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人生自分満足可其充分
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 アロウズとの戦闘は、日々激化している。
 最近はなんとか逃げ果せていたものの、それでも一回の戦闘の重さは計り知れない。五年前よりもガンダムは高性能、マイスターも腕が上がっているものの、それは相手も同じことだ。戦闘の度、頻繁にあちらは新型を投入してくる。しかもその大体が乗っているのはイノベイターだと、ティエリアは言う。
 これから世界はどのように変革していくのか。
 いや、どのように変革しなければならないのか。
 今は一時的に平和なプトレマイオスの私室で、刹那はベッドに座り込んでいた。

 最近まで、刹那は「自分は破壊しか出来ない」と決め込んでいた。実際、彼の生い立ちからして、ずっとそんな日々だったからだ。少年兵としてゲリラ戦に参加させられ、唯一生き残ってガンダムに拾われ、ソレスタルビーイングに入り、ガンダムマイスターとなり、世界の歪みを駆逐する。歪みの修正ではなく、破壊という方法で。
 だが今は違っていた。刹那は変革するために、守るために戦っている。刹那だけではない、他のガンダムマイスターも、トレミーのクルーもそうだ。ヴェーダの意志下から外れてしまった今、彼らは自己で決定し、判断し、戦っている。
 しかし、なかなか変化は訪れない。
 連合の情報統制はヴェーダによるものだ。だからこそ、隙などない。真実を報道しようとする人間がいたとしても揉み消されるのが関の山だとカタロンの構成員が呟いていたのを刹那は聞いていた。
 世界ある意味一つだった。知らないままで許される、残酷な世界で。

 薄暗い部屋に、急に通路からの光が差し込む。ゆっくり顔を上げると、そこには逆光で判別しづらいが、丸い球体と人が立っていた。
 「おいおい無用心だな。鍵開けっ放しだったぞ」
 「セツナ!セツナ!ゲンキカ!」
 ハロが両目を点滅させながらぴょんぴょんと跳ねて刹那の膝に落ち着いた。
 「ハロ。……ロックオン、何かあったのか?」
 「教官殿にあんたを見て来いって言われてね。怪我の方は大丈夫なのか」
 「ああ、問題ない。態々すまなかった…ハロも」
 膝にごろごろ転がるハロを撫で、抱かかえながら刹那は立ち上がった。向かうのはメディカルルームだ。スメラギから定時にはそこで医療カプセルに入るよう指令が下っている。最初はいつ戦闘が起こるか知れなかったから反対だったのだが、ティエリアやアレルヤにまで説得されてしまい、結局渋々その通りにしていた。
 ティエリアは他にも何が言いたげだったが、刹那は問い質そうとはしなかった。なんとなく、彼の言いたいことはわかっていたから。

 「…で、どうしてついてくる?」
 通路に出たきり、ずっと後をついてくる気配に刹那は足を止めた。言外に「訓練の方は終わったのか」と尋ねているのだが、あー…と言葉を詰まらせたロックオンに事情を察し、小さくため息をついた。
 「またか」
 「ロックオン、ティエリア、ナカワルイ!」追い討ちをかけるようにハロが喚く。じっと刹那に見つめられ、ロックオンは視線を泳がせるばかりだ。このやりとりも一体何度目だろうか。
 「暫くは落ち着いていると思っていたが」
 「……なーんか、かっかしてるみたいで、ほら、よく言うだろ。君子危うきに近寄らずってな」
 「意味がわらかない」
 「はぁ…最近あいつ機嫌悪いんだよ。あんたが怪我して帰ってきてからさ。訓練中なんかほんとにおっかねぇの。おかげで俺はその被害者ってわけだ。あんたのおかげで!」
 人差し指を刹那に向けて、ロックオンは心底だるそうに声高に言った。刹那はきょとんとして、それから少し考えるような仕草をしてから、「ああ、」と思い出したように呟いた。
 ティエリアが不機嫌な理由。それは刹那の怪我のこともあるが、彼が一番に気にしていたのは刹那の体に起きている異変だ。『細胞代謝障害』。今も刹那の体を蝕んでいるその異常は、本来なら刹那の命を十分に脅かすものだ。フォーリンエンジェル作戦において負傷したラッセも同じ際に立たされている。しかし刹那とラッセの症状の違いは、体内を侵す擬似GN粒子の量にあった。モビルスーツ同士の戦いで空気中に散布した擬似GN粒子を偶然取り込んでしまったラッセとは違い、刹那は致死量の擬似GN粒子が混入された銃弾で撃たれた。だから、刹那が今ここでこうして生きて、ロックオンと話している時点で既に異常なのだ。それを喜んで良いのかはわからないが、とりあえずその『異常』に刹那は救われ、ティエリアはその『異常』がわからなくて苛立っている。ヴェーダがない今、何もわからないことに誰より怯えているのはティエリアだ。
 「それは、すまない」
 「あんた、素直だよな」
 何が残念なのだろうか。ロックオンは肩を落としてハロを両手で弄んだ。
 「確かにティエリアは厳しいところもあるが、根は仲間思いで優しい。だから、そう悪く思わないでくれ」
 メディカルルームの扉が見えた。扉横の端末を入力し、室内に入る前に刹那はもう一度ロックオンを振り返った。
 「俺は治療に入る。お前も戻れ。まだ訓練中のはずだ」
 「いや、訓練は終わったんだ。途中で投げ出すなんかしたら、仲間思いさんにあとで何言われるかわかったもんじゃねぇからな」
 「…そうか」
 室内に入ると、完璧な空調と、清浄され切った空気が肌に触れる。いささか潔癖なそれを肌に感じながら、何台か置かれているカプセルのひとつに近づき、端末を操作する。治療と言っても、診療と、傷の消毒、細胞活性処置だけだ。擬似GN粒子を中和する技術はまだない。診療データは別室のデータベースに転送される。そこで粒子の進行状況を確認するが、刹那の『異常』は未だ解明されないままだ。
 「…まだ何かあるのか」
 上着を脱ぎつつ、刹那はロックオンを見やった。するとロックオンはハロをぽんぽんと投げ上げながらニッと笑った。
 「話そうと思っても、あんたなかなか掴まらないからな」
 「…何か話したいことでもあったのか?」
 インナーを脱ぎ捨て、適当に纏めておく。褐色の肌の右腕付け根にはガーゼが当てられていて、刹那はそれを少し眉間に皺を寄せながら外した。
 「兄さんのこと、聞かせてくれ」
 ガーゼを取り終えた刹那の手が、止まる。
 「……突然だな。これまで機会はたくさんあっただろう」
 「嘘つけ。あんたが一箇所で止まってることなんて殆どないだろうが。ブリーフィング終わったら即効でダブルオーのとこ行くわ、時々一緒になったとしても誰かがいるときくらいだ。一人でいるとこ見つけたら見つけたで、兄ちゃんに殴られてるときもあったし」
 「ああ、沙慈のことか」
 そんなこともあったな、と刹那はカプセルに横たわった。内側の液晶ガラスに表示されるのは治療と診察に要する時間。大体一時間かかることはザラなので、暇な故に寝てしまうこともあるのだが…。
 「なぁ。教えてくれよ、兄さんのこと」
 そう言ってハロを両手で押さえ俯くロックオン、いや、ライルは八歳年上にも関わらず、自分よりも幼く頼りなさげに見えた。
 だから、だろうか。刹那はためらいもなく是と答えた。
 「……だが俺は彼の全てを見ていたわけじゃない。それでも構わないのなら」
 「ああ、構わない」
 少し落ちた声のトーンに、ああやはり似ているな、と刹那は目を閉じた。
 思い出されるのは、ガンダムマイスターの顔合わせのときだ。

