリア11の実情なのだ。
 熱に侵されているせいか、スザクはよく魘された。時折馴染みのない言語で何かを呟いている。きっと彼の母国語なのだろう。ネイティブスピーカーに知り合いがいないヒルダには、イレブンであるスザクのうわ言など聞き取れないのだが、きっと嫌な夢に違いなかった。それと眠っている間、結構な頻度でスザクは暴れた。何かを恐れるように無意識下で絶叫を張り上げ、その四肢でシーツに盛大な皺を作る。最初の方は握らせていた懐中時計は、スザクが気を失ってからはベッド脇のデスクに置かれている。いつ暴れるかわからないこの状態で凶器を持たせることはスザクにとっても、その度に押さえつけるヒルダにとっても危険だ。
 終戦後、間近で戦争を体験した者はその時の情景をよくフラッシュバックするのだという。女性の手で握ると一周半してしまえるくらい細い両手首を押さえつけては、苦悶の表情で涙を流すスザクの目を覆うように濡れタオルをかけてやる。それが、三日くらい続いた。


 奇妙な同居生活から六日目の朝。カチャカチャと皿がぶつかる音がして、ヒルダはベッドの上で目を覚ました。起き上がって頭を覚醒させると、水の流れる音も聞こえる。隣で寝ていたはずの少年はいない。焦ってシーツに触ってみたが、温かみはなかった。まさか、と軽く目を見開いてベッドを降り、ダイニングへと向かう。
 小さな身体が、テーブルとセットになっていた椅子に膝をつき、こちらに背を向けている。脇越しに見え隠れする皿は、少年が食べ切れないでいた米粥が残っていたものだ。
 気付かないうちに少年が失踪していたことに緊張していたようだ。ほっと胸を撫で下ろす。
 「…食べられたのね」
 溜息交じりに呟くと、少年の手は止まった。水を止めて、ゆっくりと少し頬のこけた幼い顔が振り向く。
 「…おはようございます…」
 声はまだ少し変だったが、少年、スザクは未だに表情筋をぴくりとも動かさないでいる。

 「病み上がりなのにいきなり動いちゃダメでしょ。起こせばよかったじゃない」
 スザクの手から皿を取り上げ、乾燥機の中に入れる。呆れたといわんばかりに溜息をつかれて、スザクは顔を俯けた。弁明も反論もせずにじっとしているそいつの亜麻色の髪を強引に掻き揚げて掌を当てる。昨夜よりは大分マシになっているようだがまだ熱い。
 「まだ本調子じゃないくせに。お皿だってそのままでよかったわよ」
 「……家事と、洗濯と…掃除…」
 ぼそぼそ、とスザクは視線を泳がせる。
 「…しなきゃいけない、から」

 ―――私があんたを引き取ったげる。その代わり、あんたは家の炊事洗濯掃除全部するのよ。オーケイわかった?

 ああ、そんなことも言った気がするなあ、とヒルダは他人事のように思い出していた。決していい加減な冗談で言ったわけではないが、それは時と場合によるのではないだろうか、と視線を逸らすスザクを見下ろす。最初の頃より意思疎通が出来るようになって楽といえば楽だが、やはりこの子供は扱いづらい。拾った人間が言うのは最低だと思うけれど。
 「誤解しているようなら言っておくけど、私は別にあんたのこと奴隷にしようと思って拾ったわけじゃない。取って食おうとも思わないわ」
 だから自分が苦しいときに頑張る必要はない、とヒルダは真剣に念を押す。
 すると、スザクは無感動な瞳で漸くヒルダを見上げた。相変わらず表情筋は動かない。
 「言うこときかないからって簡単に捨てたりもしないわ」
 「…他人、しかも……僕、は…イレブンなのに、」
 「もし私があんたを疎ましく思ってるんなら、こんなに世話焼かないはずでしょう」
 スザクの言葉を遮り、きっぱりと言い切ってやれば、少年は黙り込んだ。これ以上何か言えばたたじゃおかない、という彼女のオーラを読み取ったのかもしれない。話はおしまい、と小さな肩を押し、寝室のベッドに戻らせる。スプリングの効いたベッドは小柄すぎるスザクが体重をかけてもびくともしない。安い(とはいってもイレブンには破格の値段だ)集合団地の申し訳程度の備え付け家具であるから、ヒルダでさえ寝苦しいと感じるくらいだ。だからといってソファで寝かせれても治るものも治らない。
 「水と氷入れてくる。アイスノンも変えなきゃね」
 小さな頭を持ち上げて回収した頼りなくなったアイスノンと洗面器を手に、ヒルダは寝室を去った。


 奇妙な関係だと、思う。
 親子でもなく、師弟でもなく、もちろん恋人など論外だ。家主と居候。しかもブリタニア人とイレブン。ヒルダ・ログリエが枢木スザクを拾って既に三年も経ってしまっていた。
 月日は早いもので、トウキョウ租界を始め、エリア11の各々の都市に租界が建設され、ブリタニア人居留地が拡大されていく中、エリア内のブリタニア人口は圧倒的に増加した。逆に、イレブンの人口は年々減りつつあった。身体の弱い年寄りや子供は不衛生な環境の中、疫病に悩まされ医者にかかれず死んで行く。男女は子作りよりもいかにして自分を守るかに必死だ。人口が増えるわけがなかった。その点では、三年前と余り変わっていないのかもしれない。
 名誉ブリタニア人制度というものがある。元々ブリタニアの国籍を持っていない人間が、ある一定の試験と検査を受け、ブリタニアに忠誠を誓い、そして二級市民の生活水準が保障されるという制度だ。
 実際、この試験に受かることは容易ではない。盛り時の若者であれば言語も歴史も一生懸命勉強さえすれば合格できるものだ。しかし、長年亡国に長く生きた年寄りには道が閉ざされていた。しかし、それくらいの年代であっても名誉ブリタニア人の異民は大勢いる。その大部分は、財産や権力をブリタニアに売って得たものだ。それなりの財力があれば試験を受けずとも、一級市民、つまりは貴族の地位を得ることも可能とされていた。つまりは、皇族相手の賄賂だ。
 実際にスザクはその現場を目撃している。とある財閥が用意した帝国への供え物は、自分も含まれていた。
 

