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人生自分満足可其充分
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 「ブラッドリー卿!お久しぶりです」
 女性、というにはまだ少し幼い色の残る声が背後からかかり、ルキアーノは振り返った。
 ブリタニアの吸血鬼と呼ばれている男の背中に臆せず立つ人物など、ラウンズを除いて数少ない。他の人間は恐ろしくて近寄りもしないが、ナイトオブテンを直属とするヴァルキュリエ隊は違っていた。
 「…なんだ、今回配属されたのはお前たちか」
 面倒そうな上司の声に、は、と意気込みよく敬礼するのはマリーカ・ソレイシィ。隣でも同様に、マリーカより幾らか大人びて見えるリーライナ・ヴェルガモン。ヴァルキュリエ隊は女性で構成されている。男がいないのは、単なるルキアーノの趣向だ。男と戦うなど面白くもないし暑苦しい、それこそ某お坊ちゃまといけ好かない裏切り者の騎士と共闘するのと同じくらい、ルキアーノは戦場において男と共に戦うことを嫌う。敵と味方という関係なら多少歯応えはあるだろうが、何より男の散り方は醜いのだ。元々作りのよくない顔を更に歪めて死んでいく。吸血鬼の名を持つ者としてそれが面白くないわけではないが、どちらかといえば綺麗な顔が恐怖に歪められる方が好きだとルキアーノは自負していた。その趣味は味方ですら矛先を向けられている。
 しかし、ルキアーノはどうもこの新人二人を苦手としていた。男っぽい性格は嫌いではないが、妙に懐かれているのだ。特にマリーカにはその傾向が強い。純血思考の兄の近くで育ったとかで、ルキアーノに重ねているのか、入隊して早々、短期間でルキアーノの後ろに立てるようになった人間など、この少女くらいだろう。リーライナは別だ。前から食えない女ではあるが、ヴァルキュリエ隊には既に二年所属しているという快挙を成し遂げている。快挙というのも、ヴァルキュリエ隊の隊員は早死にすることで有名だ。大きな戦がなければ他の部署とは殆ど変わらない生存率を誇るが、いざナイトオブテンが前線に出る戦場となれば、ひとりひとりの隊員の生存率は統計学でいうと五十パーセントを下回る。それがいくら士官学校でエリートであった者でも、だ。その為、ヴァルキュリエ隊に配属となる者はほぼ条件を満たし、志望する者だけだ。態々士官学校から引っこ抜くなどということは誰にしてみても死刑宣告に等しい。幸い、ルキアーノはその手のことに興味がないので、一応志願制ということになっている。要するに、ヴァルキュリエ隊には戦う上で物好きが多い。
 マリーカも例外ではない。新人であっても皇室への忠誠心は下手な兵士よりも気高いものだ。そして極端に、黒の騎士団の紅蓮弐式を毛嫌いしている。確か、兄キューエルはその機体と戦って殉職したのだと話された気がするが、ルキアーノは殆ど覚えていない。興味がなかったからだ。
 「紅蓮のパイロットなら独房だ。小奇麗なドレスを着せられてな」
 「知っています」
 「ほう、不当だとは思わないのか?」
 「殿下のご意思だとお聞きしています。私はブラッドリー卿と皇室に忠誠を誓うのみ。私情は慎むべきだと思っています」
 模範解答だ、とルキアーノはつまらなさそうに肩を竦めた。軍人としては合格だが、ルキアーノとしては不合格を下す。理由は言うまでもない、紅蓮のパイロットがいかに捕虜であれど、敵に違いはないのだ。それをあの総督は何を勘違いしているのか、殆ど野放し状態。さっさと殺してしまった方が国の為だという意見も少なくはない。ルキアーノの場合、国のためというよりは、血を見たいという願望の方が勝るので、捕虜の処遇に関しては興味はない。
 「なるほど」
 感慨無く答えたルキアーノの顔を覗き込むようにして、マリーカは意を決した。
 「もし、紅蓮が戦場に現れていたとして」
 「ああ?」
 「もし、です。…その時は、私に譲ってくださいましたか?」
 「マリーカ!」
 リーライナが咎めるように鋭く声を上げる。不敬である、と言っているのだ。しかしマリーカはじっと疑うような視線をルキアーノに向けた。ルキアーノは一瞬反応に遅れて、次の瞬間には破顔し、腹を抱えて笑った。
 「くく…っははははは!!面白いことを言うなソレイシィ!」
 「ブラッドリー卿!」
 リーライナがまた声を荒げる。冷や冷やしているといった感じだ。マリーカとルキアーノの纏う空気は、あまりにも近く、温度差があった。
 ひーっと喉を鳴らしながら、ルキアーノはニヤリと口元を下品に歪めた。黒い皮手袋に包まれた指先が、マリーカの顎に伸び、掴んだ。
 「そうだな、好戦的なお前に免じて、お零れくらいはやったろう」
 「…本当ですか?」
 また疑り深く首を傾げるマリーカに、ルキアーノは更に笑みを深くする。至近距離で繰り広げられる二人の様子に、リーライナは背中に流れる汗がやけに冷たく感じた。
 やがてマリーカは小さく溜息をついて、子供らしく微笑んだ。
 「もしもの話、ですもんね」
 「ああ、もしもの話だからな」
 ルキアーノの指が顎から外される。これで二人の距離は漸く一定に保たれた。それっきり二人は言葉を交わすことなく、ルキアーノはマリーカとリーライナの間を通り過ぎた。すっかり傍観者になってしまったリーライナは、一難去ったと肩を下ろす。
 しかし次の瞬間、ふと目に入った、ルキアーノを見送るマリーカの横顔を見て、言葉を失った。
 それは憎悪でも嫌悪でも嫉妬でもなく、ただ瞳は追憶に揺れている。
 「マリーカ?」
 「……キューエルの仇、討ち損ねちゃったみたい」
 私、まだ何もしてないのに。
 力なく笑ったマリーカは、一人の兄を喪ったただの少女のような影を残しつつ、一瞬にして軍人の顔つきに戻ってしまう。リーライナは複雑な心境でその一連を見つめていた。

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マリーカ→ルキアーノに不覚にも燃えてしまった。とりあえずルキアーノさん、セクハラです。←
マリーカって小説で少ししか出てないからよく覚えてないんですが、キューエルの死についてはどう言ってかな…覚えてない。コーネリアが「お前の兄の仇は必ずとる」って言ってたのは覚えてるんだけど。
確か「兄は帝国に忠義を尽くして名誉ある死を遂げた」的なこと言ってた気がする。もう一回読もう。辛い巻だけど。
ルキアーノさんはラウンズ以外と絡めると結構良い奴なんじゃないかと勝手に妄想。性格的な意味でね。
ヴァルキュリエ隊をさりげなく寵愛してたらいいなと思う。さりげなく。
マリーカとははからずもいつの間にか兄妹みたいな関係になっちゃったんだぜ、みたいな。
それにしてもここのマリーカ、強すぎるw

 

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