 まだ子供じゃないですか。
 そう言ったのは、たしかアレルヤだったか。あの時はあまり意識していなかったから覚えていない。「まだ子供」なんて言葉は初耳だったからだ。以前話したように、俺は少年兵だった。子供だからという理由で通用するような世界ではなく、それによって優遇されることなどまず有り得なかった。「まだ子供だから」ガンダムマイスターには相応しくないという、アレルヤの言葉が不思議でならなかった。子供と大人でくくられる世界など、無意味極まりないと思っていたから。
 アレルヤよりも厳しい目で俺を否定したのはティエリアだった。けれど彼は、「ヴェーダが選んだのなら」と渋々肯定していたな。その後の風当たりといえば、そうだな、初めあんたにされたのよりもきつかったと思う。まぁ今となっては昔の話だ。そう怯えるな。今のティエリアは、俺でも驚くくらい優しい。
 そして、ロックオン。ニールの方がいいか?…了解した。ロックオンは…よくわからなかったな。アレルヤのように「子供だ」と非難しなかったし、ティエリアのように不適正だと否定することもなかった。心の内ではそう思っていたかもしれない。
 『世界を変えたいんだろ』と尋ねられて、俺が答えると、『俺もだ』と言っていた。
 それから後で、俺は彼が世話焼きだということを思い知った。
 無理矢理相部屋にされたんだ。わかっていると思うが、もともと俺は人間関係がうまい方ではない。それを上が任務に支障が出ないよう解消しようとしたのか、人好きのいいロックオンと俺をよく組ませた。
 最初からうまくいってなかった。いい加減あきらめろと俺は何度も思った。上に進言して命令の撤回を求めたこともあった。だがそれを拒否したのは上ではなく、ロックオン自身だった。あんたの兄さんは随分あきらめが悪い。そこが、あんたとは似てないところかもしれないな。
 根気強かった。いや、もう自棄だったのかもしれないが。
 その上、世話焼きだ。食事は出来る限り一緒に、挨拶はきちんとすること、呼ばれたら返事。毎回口煩く言っていたな。…何を笑っている。
 ああ、苦手だった。いっそ逃げたいと思うくらいに。それでも唯一、あいつは俺の過去には踏み込まなかった。少年兵だったと言えば、それなりに人は詮索したがるものだ。だが、ロックオンはそうしなかった。当時のソレスタルビーイングはマイスターの個人情報はSランクの機密事項だったのもあるだろうが、たぶん、違う。
 そんな姿勢に、ティエリアもアレルヤも尊敬していたようだ。
 ロックオンは「今」を大事にしていた。だから過去には拘らない。そんな印象が強かったな。

 でもそれは間違っていた。

 情報が漏れたんだ。トリニティ…渡したデータに入っていただろう?スローネのマイスターが俺たちの個人情報を漏洩した。
 話しただろう。俺が嘗てKPSAの構成員だったと。あんたたちの家族を殺した組織の一員。ロックオンは仇をとりたがっていた。誰よりも過去に執着していた。…言い方が悪いな、すまない。
 だから俺は銃を向けられた。『本当なのか』と。事実だ。
 『仇を討たせろ。家族の無念を晴らさせろ』。ロックオンが俺に言った言葉だ。皮肉だった。これまで尽くしてきた子供が、仇だったなど。
 前に話したように、結局、ロックオンは撃たなかった。どうしてかは、わからない。でも、あの時ロックオンが撃っていたら俺はここにはいない。戦争根絶も出来ずに終わっていた。だから、感謝しているんだ。ロックオンにも、あんたにも。
 …すまない。
 それからロックオンは変わった。アレルヤもティエリアも変わった。俺も、たぶん変われたと思う。そうしたのはロックオンだった。
 誰にでも優しかったんだ。誰よりも頼りになった。教わることも多かった。みんなが彼を信頼していた。今もそうだ。
 ……だが、ロックオンは。ロックオンは、仇を忘れてはいなかった。アリー・アル・サーシェス。俺はそのとき地上にいたから、どうして奴とロックオンが交戦していたのかはわからない。きき目の右目は使えなかったのに。だが、サーシェスの存在を教えたのは俺だ。だからロックオンは深追いしたんだろう。仇を討つために。
 ロックオンは……。

 刹那は言い淀んだ。赤銅色の瞳を揺らし、逃げるように左腕で覆う。ライルは察した。ここで兄は死んだ。兄の物語は、そこで終わるのだと。
 「続きを」
 「……いいのか」
 「あんたが最期に看取ったんだろ。教えてくれ」
 分厚いガラス越しでもわかる。ハロを抱える手は強張っていた。

 「半壊したデュナメスの太陽炉を守るために、ハロを残して、ドッキングが解除されたGNアームズで、アリー・アル・サーシェスを撃った」
 これは、ハロのデータに残っていた。ライルもその映像は確認していた。割れたヘルメットに、顔色が悪そうな兄が、ハロに別れを告げ撫でていた。カメラの位置のせいかさかさまに映っていた兄がどんどん遠ざかっていく。ハロはデュナメスのプライオリティを獲得するためか、そこでカメラを切ってしまっていた。

