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人生自分満足可其充分
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 マオの謀略の後、スザクはらしくもなく憔悴しきった様子で、ルルーシュの部屋のベッドに倒れこんだ。彼は軍の宿舎に戻るつもりでいたらしいが、それを引き止めたのはルルーシュだ。どこか、一人にしてはいけない気がしたのだ。ナナリーは既に自室に寝かしてある。彼女も長く緊張状態が続いたせいか、昼間だというのにすぐに寝息を立てた。後のことは咲世子に任せてあるし、大丈夫だろう。
 「…ルルーシュ、ナナリーについててあげなよ」
 先程から、シーツを身体に掛けずにいるスザクはずっとこう訴えている。しかし、何度もルルーシュは首を横に振った。
 「お前が寝たら、そうする」
 「僕は大丈夫だから。ナナリーが不安がるよ。怖い夢でも見て、起きて君が傍にいなかったら、あの子が可哀想だ」
 それはお前だろう。ルルーシュは口に出すことなく毒吐いた。きっと彼の頭の中には、七年前の情景が走馬灯のようにぐるぐる巡っているに違いなかった。その証拠に、スザクの両手は固く握り締められている。そのことに本人が気付いていないから、ルルーシュは心配なのだ。
 昔、七年前の俺ならば、こんなことで、と鼻で笑ったかもしれない。スザクは強いんだから、と無条件に信じ込み、このように扱うこともなかっただろう。あの暴君が悪夢に怯える?有り得ない。きっとそう思ったに違いない。
 けれど時は過ぎた。七年という長い月日。あの頃、自身やナナリーのことで精一杯だった俺には、今のスザクの苦しみがよくわかった。自分も、母が死んだことをトラウマに悪夢を見たことは数々ある。ナナリーなどきっとその比ではないだろう。何せ、あの子は目の前で母親を殺されたのだ。安定しているという方が、間違っている。
 しかしスザクはどうだ。再会した時、こいつは酷く安定していた。と思う。物腰は相変わらずだが、口調や表情が記憶と食い違っている違和感を感じつつも、そんな場合でもないことに関わらず、俺は素直にスザクが生きていたことに喜んだ。軍に入っていたのは気に入らないが、ああ、ちゃんと笑っている。元気にしていたのかと。
 それも今となっては見当違い甚だしい。
 スザクはあの時何故、黙って撃たれたのか。不意打ち?いや、マシンガンの弾を避けれる男が、まさかすぐ背後の殺気や銃口に気付かなかったわけがないのだ。ならば、相手が上司だったから?抗議くらいしたはずだ。しかしスザクはしなかった。気付かない振りをした。

 あの時、スザクは己が撃たれることを分かっていたのだ。

 考えた末の結論に、ルルーシュは膝の上で組んでいた両手をきつく握り締めた。悔しくてたまらない。スザクの口から聞く前に、スザクがそれを話す決心をする前に、事故であったが、他人を媒体にしてスザクの触れられたくない部分に土足で踏み入ってしまったことが、許せない。
 現実問題、あの時からスザクはルルーシュに対してずっと怯えている。ルルーシュが「誰にも言わない」と言ったことを疑っているわけではないが、彼の根本が、ルルーシュを遠ざけたがっている。
 それに気付きつつも、ルルーシュは彼の好きなようにやらせるわけにはいかなかった。自分の場合は、同じ傷を負うナナリーがいたからまだ正気を保てたのだ。しかし、スザクは。
 彼にそのような人間がいれば、きっと、ここまで怯えることなどないはずなのだ。

 「…七年間。ずっと一人で背負ってきたのか」
 びくり、とスザクの肩が分かり易く縮こまった。言ってしまってから、ルルーシュは後悔したが、このまま何も話さないでいたら、これから先ずっとこの話題を持つことなど出来ないと危惧した。だからルルーシュは続けた。
 「俺は、お前がこの七年間何をしていたかは知らない。七年前、俺達が別れるとき、お前、何か言いたかったんだろう。でも言えなかったんだよな」
 「違う、ルルーシュ。僕は君達を信用していなかったわけじゃない…」
 「わかってるよ。わかっているから、落ち着け」
 上体を起こしたスザクを、ルルーシュはベッドへ押し戻した。
 「俺は…俺は殺すつもりなんてなかったんだ…」
 瞳を虚ろにして、スザクは天井を見上げた。視界にルルーシュの姿は映らないが、ルルーシュはスザクの右手を握り締めた。その手が握り返してこないことに、ルルーシュは悲痛になる。
 「戦争が嫌だった…たくさん死んでいくんだ。日本人も、ブリタニア人も、たくさん死んでいく…僕もルルーシュもナナリーもいつか殺されるんじゃないかって、ずっと怖かった……だから、父さんが、皆に戦えって命令する父さんさえ説得できれば、戦いは終わるって、本気で思ってた」
 そしたら、ルルーシュもナナリーも死なずにすむんだ。
 掠れた声が酷く幼い。ルルーシュは「うん」、と肯定とも否定ともとれないような曖昧な相槌をついた。
 事実上、枢木ゲンブの死により、戦争は終わった。幼かったスザクの考えは間違いではなかった。しかし、ルルーシュの回転の速い頭は、それだけでは駄目だったという結論に至る。頭を失った国は、相手国の体の良い玩具だ。エリア11のナンバーズの人権は他植民エリアと比べれば戦後七年経ったとしても、最低レベルだ。世界有数のサクラダイト産出地であることや、未だ日本軍に力を残したまま無理矢理終戦してしまったため、レジスタンス活動があまりに頻繁であるということも要因の一つではある。

