外は、雪が降っていた。
ブリタニアの冬は日本のそれよりも穏やかに訪れるが、寒さで言えば当然ブリタニアの方が厳しい。
このときばかりは、仮面の中が暖かい。しかし、ゼロは今仮面をつけてはいなかった。ここは彼の自室。殆ど彼以外誰もこの部屋に訪れることはない。持ち主の彼でさえ、宮殿に赴くことが多い為に帰ることは少ない。
本日は皇歴二〇一〇年、否、年号は改正され、正式には西暦二〇一〇年十二月五日。至上最悪、その行為から人々から人ですらない魔王だと罵られる存在の誕生日である。
無論、魔王の誕生日など、世界にとっては忌むべくものだろう。悪逆皇帝の彼しか知らぬ人間にとっては、それは一年の中で最も忌むべき日かもしれない。だからといって、この日に何かあるかと言えば、特に何もない。人々は変わらず働き、家庭で暖をたいている。
しかし、彼を知る者は、きっとこの日を祝福し、悔やむに違いない、と思う。
ゼロはもう一度仮面を装着し、自室を抜け出した。
彼の妹や、彼の友人達、彼と親しかった人間は、殆ど限られているだろう。しかし彼らはこの日を忌むことはないと確信していた。彼は、彼らに憎まれることが出来なかった。それが唯一の、あの計画の綻び。
向かった先は、ブリタニアが管理している非公開墓地だ。非公開墓地には皇族の墓が代表的だが、それとは別に、皇族において罪を犯した者や、墓が国内外関わらず他者に荒らされそうな場合、また別の場所をとって非公開とされている墓地がある。
誕生を祝うケーキはない。プレゼントもない。ユーフェミアと共に国の管理下の墓地に眠る彼へ挨拶はしたがそれだけだ。特に花を手向けることはなかった。
ただ一言、「おめでとう」と呟いた。
今年で、今日という日で君は僕と同い年だ。やっと大人になれたね。子供の頃が懐かしいな。あの時は無理をたくさんした。土砂降りの雨の中、ナナリーを探す為に野山に駆け出たり、免許もないのに大人の目を盗んで車を運転したり、今思えば本当に命知らずだった。子供なりに視野は狭かったんだろうな。僕だけでなく、君も。だってあの時本当に僕ら二人で出来ないことはないと思っていたんだ。でも、それを証明しちゃった君はやっぱり天才だよ。ねぇ、世界は凄く穏やかだ。ナナリーは頑張っている。君が残してくれた知恵…シュナイゼル殿下も、よくやってくれてる。時々引け目を感じるけれどね。でもそれも、僕にとっての罰なんだろう。
僕は三ヶ月前からもう二十歳になっちゃったよ。ノネットさんが一緒に酒を飲もうとか言ってたけど、ゼロが成人してるって思ったのか、僕のことに気付いていたのか。だとすると、やっぱり僕は分かりやすいのかもしれないな。これでも頑張ってるんだよ。君に、ゼロになり切るために。甘えたことを言うなと君は言うかも知れない。だってこうしている内にも、僕は「僕」であることを止めていない。でも今だけだよ。今だけはいいかい。だって僕はゼロだし君もゼロだ。同じ人間が祝うって、そんなのおかしいからさ。
今だけは、もう死んでるけど、ああ、枢木スザクの二年越しの遺言だとでも思ってくれていい。「おめでとう」、ルルーシュ。君とお酒飲みたかったよ。
来年からは、きっと祝えない。枢木スザクは二十歳で死ぬ。君が二十歳まで生きられなかったから。
だから、来年からは、ゼロとしてここに来るよ。ゼロとして君を労うよ。死人に口なしだからと言って、君が生まれたことを忌むだなんて、そんなの許されることじゃない。その時は私が粛清しよう。
おめでとうルルーシュ。そしてさようなら。枢木スザクはすぐにそっちに行くだろう。そして私は世界を守り続けるよ。
だから、おやすみ。また来年も来る。
ゼロは静かに踵を返した。仮面から漏れる息は白く、やがて外気に溶け込んだ。