 「俺は救えたはずだった。ロックオンを」
 そう言う刹那の声は若干震えている。感情的とまではいかないが、押し殺したような声音だ。
 「それで、兄さんは」
 このままでは刹那の懺悔が続きそうで、ライルは先を促した。今
刹那の懺悔を聞き続ける自信はない。いや、刹那は懺悔などしないだろう。自責を感じているならば、尚更そうだ。彼はそういう人間だ。
 刹那は暫く無言だった。瞳を覆う左腕を避けると、次には真っ直ぐライルへと向いた。
 「…刹那?」
 「おかしい。あのとき、チャンネルも無線も開いていなかったはずなのに」
 (ロックオンの声が聞こえた。)
 幻聴にしてはやけにリアルだった。宇宙空間に漂うロックオンの体。
 「『ライルの生きる未来を…』」
 「え…?」
 「ロックオンは、そう言っていた」
 そして自分には、『答えは見つかったのか』と。
 (あんたはどこまでもお人よしだったんだな。)
 「あいつが、ロックオンが最期に想っていたのは、家族と、あんたの未来だった」
 ライルの碧色が、大きく見開かれる。ぽたり、と一滴がハロの上に落ちた。俯き、唇をかみ締め、耐えるようにライルは背を丸めた。
 こんなに感情を表に出す彼は珍しい。けれど、これが本来の彼なのだろうと、刹那は目を細めた。ロックオンなら、ニールなら、きっと自分にしてくれたように、彼の頭を撫でるだろう。『三十路前の男が泣くなよな』とでも軽口を叩いて。
 医療カプセルが処置終了の電子音を鳴らす。控えめなそれは、ライルを現実に引き戻すには十分だった。ハッとした彼は、手袋に包まれた指で目を擦った。それを労わるように、ハロが擦り寄る。
 「ダッセーな、俺」
 恥ずかしそうにはにかむライルに、刹那はふっと表情を和らげた。カプセルが開き、上体を起こし、両足を地につける。
 「話してくれて、さんきゅ」
 「いいや…」
 すまなかった、と続けそうになった言葉を飲み込んで、刹那は上がらない右腕の変わりに左腕を伸ばした。
 「生きてくれ、ニールの分も」
 頭に弱く落とされた手のひらの感触は、今よりずっと前、幼い頃、ニールが撫でたそれとよく似ていた。まるで兄が目の前にいるような錯覚を覚え、ライルは刹那を凝視した。
 笑顔とまではいかない、それでも柔らかい表情が、ニールとだぶる。彼とニールは、まったく似ていないのに。
 「あんたの中に、兄さんはちゃんと残ってるんだな」
 思いついたままを言ってみせると、刹那は「ああ」と頷いた。

 みんなの中でニールは生きている。
 あんたはやっぱり俺の自慢の兄らしい。

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マイスター専用ブリーフィングルーム。目の前には鹵獲したイノベイターが一人。そしてロックオン・ストラトス、スメラギ・李・ノリエガ、アレルヤ・ハプティズム。ヘルメットを未だに被ったままの同類(認めたくもないが)に、鋭い眼光を光らせながら、ティエリア・アーデは俯き加減に悶々と思考に浸っていた。

 『やめろぉおおお!!』

 脳内に直接届いたあの声の感覚。あの感覚は、ティエリアに覚えがあった。岸壁の上で出会った、自分と同じ顔をした男。目の前にいるというのに、嫌がらせのように直接脳に語りかけてきた。忘れられるわけがない。あの能量子波は、彼に不快感しか与えなかった。自分の全てが覗かれているような、そんな感覚。

 先の戦闘中に聞こえた叫び。
 あれは、二重に重なっていた。一方は沙慈・クロスロード。そしてもう一方は、刹那・F・セイエイ。
 彼らはイノベイターではない。だがあの時届いたのは確かに二人の声だった。そしてダブルオーから放出された、異常なまでのGN粒子。それが何か関係しているのか…。

 現状を把握したいが、今はそんな暇はない。鹵獲したイノベイターから、ヴェーダの情報を引き出さなければ。
 ティエリアは再度イノベイターを睨み付けた。

 「気になるの?」
 ヘルメットでくぐもらせながら、相手を探るような抑揚の声が響く。ティエリアは表情を厳しくし、銃口を向けた。
 「発言を許可した覚えはない」
 「これはこれは…酷い扱いだ。数少ない兄弟なのに、悲しいなぁ」
 心にも思っていないことを。挑発に乗ることなく、ティエリアは目線で訴える。能量子波を受けているわけではないが、こういう手合いは会話に乗らない方がいいだろう。
 「ねぇ、刹那・F・セイエイはどこ?」
 個人名が出てきたことに、ティエリアはハッとする。
 (何故、彼らは刹那のことを…。いや、この男はイノベイターだ。ヴェーダを掌握し、レベル7の情報を所持しているのなら、ありえないこともない)
 彼が問う先にいたのはロックオンだったが、返答はない。当然の判断だ。男も深入りするつもりはないのか、肩を竦ませるだけで落ち着いた。
 (だが、何故刹那なんだ…)
 刹那がイノベイターと接触したという話は聞いている。彼の不在時の報告によれば、アリー・アル・サーシェスから銃撃を受け、そこでリボンズ・アルマークと名乗るイノベイターに出会ったと。だが、それだけだ。報告を受けた時、彼は重症でカプセルで長期間眠っていたから、詳しいことはあまり聞けずにいた。
 目の前のイノベイターから刹那の名が出されたことに、深い意味はあるのだろうか。それとも、ただの興味か。

 「すまない、遅くなった」

 少し頬に汗を伝わらせながら、刹那は入室してきた。
 正直、今の会話からして、彼を呼び込んだのは失敗だったような気がしてならない。刹那からイノベイターへと視線を向けると、存外、彼は特に反応しなかった。
 「さぁ。ヘルメットを外して貰おうか」
 ティエリアの言葉に、イノベイターはおとなしく従った。その数瞬の間でさえ、ティエリアの動悸が激しくなるには十分だった。
 もし、あの時出会ったイノベイターと同じ、自分と同じ顔をしていたら?
 形容できない畏れが胸を占める。

 ヘルメットから見えたのは、ティエリアよりも遥かに色素の薄い紫がかった髪。そして、どことなく初対面ではないような顔つき。
 「初めまして。僕はイノベイター。リヴァイブ・リヴァイバルといいます」
 少年とも少女ともとれない中性的な顔は、挑むようにティエリア達を見渡した。壁に寄りかかっていたロックオンは何か反応したようだが、ティエリアと同じ考えだろう。彼の顔、髪色、容姿。そう、全てがアニュー・リターナーを彷彿させる。
 「…まさか」
 「どうかしたのかい?ティエリア・アーデ」
 まるで「よくできました」と言わんばかりにリヴァイブは笑みを浮かべた。握り締めている銃口が、動揺で震える。
 「ティエリア?」
 アレルヤが不審げに声をかけた。
 (まずい、まずい…危険だ、これは、危険だ…!)
 「船橋に、船橋に連絡を!」
 ティエリアははち切れんばかりに叫んだ。
 「アニュー・リターナーはどこだ!?」
 すぐさま反応したのはロックオンだったが、「艦の操縦を…」と答えたのはスメラギだった。
 「今すぐ彼女を拘束するんだ!」
 「ティ、ティエリア?一体何を…」
 「彼女はイノベイターだ!!」
 室内が驚愕に震える。ティエリアはキッとリヴァイブを睨んだ。
 リヴァイブはただ不敵に笑みを浮かべるだけだ。
 「アレルヤ、船橋に連絡をとってアニューの行方を」
 「わかりました」
 「刹那は格納庫とイアン達の安否確認を」
 「了解」
 頷いた彼らは手早くブリーフィングルームを後にする。
 テキパキと指示を出す戦術予報士をよそに、ティエリアは怒りに染まりあげグリップを両手で握り締めた。
 「ティエリア!」、スメラギが制止の声を上げるが、ティエリアには聞こえていない。
 人差し指がトリガーにかけられる。
 「やはり君は、殺しておくべきだったようだ…!」
 全てはイノベイターによる策略だったのだ。我々は、彼らの手に踊らされていただけ。
 リヴァイブは恐れ慄くこともなく、にやりと笑う。
 「いいのかい?」
 小首を傾げて、目を細めた。
 「僕を殺してしまったら、ヴェーダの所在は掴めないのでは?」
 クソヤロウが、と吐き捨てたのはロックオンだ。
 それを聞いたリヴァイブはロックオンに向き、くすくすと笑った。
 「アニューは何も知らないよ?ヴェーダに関しては、ね」

