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人生自分満足可其充分
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神キョン設定

もううんざりだ。と思って投げ出してしまうことは、世間様から見ればただの「逃げ」でしかいのだろう。しかしそれがなんだって言うんだ?俺にしてみれば俺の行動に口を出すなと言いたいところだ。要するに俺は面倒くさいことが大嫌いで、束縛されるのも嫌いなのである。
そしてその大嫌いな状況の渦中にいて、よく一年弱も耐えられたものだ。自分で自分を褒めたいくらいだ。
こんなこと誰かに言ったところでどうせ「お前楽しんでたくせに」とか言われるのは目に見えている。ああその通りさ俺はこの状況を楽しんでいた。色のなかった閉鎖空間から解放されたような錯覚すら感じたさ。

でも現実は違った。今でも世界は回り続けている。


俺を中心にして。


男である俺が控え目に見ても整った――所謂イケメンだ。――顔は呆然とその深い茶色い目を丸くさせていた。きっと俺や谷口あたりがそんな顔をすればアホの子同然なんだろうなあと心の内で自嘲する。
古泉の手には未だに黒いオセロの駒が指に挟まれている。長机のほぼ中心に置かれた緑色の盤面は明らかに白の優勢だ。相変わらず弱いなこいつは。

視線をもう一度古泉へと向けてやると、俺を見て今度は捨てられた犬のような目をしていた。本当になんて情けない顔だろうなぁ。俺もなんだか変な気分になるよ。

この見慣れた部室にはもう古泉と俺しかいない。扉の側、本棚に一番近いパイプ椅子には既に温かみもない。そして机の上に投げ出されている俺の左手どなりには、ハードカバーの分厚いSF小説が。栞紐はまだ後半に差し掛かったあたりで挟み込まれていた。
日が傾き掛け、暖かみを帯びた西日が低く差し込んだ頃、長門は去り際に俺の側までやってきて、この本を無言で差し出した。最初に本を貰ったときよりも仕草に素っ気なさは消えていて、しかしながら、「読んで」とも言わず、無言で俺を見上げていた。
その時俺は長門がまだその本を読みかけているのを知っていた。
朝比奈さんはハルヒとほぼ同時に帰っていてこの場にはいない。

「俺にくれるのか?まだ読みかけだろう」
「今渡さなければならない」

そう見上げてくる長門の瞳はじっと見なければわからないくらいに揺れ動いていた。差し出された本が少しだけ此方に近づいてくる。
分かりにくいかも知れないが、長門は必死だった。それも、これまでにないくらい。
俺は何も言わず受け取ることにした。

「ありがとう。ちゃんと読むよ」

俺が笑うと、長門も少しだけ表情を柔らかくした。それは誰が見ても、無表情ではなかったと思う。端から傍観していた古泉も、少なからず驚いているようだった。
長門は満足したのか、鞄と上着を手に持ち、一歩後ろへ下がる。このままドアノブまで直行がかと思ったがどうも長門は此方を向いたまま動こうとはしない。古泉は訝しげに思って名前を呼んだが、長門は反応を返さない。
俺はほぼ無意識に、低い位置にある長門の頭にぽん、と手を置いた。
そしてニッと笑ってやる。

「またな」

すると長門も、笑いはしなかったが、俺のブレザーの裾を小さな手で掴んだ。
存外それは強かったように思う。

「また」

消え入りそうな声だったが、俺にはきちんと聞こえたぞ、長門。多分お前は全部わかってるんだ。2569回中お前と出会った526回で526回目のお前は本当に人らしくなった。

長門は気配を感じさせない歩行でドアノブへと手を伸ばし、捻る。俺と古泉はその後ろ姿に手を振って、がちゃんと扉の閉まる音を聴いた。


今から10分前の話だ。

「今、なんと」

古泉は出来損ないの表情をして掠れた声を出した。古泉らしくないといえばらしくないのだが、元々こいつは古泉一樹という俳優なのだ。アクターの素性をブラウン管越しの視聴者が知るはずがないのと同様、俺もヤツの素顔なんてのは知らない。 けれど確かに、今の古泉は仮面を付け忘れたんだろうな、と思った。

