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人生自分満足可其充分
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 あなたには選択肢があります。
 あなた方は本来、意思を持ち、持たぬもの。過去、あなた方はしっかりと形を保てる血が流れていた。国民という血が。
 しかし今となっては、それを維持するのも難しい。維持できなくなれば、あなたは滅びる。死ぬのです。
 人のように本来寿命のないあなた方の命は土地に繋がれたものではなく人に繋がれていた。国という概念があればこその存在でした。
 本来あなた方は意思などなかった。感情もない。真っ白な存在で、色がついたように見えるのはただの錯覚。
 だから、苦しむことなど何もない。元の状態に戻るだけで、何も変わらない。

 「さあ、どうします?」
 「…それはおとぎ話か、本田」
 「いいえ、本当です。私はかつて、これを選びました。そう遠くない昔の話です」
 本田は小さく笑った。嘘をついているのか、そうでないのかはよくわからない。
 俺が怪訝にしていると、本田は両手を差し出した。
 「本田?」
 「私は真っ白になったのは、私の基盤となる全てです。記憶はそのまま受け継ぎました。力は全て失いましたが、すぐに取り戻せました。その代わり手に入れたのは、自由でした」
 「自由…?」
 「あなたは既に持っていたと思いますよ。でも私にはそれがなかったんです。だから、手に入れました」
 「それは、今もか?」
 「さあ…でも、昔ほど不自由ではないかもしれませんね。でも、この世界は息がしづらい。それはどこでもそうでしょう?」
 自殺とか、もうそう驚くことじゃないですしね。さらっと本田は恐ろしいことを口にした。
 何が自由で何が不自由なのか。これまで俺は俺自身を不自由だと思ったことはほとんどない。
 「…悪いが本田、抽象的すぎてわからない」
 「簡単に言いますと、今の私は昔の私とは別人なんですよ」
 「…ますます意味がわからない。お前はお前だろう」
 「あなたと同盟を調印したのは『私』ではない、と言ったらわかりますか?」
 「本田…?」
 「記憶はあるんです。あのときあなたが淹れてくれた紅茶、美味しかったんでしょうね。パノラマのようによみがえるんです。普通、人間は懐古するものでしょう?私たちも例外じゃない。でも、私にとってはただの映像でしかないんです。多少感情移入できたところで、私は部外者なんです」
 「待ってくれ。本当に何を言っているのか、わからないんだ」
 「…あなたが選べばわかるようになりますよ。あなたはどちらを選びますか?」
 「どちらって…」
 「“国”として生き続けるか、“国人”として生き続けるか。
 私は、“国”を選んだ。人としての私は、邪魔だったんです。でないと…」

 (あの時の憎悪を消化することなどできなかった)
 

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