 途端、艦内のアラートがけたたましく鳴り響いた。
 それに気をとられ、次の瞬間には、ティエリアの目の前からリヴァイブの姿は消えていた。
 しまった、と掴みかかろうとするロックオンをあしらいながら出入り口に向かおうとしているリヴァイブに照準を合わせる。しかし、彼の腕にはスメラギが捕らえられていた。
 「貴様…ッ!」
 「撃てないの?」
 「なんだと…!?」
 顔を怒りに歪めているティエリアに、リヴァイブは心底軽蔑するような目で見下した。
 「ふーん、……撃てないんだ」
 「てめぇッ!」ロックオンが右腕を繰り出す。
 「おっと」
 リヴァイブはひらりと交わし、スメラギを突き飛ばした。ここは無重力だ。飛ばされたスメラギの体はなすすべもなくロックオンにぶつかった。
 人質が離れた隙にティエリアが何発か撃つが、どれも空振りでリヴァイブはあっという間に扉の奥へと消えてしまった。
 「くそ…ッ!」
 「ティエリア、ロックオン、すぐに格納庫へ向かって!」
 「ミススメラギ…?」
 ロックオンに支えられつつ体勢を持ち直しながら、スメラギは戦術予報士の顔になった。
 「…彼らの狙いは、おそらく、ダブルオーよ」
 その後を聞くまでもなく、ティエリアとロックオンは飛び出した。
 その先に待っている、悲劇を知らずに。




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悲劇って何←お前
  経済特区日本。多国籍企業が特に密集しているここ東京のマンションに間借しているのは、一人暮らしには些か若すぎる少年だった。刹那・F・セイエイ。歳は十六である。見境なく跳ねまくった黒髪に、周囲は全て敵だと言わんばかりの色に染まった褐色の瞳。年齢よりも幼く見える童顔に浮かぶのは感慨のない表情ばかりだ。というのも、刹那は感情の出し方をよく知らないのだ。昔は無邪気に笑っていたのだろう、と言えばそれは本人ですらわからない。刹那自身、彼の過去は忌々しいものでしかなく、同時に己の枷であり、そして彼を今突き動かしているのは紛れもなくその過去が関係している。ただ、その過去が周囲の予想するような、微笑ましいものではなかった。それだけだ。
 今日のミッションは何も伝えられていない。何度携帯電話を見ても暗号通信記録はないし、刹那は暇を持て余していた。何気なくボタンを弄繰り回していると、出てきたのは昨夜エージェントの王留美から届いた「現状維持」を示す暗号。要するに、本日刹那は非番であった。
 何もすることがない。ベッドにごろんと寝転がり、未だ開けていない遮光カーテンの足元からは光が漏れ出ている。薄暗い部屋の唯一の光源は、それと刹那の手にある携帯電話の画面だけだ。このまま見つめていて何の意味があるのか。刹那は無言で携帯電話を閉じた。二度寝もいいだろう、と思い目を閉じる。しかし、任務のため不規則な生活をしているといっても長年かけて染み付いた生活習慣か、数時間睡眠をとれば仮眠無しの二日連続徹夜すら耐えられてしまうこの少年には一向に眠気が訪れない。パッチリ目を見開いたまま、刹那は身を捩り「暇」という敵に静かに立ち向かっていた。
 ピンポーン。
 玄関のチャイム。刹那は時刻を確認した。午前八時。特に予定はない。何か宅配を頼んだわけでもないしそんな連絡もない。来訪者にしては些か不自然な時間帯だ。
 ピンポーン。
 刹那は訝しげにベッドから降り、腰にショットガンがあることを確認した。そこで、インターフォンの映像を確認する。そこに見慣れた人物が映っているのを見て、軽く目を見開いた。少し息をつき、刹那はインターフォンの受話器をとった。
 「…はい」
 『セイエイさん、宅急便でーす』
 と、ふざけた調子で言う男に対し、刹那は無言で受話器を切り、玄関へと向かった。腰の銃を再度確認し、左手で扉を開ける。
 淡い茶髪に、緑色の双眸を柔らかに細め、手にはケーキの箱を持っている。自分より頭三つ分程高い位置にある男の顔を、刹那は怪訝そうに見上げた。
 「ロックオン・ストラトス」
 「よう。元気かー刹那」
 「…とりあえず、入れ」、と刹那はドアを広く開け、ロックオンに促した。フロアで話すのは人の目につきやすい。おかしな噂や詮索をされるのは好ましくない。
 ごく自然な動作でフロアを見渡し、誰もいないことを確認すると、刹那は扉を閉めた。「付けられてはいないはずだぜ」とロックオンが言う。
 「これ、駅前で買ってきたケーキ。結構お前、気に入ってたみたいだから」
 「ロックオン・ストラトス。一体何の用だ」
 人好きがいいと評判の笑顔にさえ、刹那の場合は警戒の対象でしかない。というよりも、彼の笑顔に絆されるマイスターはアレルヤくらいだ。彼の場合、年齢が近いせいもあるのだが。
 愛想ない刹那に苦笑しつつ、ロックオンはその頭を撫でた。刹那は無言でそれを振り払い、彼を睨み付ける。そんなつれない態度にロックオンは肩を竦めた。
 「俺も今日は非番でね。久々に地上に降りたから、遊びにきたってわけ」
 「なぜ」
 「何故って…まぁ俺が暇だったからってことにしといてくれよ。ってお前カーテンくらい開けろよ…部屋真っ暗じゃないか」
 全体を見回していうロックオンの表情は、暗がりでもよくわかった。彼は声で表情がわかる。素直、なのだろうか。それでも、それが真実そうであるかは刹那にはわからない。たとえ彼が同じガンダムマイスターであっても、自分にとっては他よりも信頼できる程度の、警戒すべき他人でしかない。刹那は「大人」が苦手だった。それも、男なら尚更だ。
 おもむろに廊下の照明を点け、刹那はカーテンを開ける。入ってきた日差しは暗がりに慣れた目には痛く、思わず顔を逸らした。
 「おじゃましまーす、と」
 勝手知ったる他人の家。「冷蔵庫に入れとくぞ」、と刹那の返事も聞かずにロックオンはケーキを仕舞い込んだ。特にプライベートを気にしていない刹那は何も言わず、フローリングに座り込んだ。何をするまでもなく、ぼーっとレースカーテンの外を見つめて。
 「どーした、刹那」
 まるで弟に接するかのような柔らかさで、ロックオンは問いかけた。刹那は「何も」と答えるだけで、視線は窓の外に向けたままだ。
 東京の空は平和だ。街も、人も、宇宙や世界で起こっている紛争を情報として片付け、自分とは関係ないといわんばかりに生きている。時折報道される戦地の映像を見るたび「怖い」だの「恐ろしい」だの言っている割に、結局彼らはそれらの本当の恐ろしさをしらないまま、知ろうともしないまま、ただ情報として片付けている。恵まれた国では皆こうだ。恵まれた環境を何の疑いもなく享受し、それを当然として受け入れ、果てには、更なる富を目指し相手を搾取する。それが紛争の原因だ。刹那はこの国が、この場所があまり好きではない。おそらく、この地上のどこにも彼が気に入る場所などありはしないのだ。落ち着く場所はあるとしても、彼が理想とする場所は、まだこの世界にはない。最も、それが出来る頃、自身はその地に立てないだろう。ソレスタル・ビーイングはその礎、否、世界にとって「悪魔」にしかなれない。自らを「神の御使い」と称した、矛盾した武力行使を続ける「悪魔」。
 「刹那。休めるときには休んだ方がいいぞ」
 突然の言葉に、刹那は反応が遅れた。視線を向けた声の主は労わるような、どこか厳しい表情を浮かべている。心配、だろうか。
 「疲れているわけじゃない」
 「そうは言うが…まぁ、俺も押しかけたから言える立場じゃねぇけど」
 「………」
 「気分転換にどっか行くか?」
 ハッとして、振り返る。ロックオンの視線は窓の外に向いていた。ごそごそと上着のポケットをまさぐり、中指にキーホルダーの止め具を絡めにこりと笑いかけてきた。
 用意周到。一瞬面食らった顔をしてから、刹那は重い腰を上げた。
 「静かなところがいい」
 世の喧騒も、幸せな人々の笑い声も、何もない場所に。
 了解、と緑色は暖かく細められた。
 
