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人生自分満足可其充分
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 二日程して、拾った子犬は熱を出した。息は荒く、粥を喉に通すのもきつそうに見えた。医者に診せるのが最善だが、ここは租界に近しといえど、租界ではない。ゲットーに医者などいるわけもなく、ましてやイレブンであるスザクを連れて租界に入ろうとすれば問答無用で追い出される。治療を受けられずに死んでいくなど、矯正エリアによくあることだ。それがエリア11の実情なのだ。
 熱に侵されているせいか、スザクはよく魘された。時折馴染みのない言語で何かを呟いている。きっと彼の母国語なのだろう。ネイティブスピーカーに知り合いがいないヒルダには、イレブンであるスザクのうわ言など聞き取れないのだが、きっと嫌な夢に違いなかった。それと眠っている間、結構な頻度でスザクは暴れた。何かを恐れるように無意識下で絶叫を張り上げ、その四肢でシーツに盛大な皺を作る。最初の方は握らせていた懐中時計は、スザクが気を失ってからはベッド脇のデスクに置かれている。いつ暴れるかわからないこの状態で凶器を持たせることはスザクにとっても、その度に押さえつけるヒルダにとっても危険だ。
 終戦後、間近で戦争を体験した者はその時の情景をよくフラッシュバックするのだという。女性の手で握ると一周半してしまえるくらい細い両手首を押さえつけては、苦悶の表情で涙を流すスザクの目を覆うように濡れタオルをかけてやる。それが、三日くらい続いた。


 奇妙な同居生活から六日目の朝。カチャカチャと皿がぶつかる音がして、ヒルダはベッドの上で目を覚ました。起き上がって頭を覚醒させると、水の流れる音も聞こえる。隣で寝ていたはずの少年はいない。焦ってシーツに触ってみたが、温かみはなかった。まさか、と軽く目を見開いてベッドを降り、ダイニングへと向かう。
 小さな身体が、テーブルとセットになっていた椅子に膝をつき、こちらに背を向けている。脇越しに見え隠れする皿は、少年が食べ切れないでいた米粥が残っていたものだ。
 気付かないうちに少年が失踪していたことに緊張していたようだ。ほっと胸を撫で下ろす。
 「…食べられたのね」
 溜息交じりに呟くと、少年の手は止まった。水を止めて、ゆっくりと少し頬のこけた幼い顔が振り向く。
 「…おはようございます…」
 声はまだ少し変だったが、少年、スザクは未だに表情筋をぴくりとも動かさないでいる。

 「病み上がりなのにいきなり動いちゃダメでしょ。起こせばよかったじゃない」
 スザクの手から皿を取り上げ、乾燥機の中に入れる。呆れたといわんばかりに溜息をつかれて、スザクは顔を俯けた。弁明も反論もせずにじっとしているそいつの亜麻色の髪を強引に掻き揚げて掌を当てる。昨夜よりは大分マシになっているようだがまだ熱い。
 「まだ本調子じゃないくせに。お皿だってそのままでよかったわよ」
 「……家事と、洗濯と…掃除…」
 ぼそぼそ、とスザクは視線を泳がせる。
 「…しなきゃいけない、から」

 ―――私があんたを引き取ったげる。その代わり、あんたは家の炊事洗濯掃除全部するのよ。オーケイわかった?

 ああ、そんなことも言った気がするなあ、とヒルダは他人事のように思い出していた。決していい加減な冗談で言ったわけではないが、それは時と場合によるのではないだろうか、と視線を逸らすスザクを見下ろす。最初の頃より意思疎通が出来るようになって楽といえば楽だが、やはりこの子供は扱いづらい。拾った人間が言うのは最低だと思うけれど。
 「誤解しているようなら言っておくけど、私は別にあんたのこと奴隷にしようと思って拾ったわけじゃない。取って食おうとも思わないわ」
 だから自分が苦しいときに頑張る必要はない、とヒルダは真剣に念を押す。
 すると、スザクは無感動な瞳で漸くヒルダを見上げた。相変わらず表情筋は動かない。
 「言うこときかないからって簡単に捨てたりもしないわ」
 「…他人、しかも……僕、は…イレブンなのに、」
 「もし私があんたを疎ましく思ってるんなら、こんなに世話焼かないはずでしょう」
 スザクの言葉を遮り、きっぱりと言い切ってやれば、少年は黙り込んだ。これ以上何か言えばたたじゃおかない、という彼女のオーラを読み取ったのかもしれない。話はおしまい、と小さな肩を押し、寝室のベッドに戻らせる。スプリングの効いたベッドは小柄すぎるスザクが体重をかけてもびくともしない。安い(とはいってもイレブンには破格の値段だ)集合団地の申し訳程度の備え付け家具であるから、ヒルダでさえ寝苦しいと感じるくらいだ。だからといってソファで寝かせれても治るものも治らない。
 「水と氷入れてくる。アイスノンも変えなきゃね」
 小さな頭を持ち上げて回収した頼りなくなったアイスノンと洗面器を手に、ヒルダは寝室を去った。