ブリタニアの冬は日本のそれよりも穏やかに訪れるが、寒さで言えば当然ブリタニアの方が厳しい。
このときばかりは、仮面の中が暖かい。しかし、ゼロは今仮面をつけてはいなかった。ここは彼の自室。殆ど彼以外誰もこの部屋に訪れることはない。持ち主の彼でさえ、宮殿に赴くことが多い為に帰ることは少ない。
本日は皇歴二〇一〇年、否、年号は改正され、正式には西暦二〇一〇年十二月五日。至上最悪、その行為から人々から人ですらない魔王だと罵られる存在の誕生日である。
無論、魔王の誕生日など、世界にとっては忌むべくものだろう。悪逆皇帝の彼しか知らぬ人間にとっては、それは一年の中で最も忌むべき日かもしれない。だからといって、この日に何かあるかと言えば、特に何もない。人々は変わらず働き、家庭で暖をたいている。
しかし、彼を知る者は、きっとこの日を祝福し、悔やむに違いない、と思う。
ゼロはもう一度仮面を装着し、自室を抜け出した。
彼の妹や、彼の友人達、彼と親しかった人間は、殆ど限られているだろう。しかし彼らはこの日を忌むことはないと確信していた。彼は、彼らに憎まれることが出来なかった。それが唯一の、あの計画の綻び。
向かった先は、ブリタニアが管理している非公開墓地だ。非公開墓地には皇族の墓が代表的だが、それとは別に、皇族において罪を犯した者や、墓が国内外関わらず他者に荒らされそうな場合、また別の場所をとって非公開とされている墓地がある。
誕生を祝うケーキはない。プレゼントもない。ユーフェミアと共に国の管理下の墓地に眠る彼へ挨拶はしたがそれだけだ。特に花を手向けることはなかった。
ただ一言、「おめでとう」と呟いた。
今年で、今日という日で君は僕と同い年だ。やっと大人になれたね。子供の頃が懐かしいな。あの時は無理をたくさんした。土砂降りの雨の中、ナナリーを探す為に野山に駆け出たり、免許もないのに大人の目を盗んで車を運転したり、今思えば本当に命知らずだった。子供なりに視野は狭かったんだろうな。僕だけでなく、君も。だってあの時本当に僕ら二人で出来ないことはないと思っていたんだ。でも、それを証明しちゃった君はやっぱり天才だよ。ねぇ、世界は凄く穏やかだ。ナナリーは頑張っている。君が残してくれた知恵…シュナイゼル殿下も、よくやってくれてる。時々引け目を感じるけれどね。でもそれも、僕にとっての罰なんだろう。
僕は三ヶ月前からもう二十歳になっちゃったよ。ノネットさんが一緒に酒を飲もうとか言ってたけど、ゼロが成人してるって思ったのか、僕のことに気付いていたのか。だとすると、やっぱり僕は分かりやすいのかもしれないな。これでも頑張ってるんだよ。君に、ゼロになり切るために。甘えたことを言うなと君は言うかも知れない。だってこうしている内にも、僕は「僕」であることを止めていない。でも今だけだよ。今だけはいいかい。だって僕はゼロだし君もゼロだ。同じ人間が祝うって、そんなのおかしいからさ。
今だけは、もう死んでるけど、ああ、枢木スザクの二年越しの遺言だとでも思ってくれていい。「おめでとう」、ルルーシュ。君とお酒飲みたかったよ。
来年からは、きっと祝えない。枢木スザクは二十歳で死ぬ。君が二十歳まで生きられなかったから。
だから、来年からは、ゼロとしてここに来るよ。ゼロとして君を労うよ。死人に口なしだからと言って、君が生まれたことを忌むだなんて、そんなの許されることじゃない。その時は私が粛清しよう。
おめでとうルルーシュ。そしてさようなら。枢木スザクはすぐにそっちに行くだろう。そして私は世界を守り続けるよ。
だから、おやすみ。また来年も来る。
ゼロは静かに踵を返した。仮面から漏れる息は白く、やがて外気に溶け込んだ。
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