 
 
 
 連れられたところは、小高い丘だった。街か見渡せる程度の、国立公園。あまり人影がないのは、きっと今日が平日だからだ。
 途中寄ったパーキングエリアのファーストフードで、妙齢の女性店員は注文するロックオンに始終顔を赤らめながら受け応えし、刹那が目に入った瞬間、食いつかんばかりに「弟さんですか」と尋ねた。そのときは「誰が」という気分だったが、ここで否定しても面倒なのでそういうことにしておいた。擬似人格タイプR12。内容は「素直で元気いっぱいの弟」。刹那が元気よく「うん!」と答えたときのロックオンといえば、顔が引きつっていた。
 
 「空気が冷たくて気持ちいいな」
 背伸びして芝生に倒れこむロックオンは、本当にリラックスしているようだった。対して刹那は座り込むこともせず、ただ佇み眼下の街を見下ろしている。薄く見えるビルの色は全て白っぽく、どことなく計算された美しさがあった。
 刹那の故郷に、こんな風景はない。
 砂漠があり、瓦礫があり、銃声が止まず、巨大なモビルスーツが徘徊する、地獄。刹那の中にある故郷の姿はその時のまま止まっている。国を出て以来、それからどうなったのかなど知らない。その点では、自分も何ら、あのビルで埋め尽くされた楽園に住む人々と変わらないのだ。いや、自分と彼らは何も違わない。「違う」という明確な答えなどありはしない。寧ろ、ただ一線を引くだけで勝手に異なるものと判断すること自体が歪んでいる。それでも、「知ろうとしている人間」と「知ろうとしない人間」の差は大きい。残念ながら、世界は後者の方が多いのだ。
 静かな世界。風が草や葉を揺らす、のどかな場所。
 
 銃声の鳴り止まぬ世界。身の丈には余るライフルを抱えて走る自分。
 
 俺は、ここには、異物だ。
 
 「ロックオン・ストラトス」
 「んー?」
 「ここは静かだな」
 「そうだなぁ」
 「俺は、あまり落ち着かない」
 「…そっか」
 じゃあ、帰るか。
 せっかく連れてきてやったのに、と文句を言うわけでもなく、ロックオンは起き上がった。座り込んだまま離れた場所に立つ刹那を見上げ、少し顔を歪ませて、よっこいしょ、と立ち上がった。
 「確かに、俺たちには不似合いな場所だ」
 自嘲を滲ませた笑みを浮かべ、ロックオンはレンタカーの方へ踵を返した。何も言わなかったのは、彼も同じようなことを考えていたからだろうか。
 
 助手席に乗り、シートベルトを着用したのを確認すると、ロックオンはエンジンをかけた。時刻はもう昼を回っている。昼食はファーストフードで済ました。
 
 「帰ったら、ケーキだな」
 朗らかで優しい低音が風に消える。
 
 「甘ったるいものでないなら」
 「子供は素直に甘いもの食っとけ」
 苦く笑う大人の声には、哀れみすら滲んでいた。
 
 
 
 
 
 
            武力介入開始から、十日目の話。
 
 
 
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 目まぐるしい一日だった。と思う。あれからまだ二十四時間は経っていないはずだ、と、沙慈・クロスロードは腕時計を確認した。
 普通に宇宙ステーションでパネル作業をしていたところに、カタロンの内通者と疑われ、高重力下のコロニーで肉体労働されたと思ったら、アロウズによる、厳密に言えば対人兵器による掃討作戦。簡単に奪われていく命を、沙慈は黙って立ち竦むことしか出来ずにいたが、そこで手を差し伸べてくれたのは嘗ての隣人、刹那・F・セイエイだった。偶然にしたって、自分と面識のある人物に出会えたことに大きく感動した。けれど、それも束の間。
 
 彼はソレスタル・ビーイングのガンダムマイスターだった。
 どうして、と僕はまた立ち竦んだ。
 目の前に聳え立つガンダムに、そのコックピットへ迷うことなく乗り込んでいく刹那に。
 
 彼が、殺したというのか。僕の大切な人の家族を、僕の大切な人を傷つけた?彼が?
 