 けれど、それは――
 「みんな僕のせいだ」
 スザクは左腕で自らの顔を覆った。きっと隠された彼の顔は、泣きそうに歪んでいるのだろう。
 「違う」、ルルーシュは真っ向から否定した。
 「それは違う。スザクのせいじゃない。お前が日本を貶めたなど、あるわけないだろう」
 「全ての原因は僕だ…」
 「日本の負けは避けられなかった。それは、スザクだってわかっていたはずだ。お前がどうこうした、しなかったからってその結果は変わらない」
 「でも、交渉の場は持てたはずなんだ…」
 「京都が持ったんだろう。反枢木内閣派の。……その結果が、今のこの状況なんだよ、スザク。お前のせいじゃない」
 お前はよくやった、などと言えるわけもない。スザクは悔いているからこそ、名誉ブリタニア人になり、軍人になった。ルルーシュとしては、すぐにでも辞めて欲しいと思う。しかしこれはきっと彼が課した自分への罰なのだ。
 もし、日本が普通に負けていたら。否、枢木ゲンブの謀略により、ブリタニアに売られていたら。ルルーシュはそれを知っていた。だから七年前、自分は薬を含まされ、ナナリーは連れ去られた。スザクはこれを知っていただろうか。枢木ゲンブ自決のニュースが飛び込んできたとき、スザクはおかしくなかったか。スザクに助けられたのだと言っていたナナリーは、その後のスザクの様子の変化に敏感に気付いていた。俺自身もそうだ。いつも元気でよく喋るスザクが、ゲンブの死を耳にする前から、随分大人しくなっていた。ならば、あの時だ。あの時、既にゲンブは死んでいた。スザクに殺されていた。

 おかしい。
 何かが食い違っている。

 スザクは、まだ俺に何かを隠している。そんな気がしてならない。

 七年前。ブリタニアと日本が緊迫状態にあり、その頃太平洋及び東シナ海上にて戦争が開始された頃。

 薬の効き目が切れて目を覚まし、外に出ればすぐにナナリーは見つかった。外は雨が降っていた。俺は泥まみれになりながら縁側に佇む車椅子に駆け寄った。何があったと問えば、ナナリーはわからない、と首を横に振った。スザクはどうした、と訊けば、どこかに行ってしまってわからない。足音が雨にかき消されてわからなくなったと不安げに答えた。今までどこにいたんだ、と尋ねると、ゲンブ様とお話していたとナナリーは答えた。そうだ、これは枢木の、ゲンブの策略だ。そう思い出した俺は、泥だらけの靴を脱ぎ捨てて縁側を走った。
 結局、自力でスザクを見つけることはできなかったが、あそこで俺は、見覚えのある老師を見た。
 桐原泰三。そして、藤堂鏡志郎。その二人が黒塗りの車に乗り込むところを目撃していた。

 その日の内にスザクに逢えることはなかったが、次の日、尋常じゃない様子のスザクは蔵を訪ねてきた。
 そして突然の、本家行き。

 そうだ、あの時だ。
 ならば、スザクは。こいつが本当に責めるべきは。

 スザクの手を握るルルーシュの手が、小刻みに震える。
 スザクはいつの間にか眠ってしまったのか、それに気付くことはなかった。ルルーシュは息を呑んで、彼の顔を覆う左腕を外させ、身体にシーツを被せてやった。
 目尻には涙の跡がある。きっと泣いていたのだろう。それを見て、ルルーシュは胸が張り裂けそうだった。ルルーシュは気付いてしまった。スザクの罪の根本に、我々兄妹が存在していたのではないかという可能性に。

 「すまない、スザク」
 もう力んでいないスザクの右手を額に当てて、ルルーシュは神に懺悔するように許しの言葉を紡いだ。
 枢木スザクという存在を破壊してしまった一端を担っていた。否、根本を担っていたかもしれないという事実は、ルルーシュの胸の中に納得という言葉と共にストンと落ちた。そして湧き上がってきたのは、罪悪感と、守られていたことに気付いていなかった自分への怒りと、他人事にように彼を励まそうとしていた自分のおこがましさを呪った感情だ。
 「すまない…すまなかった…」
 なぁ、俺達のこと恨んでないのか。声にならない問いを、ルルーシュは投げかけた。
 きっと彼は、「まさか」と言うのだろう。自分達を恨まずにいられる彼は、どうしようもないくらい強かった。この根本的な部分だけは変わらないでいてしまった。
 しかし同時に、ルルーシュにはその恨み言受け入れる強さなど持ちえていないと痛いくらいわかってしまった。

 卑怯だと思う。言葉にさせる機会を与えることもしない俺は、こうしてスザクが眠っている間に懺悔する俺は、どうしようもなく卑怯だ。

 外はいつの間にか、激しい夕立が降り続いていた。




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