「ハルヒの能力は消失した」

俺は先程言った言葉を一字一句間違えずに言ってやった。コロコロ、とオセロが机上を転がっていく。古泉が持っていたやつだ。軽い音を立てて倒れたそれは、今回も白だった。

ぎゅっと握られた古泉の手は白く、カタカタと震えていた。もう、笑う余裕さえないみたいだ。

薄々とこいつも気づいていたはずだ。今まで起きたこと、全ての事件。

涼宮ハルヒの力の消失、それがゲームオーバーの合図。



「これは、何度目ですか…?」

聞きたいのか?

古泉は答えなかった。お前とこうやって話すのはきっと、ほんの数回なんだ。ゲームオーバーになるまで世界が回転するってのは結構貴重でな。それに、いつも最後に話すのはお前なんだ。
長門とお前と俺しかいなくなった部室で、長門がまず俺に何かを言って帰る。そこに本があるかないかはまちまちだ。そして長門が帰った後、俺たちはオセロを再開する。俺が白でお前が黒、勿論白が優勢だ。古泉は俺の言葉を聞いて駒を取り落とす。それが倒れた面は必ず白だった。

これを何度か、俺たちは繰り返している。

「あなたは、いつから」

思い出したのは最近だ。でも、俺がこういう風にした。

「ならば、あなたが神であると?」
「……一回目、俺は世界を滅茶苦茶にした。閉鎖空間で銀河系を覆って、何もなくなった。二回目、小学生のときに世界の真理を知った。何もなくて、絶望した。三回目、普通の人として生きようとした。世界は俺の欲しいものしかくれなくなった。四回目、佐々木に出会った。俺は力の譲渡を考えた。だけど佐々木は俺が望むことを優先した。五回目、俺は俺の生き写しのような人間に出会った。涼宮ハルヒ。俺はそいつにも力を与えることにして、俺の記憶にプロテクトをかけて中一からやり直すことにした。六回目、ハルヒは普通に世界を受け入れた。最期まで力を使わず、俺は未来の佐々木に強制的に目覚めさせられ再構築。七回目、宇宙人と未来人と超能力者を作った。干渉はなかった。八回目、ハルヒが今のハルヒになった。しかし閉鎖空間が拡大し阻止のため破壊。九回目、」
「もういい!」

古泉が声を荒げたから、俺は話すのを止めた。きっと失望されただろうな。そりゃそうだろう、全ての元凶は俺で、俺が気に入らないといい理由で世界は好き勝手に作られたり壊されたり。何も関係ない奴にとってはふざけるなってとこだろう。
俺はさして顔色を変えずに髪で顔が隠れ表情が見えない古泉から目を逸らさずにいた。きっと俺に目を逸らす権利もないが。

「彼女の力の消失は、あなたが望んだことなんですね」
ああその通りだ。そう望むということはあいつの作る世界に飽きたということだからな。
「そしてまた繰り返すんですか」
そういう仕組みだ。
「何故!」

なあ古泉よ。お前の言いたいことはよくわかるつもりだ。てめえの勝手で世界に飽きて作っては壊し作っては壊し。でも俺は疲れちまったんだよ、不自由が無さ過ぎる世界に。

「あなたが嫌いでも、僕はこの世界が好きだ」

そうか。俺も、お前らが好きだよ。

「なら、壊さないでください…!」

なんだ、古泉。泣いてんのか?自分よりも背の大きくてしかも男がないても気持ち悪いだけだぞ。…って泣かせてるのは俺だからなんとも言えんな。
ごめんな、古泉。

「また、オセロしようぜ」




世界が俺一人を残して、消えた。
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