 沸いてきたのは困惑と、憎悪と、哀愁だ。
 
 ただ立ち竦む僕は、まもなくソレスタル・ビーイングに回収された。
 途中何人かの構成員らしき人に出会ったが、僕はそんなのも目に入らなかった。
 ただ、ガンダムから刹那が降りてきて、もう一方のガンダムから降りてきた人と親しげに話しているのが憎らしくて、僕は湧き上がる憎悪を訴えた。五年前に感じた無力感や悲しみがリアルにこみ上げてきて、僕は訴えた。
 
 「君達のせいで…ルイスも…ッ姉さんも……ッ居なくなったんだ!」
 「………」
 「何とか言えよ!?」
 彼の、刹那の懐に突進して、彼の腰にあった銃を奪った。彼は戦い慣れていたのに、こんなにも簡単に一般人に銃を奪わせてしまうのはおかしい。でも、頭に血が上りきっていた僕にはそんなのどうでもよかった。ただ目の前の存在が憎らしくて、慣れない銃向ける。いつでもトリガーが引けるように、人差し指を引き金にかけて。
 そうまでしても、刹那は何も言わなかった。初めて会った時と同じようにまっすぐな瞳で見つめ返してくる。弁解も、僕の主張を嗤うこともしない。だからといって曖昧に済ませようとするわけでもない。
 目を逸らした瞬間、僕は迷いもなく彼を撃つだろう。そんな勢いにも関わらず、刹那は怯みもしなかった。
 「言えよ…!」
 刹那は何も言わない。卑怯だ。その態度に、更に怒りが増す。
 「返してくれ…ふたりを…ッ!」
 脳裏に浮かぶのは、いつも元気に僕を連れ回したルイスと、いつも優しく笑いかけてくれた姉さん。
 けれど現実に映る者は、僕の大切なその二人を奪った男だ。
 銃を握る手が震える。撃て。撃つんだ。仇を。
 
 でも、僕は撃てなかった。
 そんな僕が不甲斐なくて、悔しくて、僕は叫んだ。
 
 「返してくれよぉおお!!」
 
 
 
 興奮状態だった僕は鎮静剤を打たれ、独房へと閉じ込められた。
 けれど待遇は監禁よりも軟禁に近く、ここの構成員であろう小さな女の子と、顔に小さな傷がある男の人がハロと呼ばれる端末?のようなものを残していった。情報の閲覧は可能だと言われたので、僕は迷いもなくキーボードを操作した。ルイスの家族についての情報が知れる機会だ。
 キーワードが一致し、表示された情報では、結局何の情報も掴めなかった。刹那達とは敵対関係にあり、ソレスタル・ビーイングの方針に反する者たちの所業。そんなことどうでもよかった。沙慈が知りたかったのは、「何故ルイスの家族が殺されなければならなかったのか」だ。肝心のそれが「UNKNOWN」では、意味がない。
 「ソイツラ、テキ、テキ」と連呼する赤ハロ。テキだかどうだか知らないが、どちらにしろ、ルイスや彼女の家族は、ソレスタル・ビーイングに傷つけられ、殺された。彼らの内情など、知らない。
 
 『自分のいる世界くらい、自分の目で見てみたらどうだ』
 不自然なまでに赤い色の目をした男が脳裏に浮かぶ。
 
 『君は現実を知らなさ過ぎる』
 
 「……それが、何だって言うんだ……」
 現実を知ったところで、何が変わる。
 そもそも、現実ってなんだ。戦いか。お前たちの言う、ただ奪い、破壊するだけの!
 
 「一体…何が……!」
 両足を抱き込んで、目を閉じる。
 赤ハロはいつの間にか黙り込んでいた。やけに静かなこの独房は、絶望しか与えてくれない。
 
 

 「刹那。落ち着いて、聞いてね」
 落ち着いて。そう繰り返すスメラギ・李・ノリエガの方がどうかしている、と俺は思う。黄色人種でありながら透き通った肌は心なしか気色良くないし、スメラギの隣に立つティエリアも難しい顔をしている。なぜ?ヴェーダに異常でもあったのだろうか。俺がそう尋ねると、ティエリアは自分のわかる範囲では問題なかったと答えた。義務的な内容だったが、やはり声は少し震えているような気がする。胸がざわざわする。
 「言いたいことがあるならはっきり言ってくれ」
 待つのは好きじゃない。そう言うと、スメラギは息を吸い込み、戦術予報士の顔になった。
 「貴方の右脇の傷の治りが遅いのは、擬似GN粒子によるものだというのは、前に話したわよね」
 「ああ。だが通常より進行が遅いとは聞いた。それが何かわかったのか?」
 「………」
 まただんまりか。溜息をつきたくなるのを堪えて、次の言葉を待つ。
 しかし、いつになってもスメラギは顔を上げない。何を悩んでいるのか。そんなに深刻なことなのだろうか。ならば尚更早く教えてほしい。俺は助けを求めてティエリアを見遣った。
 「ヴェーダにアクセスし、刹那、君のデータを解析させた」
 ティエリアは目をそらすことなく此方に向いている。
 「ヴェーダには4年前の君のデータ…即ち、君がマイスターになる前の健康状態のデータが保存されている。それと比較した。続けて、僕のデータ、そしてアレルヤとマリィのデータとも照合した」
 「…なぜ?」
 何故他の三人の健康データを比較しなければならないのか。それぞれ年齢も違うし、マリィなど性別すら違う。
 パンツのポケットから端末を取り出し、作動させたティエリアはずい、と俺の方に差し出した。
 そこに映し出されているのは、脳波、塩基の螺旋。そこには五人分のデータが一覧に並んでいた。アレルヤとマリィ、ティエリア、四年前の俺と、今の俺のデータだ。
 「DNAを重ね合わせて見ろ」
 ティエリアの言葉に従い、俺は端末を操作した。
 重なっていく五つの螺旋。すると出来上がったのは、重なった二つの螺旋だ。
 一つは少々ブレがあるものの、殆ど一致した塩基配列を表している。そしてもう一つは、四年前の刹那のものだった。それは他の四つと重なり合うことなく、独立していた。
 歳をとるにつれDNAの配列が変わるなど、ありえることなのだろうか。その分野には生憎と詳しくない。
 「次に、脳波」
 呆然として端末操作が留守になっていた俺を見兼ねて、ティエリアが横から操作した。
 先程と同じく重なり合っていく五本の脳波。すると、今度は不規則に動くものが三本。
 「これがアレルヤとマリィ、これが四年前の刹那。…そしてこれが、僕と君の脳波だ」
 ティエリアが言う。
 俺は呆然と、そのグラフに見入っていた。
 さすがに、もう彼らの言いたいことはわかっていた。
 「人はそれぞれ違った脳波パターンがある。事故などのショックで脳波が変化することもあるけれど、それでも誰かと一致することはない」
 「あるとすれば、それは人為的なもの。アレルヤやマリィさんに行われていた研究や、」
 「僕達イノベイターが生まれる上で最も重要な操作」
 言葉を詰まらせかけたスメラギの後をティエリアが継いだ。
 二人とも言葉に出来ない表情を浮かべている。俺は今どういう顔をしているのだろう。特になんの感慨もない、ただ驚いているくらいだ。
 「俺はこの四年間の間、特にそんな研究に付き合わされた覚えはないが」
 「原因も把握している」
 「なに?」
 「ダブルオーガンダム。あれが原因だ」




イノベイターって歳とり難いなら、せっつんもそうなるのかなぁ。

 

 ランスロットの腕からもぎ取るようにして腕に抱えた少女の体は酷く冷たく、いつかに受け止めたときよりも酷く重く感じた。少女の体の中心から溢れるように出る赤いものは止まることを知らず、ついにはスザクの着ていた白い騎士服までも真っ赤に染めた。目の前で命の火が消えかけている。スザクはユーフェミアを強く抱き締め、ブリッジへ繋がるエレベーターに乗り込んだ。途中整備士の慌しい声や悲鳴やらが後ろで姦しくしているのを遠くに、スザクは一切の音を遮断した。

