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人生自分満足可其充分
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世界が暗転した。





「僕にはずっと欲しいものがあったんですよ」

そういう後輩の美しく綺麗に整った顔は皮肉そうに歪められていた。いつも余裕か憤りの色しか浮かべているのを見ている此方としては調子が狂う。
彼の後ろの窓から差し込む光が痛い。逆光になって、彼の口元がやけに歪められていることだけがわかった。
乾ききった風に吹かれたカーテンがドレスのように舞う。ジョミーは目を細めながらシロエ、と呼んだ。

「君の欲しいものってなんだい」

キースを超える才能?まさか、そんなものとっくに持っていますよ。そう言うシロエの口元は未だに歪んでいた。ジョミーは不意に眩暈を感じて額を軽く指で押さえた。机と椅子と教卓しかないこの部屋はまだ昼だというのにいやに殺風景だ。動いているものは自分と彼とカーテンしかない。他は止まっていた。

そこでやっと理解した。
ああ、彼が欲しいもの。それは――――


「自由が、欲しいんだね」

正解の合図か、シロエの口元の歪みが消えた。嗚呼、とジョミーは瞳を閉じる。それと同時に、昼だった世界は一気に夜の暗闇へと変わり、光は教室にある蛍光灯のみとなった。
漸く現れた闇色の髪を持つ少年は、一直線上に立つジョミーをただ見つめていた。睨むわけでもなく、何か訴えるわけでもなく。

「一説では、死は人に最高の自由と解放をもたらすといいます。まあ、宗教的なものですが」

ハキハキとした声は相変わらずで、知性に満ちた話し方をする。シロエは開きっぱなしの窓に腰掛け、月明かりに照らされた青白い顔を曝した。

「あなたはこれをどうお考えになられますか?」

シロエは問う。
ジョミーはすぐに答えようとはせずに、並べられている机に体重を預けて楽な姿勢をとった。特に考えている素振りもなく、はあ、と溜め息をついて天井を見上げたかと思えば、すぐさま正面の黒板へと視線は移された。
そしてどこか落胆したような顔をして、口を開く。

「“生きていれば自由なんていくらでもある”」
「“死んだって意味などない”」


「君が欲しいのはこんな詭弁かい?」

悪いけど僕に答えは持ち得ないよ。冷たく突き放すような言葉に、悲しむこともなく、憤ることもなく、シロエは微笑んだ。
ジョミーはそれを視界に映すこともなく、黒板に視線を向けたまま、


答えはどうであれ。

「結果として君は、死んだ」

そうだろう、と振り向いた先には、ただカーテンが揺れたまま取り残されていた。

はあ、と溜め息をつく。


「今更正当化しようとするなんて、卑怯だ」


窓に映る自分は、こちらを見て皮肉そうに笑っていた。
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