じーっじーっじーっ。
エリア11の夏は五月蝿く、じめじめしていて、とにかく不快だとジノは思う。いつもなら冷房の効いた室内に閉じ篭って執務をしているところだが、あいにく今日は非番。しかも偶然にも総督補佐と同じ日に被ったことは嬉しい限りだが、本日は今夏記録的猛暑。流石に外に出る気力はなかった。
だから政庁の中に与えられたプライベートルームで涼もうとしていたのだが、枢木スザクがやってくるなり窓を全開、エアコンオフ。暑過ぎて頭がやられていたのか、その一連の動作をぼーっと見ていたジノは抗議の声すら上げなかった。
「なぁ、スザク」
「ん?」
「エリア11は暑いな」
「そうだね」
「…なんでエアコン消したんだ」
「省エネ」
平然と言ってのける本日非番の総督補佐に、さすがのジノも口端が引きつるというものだ。
エアコンのリモートコントローラーはベッドに寝転ぶスザクがホールドしている。力ずくでそれを取り上げてやってもよかったが、そうさせる気力がわかない。それもこれもこのじめじめとした暑さのせいだ忌々しい、ああ忌々しい。
「スーザークー、エアコン点けよーぜー」
「頭がいかれたのかい。もれなく地球の敵になる気だねジノ。僕は容赦しないよ」
スザクの言葉が支離滅裂で、ジノはへら、と笑った。
ベッドの端に座っていたのを、ジノはぼすん、とうつ伏せで枕に顔を押し当てているスザクの方へ倒れこむ。枕と髪から覗ける肌は、心なしかいつもより白い。
「そういうお前の方が頭いかれてると思うぞ。おい、顔色悪いじゃん」
「五月蝿いな寝かせてくれ」
枕と仲良ししていたスザクは寝不足で少し隈が出来た目でジノを睨み付けた。しかし、相手は怯むことなく、その頬へ手を伸ばす。
「冷たいな。汗もかいてない。体調悪いのか?」
「…クーラー病だ、気にするな」
「クーラー病?」
「…一時的な冷え性みたいなものだよ……僕は眠いんだ、ジノ」
だからこれ以上構うな、とスザクはまた枕に顔を埋めた。背中からは疲労感がありありと伝わってくる。ジノは軽くため息をついて、だるい腕を働かせ、タオルケットをかけてやる。
「俺も寝るぞースザク」
返答はない。どうやらもう寝入ったようだ。
ジノはまたため息をついて、茶色の髪を起こさない程度にわしゃわしゃと掻き混ぜた。ほんの悪戯心だ。
このままじゃ寝顔が見れないな、とくだらないことを考えて、蝉の声から逃げるように目を閉じた。