 「ユフィ…ユフィ…!」
 腕の中の存在にいくら呼びかけても、体を揺らしてやっても低くうめき声を上げるだけ。それならまだよかった。ユーフェミアは声を漏らすこともなく、ただ眠るようにしてだらりとしている。腕に力は入っておらず、その状況は最悪だとスザクに認識させた。けれどスザクはそれを振り払うかのように尚もユーフェミアの名を呼び続ける。
 「ユフィ、ユフィ、目を覚まして、お願いだ、目を閉じるな!」
 頼むから、頼むから、目を覚まして。
 知らず緑の双眸からは雫が滴り落ちた。落ちたそれはユーフェミアの血にそまったドレスに色もなく沈む。
 「ユフィ……ユフィ…ッ!!」
 スザクの声はもう掠れきっていた。喉が焼け付いてしまったかのように。本当に焼けてしまって、それでユーフェミアが目を覚ますならそれでもいい。だから、どうか、どうか。

 チン、とエレベーターが目的の階についたという合図が鳴る。
 何重もの扉が開かれ、そこで出迎えたのはよく知った二人だった。具体的な名前を認識する前に、スザクは叫んだ。もう誰でもいい。誰か、誰でもいいから。

 「お願いします…ユフィを、」

 腕の中の存在がまた重みを増した。

 「ユフィを助けてください!!!」





-------
エレベーターの血が奥の方から滴っていたので、こんなんだったんじゃないかなぁと。
何度見てもあそこは、ルルーシュこの野郎ってなります。それにしても櫻井氏の演技は好きだぁ。

 預言に死を宣告された俺の代わり身になるようにと連れてこられたのは、俺とそっくりな顔をした子供だった。子供といっても、俺と同い年くらいだ。けれど父が言うには、生まれてまだ数ヶ月らしいという。この俺にそっくりな子供は、自分のことを『レプリカ』だと名乗った。お前の『代替品』として死ぬのだと、億尾にもせずに。
 俺は呆然とした。だって本当に鏡が目の前にあるのかと思うくらい俺達はよく似ていた。だから余計におぞましかった。俺という存在の代わりを作れるこの世界にか、それとも、自分ももしかしたら『レプリカ』なんじゃないかという何処からか湧いた恐れか。どちらにしたって気分の良いものではない。
 「お前、名前は」
 「通し番号なら」
 「違う、名前だ」
 「ないです」
 必要もないでしょう。でも死ぬ為には貴方の名前を一度お借りしなければなりません。ご無礼をお許しください、『ルーク』様。
 吐き気を催しそうだった。誰か目の前のこいつを俺の目の前から消してくれ。俺の顔で、俺の声で、そんなことを言うな。俺は人形じゃない。『俺』は人形なんかじゃない。
 「では、お前がアグゼリュスに向かうと」
 「はい」
 答える声は淀みない。
 「お前が死んで、俺はずっとこの屋敷に居残っていろと」
 「俺が死ぬことは公にはされません。だから、貴方は無事アグゼリュスから帰ってくることになる。帰国後子爵位を賜りになられるかと」
 「成してもいないことで施しを受けろというのか!!」
 そんな馬鹿な話があるか。
 俺は否定した。レプリカとは言えアグゼリュスに行くのは俺じゃなくこいつだ。なのに褒美は俺に与えられるだと。おかしいだろ、そんなの。
 すると『レプリカ』は小首を傾げて疑問の表情を浮かべ、次の瞬間には諭すように口を開いた。
 「どちらにしろ俺は貴方の『レプリカ』だ。貴方から生まれたのだから、これは貴方の功績です」




そんなアッシュ(ルーク)とルークの関係。
 
 

 新参者にやることなど殆どなく、暇を持て余していたところで、ハロとかいう機械に暇つぶしに丁度いい場所があると案内されたのがこの展望だった。
 入ってみると、先着がいたようだ。これが全く面識のないクルーならば引き返したが、見知った後姿を確認して、ライル・ディランディもといロックオン・ストラトスは小さく息をついた。
 すると気配に気付いたのか、刹那・F・セイエイが無感動な瞳のまま振り向いた。
 「ロックオン、ストラトス」
 「なぁ、それ止めないか」
 相変わらずフルネームでコードネームを呼ばれることには違和感を感じる。兄もこんな感じだったのだろうか。その時訂正はしたのだろうか。姿は似ていても自分は兄ではないし、生活を共にしたのも随分昔の話だ。双子だからと言って兄の行動原理がわかるわけもない。
 己の提案を聞いて、刹那は一瞬わけがわからないという顔をした。
 「空港ではコードネームで呼べと言われたはずだが」
 どうやら勘違いをさせたようだ。
 「あー…そういう意味じゃない。ただのロックオンって呼んでくれよ。フルネームって、なんか居心地悪い」
 「そういうものか」
 「そういうもんなの」
 あっさり頷いてみせた刹那に、ロックオンは心なしか意外に思った。彼のファーストインプレッションは、サバサバしていて一匹狼的な印象を感じたため、「狎れ合いなどごめんだ」くらいは言われると思っていたのだ。もしくは、「必要性が感じられない」とかなんとか。そこまで考えていて、ロックオンは自分がどれだけ刹那を捏造していたのか身をもって知った。しかしそうさせるくらい、彼には感情というものが見えない。
 「この艦は新参者には居心地が悪い」
 刹那は言葉を詰まらせた。
 「…まだ慣れていないせいもあるんじゃないか」
 「なら、良いんだけどな。でも問題はこっち側じゃなくって、そっち側だから、俺にはどうしようもねーんだよな」
 肩を竦めて見せると、刹那は視線を逸らした。
 それとほぼ同時に、ロックオンは展望の強化ガラスに近づき、自分より幾許か低い少年の隣に降りた。
 「面白いくらい、みんな同じ反応をする。そんなに兄さんと俺は似ているか」
 「…姿は、そうかもしれない。性格は、わからないな」
 「へぇ。兄さん、面倒見がよかったろ?」
 その言葉に、刹那は答えず視線だけロックオンに向けた。そうかもしれない、という顔をしている。ああやっぱり、とロックオンは頷いた。
 「一家の長男だったからな。元々兄貴体質だったんだ。…俺は、きっとそうじゃない」
 「同じになる必要はない」
 身体ごと向いて宣言され、今度はロックオンの方が言葉を詰まらせた。余りにも真っ直ぐな瞳は此方から目を逸らしたくなるくらい、突き刺さるような痛みを覚えさせる。それを誤魔化すかのように、ロックオンは瞼を伏せた。
 「嬉しいこと言ってくれるねぇ」
 なら、なんでお前は俺にロックオン・ストラトスというコードネームを与えたんだ、とは言わなかった。彼がソレスタル・ビーングの全権を握っているわけではあるまい。上からの命令で、彼の口から聞かされることになっただけだ。
 同じ姿、同じ名前。兄弟だから、双子だからこそ、共通点が多いこと。そこには殆ど差異はない。新しいガンダムマイスターを求めているのならば、別に自分でなくたって良かったはずだ。
 ならばその“上”とやらは、“それ”を求めていると判断した方がいいのだろう。ソレスタル・ビーングは“ロックオン・ストラトス”を少なからず必要としている。それが一見余り仲が良いように見えないマイスターズのことに関係しているのか、それともガンダムに関係しているのかはわからないが。
 何しろ、情報が少なすぎる。けれどロックオンにとって、ライルにとってそんなことはどうでもよかった。

