ナイフを心臓に突き刺した。
呪いが解けたから。
意外と、痛くて。刃は冷たいのに、身体に入った瞬間、とても熱くて。思わず目を見開いた。涙がボロボロ出てくる。痛すぎて、痛すぎて。
痛い。
やっぱり銃弾にすれば良かっただろうか。けれど、銃は、一瞬な気がしてなんだか嫌だった。
自分が放った銃弾を受けた人間は、眠るように死ぬ。倒れこんで、ちょっとだけ身体をビクビクさせて、目を開いたまま、一瞬にしてどこかに行ってしまう。眠るようだと、僕は比喩する。だから、そんなのじゃ、罰にならない気がした。
もっと苦しまなければならない。父を殺したときと同じ方法で。僕も、俺も、同じように。目には目を、刃には刃を、だ。
父さんはさぞかし苦しかったろう。子供の力だ、自分のように的確に急所を狙ったわけでもない。きっと、今感じている痛みよりも、痛かったろう。辛かったろう。殺すにしても、もっと優しく殺してあげられれば。せめて、そうしてあげられれば。あれ、違うな。違う。殺すことに優しいも優しくないもない。殺すということが罪なのに。自分はどこかおかしくなってしまったんだろうか。今までこんなこと、考えたこともなかった。
死ぬ直前だからかな。だから、父さんがあの時どう思ったか、考えてしまうのかな。それにしたって、今までそれを考えなかったのは、ちょっと変だったかな。今更だけど。
天井が遠い。目が見えなくなる。ああ、ユフィもこんな感じだったのか。本当に、真っ暗だ。何も見えない。寒い。
ユフィの手も冷たかった。きっと寒かったんだろう。だからあの時彼女は手を伸ばしたのだろうか。僕はちゃんと彼女の手を温めてあげられただろうか。緊張で手が冷たくなっていなかったと思いたい。
彼女の昇る場所はきっと暖かいところだと思うから、僕はあまり心配はしていないのだけれど。
ただ、残念なのは、僕はきっと君と同じ場所には行けないってこと。君に一度でいいから会いたかった。会って、抱き締めて、感謝の気持ちを伝えたいのに。
死んでもできないんだなぁと思うと、涙が出る。
ああ、もう泣いてたんだった。
全身の感覚がなくなっていく。もう何も聴こえない、見えない、動けない。冷たい。寒い。
いつの間にか、痛みもなくなっていた。僕の死がこんなに安らかでいいのかな。
これは罰なのに。