 奇妙な関係だと、思う。
 親子でもなく、師弟でもなく、もちろん恋人など論外だ。家主と居候。しかもブリタニア人とイレブン。ヒルダ・ログリエが枢木スザクを拾って既に三年も経ってしまっていた。
 月日は早いもので、トウキョウ租界を始め、エリア11の各々の都市に租界が建設され、ブリタニア人居留地が拡大されていく中、エリア内のブリタニア人口は圧倒的に増加した。逆に、イレブンの人口は年々減りつつあった。身体の弱い年寄りや子供は不衛生な環境の中、疫病に悩まされ医者にかかれず死んで行く。男女は子作りよりもいかにして自分を守るかに必死だ。人口が増えるわけがなかった。その点では、三年前と余り変わっていないのかもしれない。
 名誉ブリタニア人制度というものがある。元々ブリタニアの国籍を持っていない人間が、ある一定の試験と検査を受け、ブリタニアに忠誠を誓い、そして二級市民の生活水準が保障されるという制度だ。
 実際、この試験に受かることは容易ではない。盛り時の若者であれば言語も歴史も一生懸命勉強さえすれば合格できるものだ。しかし、長年亡国に長く生きた年寄りには道が閉ざされていた。しかし、それくらいの年代であっても名誉ブリタニア人の異民は大勢いる。その大部分は、財産や権力をブリタニアに売って得たものだ。それなりの財力があれば試験を受けずとも、一級市民、つまりは貴族の地位を得ることも可能とされていた。つまりは、皇族相手の賄賂だ。
 実際にスザクはその現場を目撃している。とある財閥が用意した帝国への供え物は、自分も含まれていた。
 

 「ヒルダさん、朝だよ」 
 シーツを膨らませたベッドの傍に立ち、通った声で呼びかける。しかし、シーツはもぞもぞと動くだけで中々おきようとする気配はない。スザクは溜息をついて、もう一度声を掛けた。
 「ヒルダさん。昨日フレンチトースト食べたいって言ったろ。折角作ったのに冷めたら美味しくないよ」
 「んー…あと五分…あたまいたい…」
 「昨夜調子乗ってお酒飲みまくったからからだろ。ほら早く起きて」
 無情にもスザクはシーツを剥ぎ取った。現れたのは上に大きめのシャツ一枚に下は下着のみというあられもない格好をした年頃の女性。普通の男なら見た瞬間真っ赤になって顔を逸らすか襲うかだが、かくいう歴とした思春期の男児であるスザクは意外にも慣れっこだ。最初の方は酷かった。昔は真っ裸で寝られたこともあったが、流石にそれは駄目だとスザクが言った後、何か身に着けていてくれただけ今はマシだ。そりゃあ、少しは興味はあるが、そんなことをすれば殺されるばかりか身体をばらばらにされて焼却炉行きだろう。それだけは勘弁願いたい。
 「もー…寒い!返してよー」
 「ダメ。ほらさっさと起きて何か履く」
 「うー…頭痛い…スザクたすけてー…」
 寝ぼけながら、ヒルダはベッド際に立っているスザクの腰に抱きついた。途端、スザクの顔は真っ赤になる。
 「ヒルダさん!離れて!」
 「やー」
 「胸、胸当たってるから!」
 「あーら私のおっぱい欲しいのー?スザクたんたらえっちねー」
 まだ酔ってやがるのかこの女、とスザクの真っ赤な目尻は涙を溜めながら引きつった。





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ちょっとずつ書き足していきます。
スザクたんって言わせてみたかった。(私が!
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