 「ヒルダさん、朝だよ」 
 シーツを膨らませたベッドの傍に立ち、通った声で呼びかける。しかし、シーツはもぞもぞと動くだけで中々おきようとする気配はない。スザクは溜息をついて、もう一度声を掛けた。
 「ヒルダさん。昨日フレンチトースト食べたいって言ったろ。折角作ったのに冷めたら美味しくないよ」
 「んー…あと五分…あたまいたい…」
 「昨夜調子乗ってお酒飲みまくったからからだろ。ほら早く起きて」
 無情にもスザクはシーツを剥ぎ取った。現れたのは上に大きめのシャツ一枚に下は下着のみというあられもない格好をした年頃の女性。普通の男なら見た瞬間真っ赤になって顔を逸らすか襲うかだが、かくいう歴とした思春期の男児であるスザクは意外にも慣れっこだ。最初の方は酷かった。昔は真っ裸で寝られたこともあったが、流石にそれは駄目だとスザクが言った後、何か身に着けていてくれただけ今はマシだ。そりゃあ、少しは興味はあるが、そんなことをすれば殺されるばかりか身体をばらばらにされて焼却炉行きだろう。それだけは勘弁願いたい。
 「もー…寒い!返してよー」
 「ダメ。ほらさっさと起きて何か履く」
 「うー…頭痛い…スザクたすけてー…」
 寝ぼけながら、ヒルダはベッド際に立っているスザクの腰に抱きついた。途端、スザクの顔は真っ赤になる。
 「ヒルダさん!離れて!」
 「やー」
 「胸、胸当たってるから!」
 「あーら私のおっぱい欲しいのー?スザクたんたらえっちねー」
 まだ酔ってやがるのかこの女、とスザクの真っ赤な目尻は涙を溜めながら引きつった。





-----------------------------------
ちょっとずつ書き足していきます。
スザクたんって言わせてみたかった。(私が!
 「無理だよ」
 淡々とスザクは呟いた。ジノは眉間に皺を寄せて唇をかみ締める。どんな問いかけを投げかけても、スザクは一辺倒に冷たくあしらった。否、本人の本心なのだ。あしらわれている、と思いたいのはジノの方だった。
 「…フレイヤの件は、公的に裁くことは出来ない。あれはシュナイゼル宰相閣下の勅命だった。お前が気に病む必要なんてない」
 「なら訊くよ。それは君の本心かい?」
 翡翠の瞳は、見定めるようにジノを見上げた。それはただの欺瞞だと、言外に訴えられている気分だ。ジノは否定しなかった。確かに、フレイヤが起こした被害は甚大だ。予告も警告もなく、逃げ遅れていた民間人、現地で戦っていた軍人、総督までも葬ったそれを、一個人として正当化するのは難しい。だがそれ以上に、ジノはスザクがフレイヤを自分の身を守る為に撃ったという事実を認めることが出来なかった。コックピットから引きずり出して「なんて馬鹿なことをしたんだ」と怒鳴りつけて殴ってやりたかった。あの時、退避という選択肢を選んだとして、マシンポテンシャルが違いすぎる第八世代ナイトメアフレーム相手にスザクが無事で済むとは到底思えない。
 しかし、通信記録を見ると、スザクは「撃たない」と直前まで否定していた。なのに、次の瞬間、乗っている人が変わったんじゃないかというくらいの変わり身で躊躇いなくフレイヤを放った。その事実に、ジノは混乱している。
 「違うだろう。僕を庇ったって君の気持ちが晴れるわけじゃないよ」
 「そんなつもりはない。ただ私は、真実が知りたいだけだ」
 「真実?見たままじゃないか。君の見たままが真実だ」
 「違う!」
 ジノは頭を大きく振って否定した。そんな彼を見て、スザクは不快そうに顔を歪めた。
 「私だってわかっている。現実逃避だと言いたいならそう言えば良い。けどな、私はどうも納得できない。撃たないとあれほど言っていたお前が、撃つはずはない。撃つつもりなんてなかったはずなんだ。あれだけナナリー殿下を守ろうとしていたお前が」
 「どうしてそんなことが言えるんだ。君は僕じゃない」
 「ああ。でもどうしても、納得できない。…お願いだ、教えてくれスザク。あの時、お前に何が起こった?」
 これが最後だ。真実を言ってくれ。ジノは懇願した。目の前の自分より小さい肩に両手を置いて、項垂れた。
 スザクはどこかジノの先の遠くを見つめ、暫く沈黙した。頼む、とジノの肩が震える。スザクはもううんざりだ、と小さく溜息をついた。
 「何も」
 その瞬間。ジノの視界は一瞬にして真っ暗になった。 

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冷たい枢木さん。
僕は元から壊れているからね!ロロっぽいけどスザクっぽい。スザクさんならいいなぁ。
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