 自分はただ、兄の仇をとりたいだけだ。

 「俺は、いつになったらお前みたいに戦えんのかね」
 「…さぁな」
 その時、刹那の瞳が不意に揺れたことに、ロックオンは気付かなかった。



こんな感じで00初小説。口調わかんねー。はやとちりすぎる。


 朝。目が覚めたら泣いていた。

 酷い夢だ。
 己の腕の中には息絶えたルルーシュが冷たくなっていて、その身に剣を突き刺したままでいた。ふとよく見れば、もう一人も同じように串刺しになっていた。それは、アッシュフォードの学生服を着た、自分…いいや、枢木スザクが目を閉じて幸せそうに眠っていた。死んでいた。
 そしてもう一人、剣を握る自分の手に爪を立てている幼い枢木スザクが泣きながら此方を睨みつけている。大きく口を開けて、何かを言っていたが、聴こえなかった。

 どうやら自分は、思ったよりたくさん失っているようだ。

 ベッドから起き上がり、照明を点ける。ここは地下。朝でも夜でも真っ暗だ。


 そろそろ、身体が自由に動かなくなっている。食も細くなり、昔より随分白くなった肌の下の筋肉は殆ど萎えていた。筋や骨が浮き上がって見えるほどだ。
 体重はもう量っていない。量るだけ無駄だと思った。減るにつれ、自分の死がカウントダウンされていくのを見続けるのは、結構辛いものだ。歩くにしてもよろよろで、この地下の部屋から地上へ出ることは一ヶ月に片手で数えるくらいしかない。
 世界はゼロという存在を必要としなくなった。調和の象徴は、ゼロから世界協議の代表らへと移される。ゼロ自身がそう宣言してから、早五年。男は既に三十五年目の誕生日を迎えていた。

 「内臓が弱っているようだ」とインド人の女医は診断した。「原因は強いGによる内臓圧迫」だそうだ。ゼロは昔、世界唯一の最強のナイトメアに搭乗していた。そのナイトメアはパイロットの能力を最大限に引き出すことだけを目的として作られ、その後の影響は考慮されていなかった。事実、彼はそれまで高性能の機体を難なく操り、それまで健康でいたのだ。科学的に人体が耐えられないと判断されていたことでさえ、彼にかかれば嘘に変わった。

 しかし、結局俺も人間だったのだろう、とゼロは思う。十二年越しの“若げの至り”が今になって響いた。昔体力馬鹿と称された時代が懐かしい。今となっては、走ることすら叶わないだろう。
 治療は薦められたが、拒否した。既にゼロとしての役目を終えた今、永らえる命など持ちえてはいない。またこの先、争いは起こるかもしれない。けれどそれを鎮静できるほどの十分な力を残したつもりだ。ナナリー・ヴィ・ブリタニアという遺産。そしてその補佐に、コーネリア・リ・ブリタニアとシュナイゼル・エル・ブリタニアも置いた。シュナイゼルのギアスは既に解除されているが、意外か、それとも不思議だったのか。彼は二言で了承してみせた。ナナリーの補佐につき、出来ることをすると。以前の彼にはなかった目の光をゼロは見た。

 やれることはした。全身全霊を世界に捧げた。己の人格を否定し、象徴として在り続けた。
 そしてもうすぐ、十二年にも及ぶ贖罪の道は終わる。

 眠っていたばかりだというのに、激しい眠気に再び襲われ、ベッドに逆戻り。
 息が浅く、呼吸が苦しい。倒れこむようにしてシーツの海に沈んだ。目は閉じていないはずなのに、視界は真っ暗だ。

 俺は、今日死ぬのか。

 仰向けになり、片手を胸に置く。


 トクン、トクン、トクン、…トクン…、トクン…


 弱まっていく鼓動が伝わり、酷く穏やかな気分になった。
 見えない視界を更に瞼で閉ざし、もう一方の手も胸に置く。この部屋はナナリーには伝えてある。いつか、誰かが息絶えた死体を見つけてくれるだろう。
 それからは…ああ、だめだ、何も考えられない。頭が働かない。


 トクン、…トクン……トクン…………トクン…


 手の感覚も既にない。耳に伝わる振動が、止まっていく心音を教えてくれる。
 そろそろ、永遠の眠りにつく頃だ。死後の世界らしき場所は知っているが、出来れば地獄へ堕ちたいものだ。
 きっと彼が待っているだろう、そこへ。


 トクン…………トク…、…………。





軽く人物紹介。

枢木スザク
旧日本貴族枢木家跡取り。(政治的な介入はなく、ただの富豪。)
六月時点で18歳。アッシュフォード学園大学部の学生。五月で入院してしまったので、実質殆ど通っていない。
家の教育が厳しかった為か、自分を抑え込む傾向にある。父親とは表面だけの関係。自分と遊んでくれた母親が好きな分、その反動で父親は苦手。母親は病死。
人様の前では社交的。周りの殆どは「真面目で良いヤツ」と評価。(処世術)
それと反比例するように内面は荒み、中学生の頃から煙草を嗜むヘビースモーカー。その代償に癌を患う。
自覚症状が出たとき一度病院へ行き診断を受けたものの、「ああそうかですか」と放置。(時期は二月)
常に家や父親から解放されたがっている。

ジノ・ヴァインベルグ
ブリタニア侯爵家四男。(ブリタニアは大統領制。無論世界の三分の一を占めてるとか無茶設定はない。皇室は象徴として残されている。貴族は存在しているが、此方も政治的介入はない。)
六月時点で17歳。アッシュフォード学園大学部留学生。
人懐っこく、アニメと同じく無鉄砲。しかし家の四男という立場から結構苦労している。
留学理由は「気紛れ」。スザクのように家から解放されたいという意思はないが、己の努力をなかなか認めてもらえないストレスを感じている。
要するに「流石あの方の弟ね」とか言われてしまう、そんなジノ。しかし実のところ、兄達より優秀である。
兄弟間では孤立した存在。

アーニャ・アールストレイム
アールストレイム伯爵家の一人娘。ヴァインベルグ家の親戚筋に当たる。ジノの母親がアールストレイムの出で、アーニャの母の姉。
六月時点で15歳。アッシュフォード学園中等部に通う。
人見知りが激しく、感情を表に出すことが少ない。コミュニケーションを圧倒的に苦手とする。
親戚のジノとは仲がよい。スザクとはジノを経由して知り合うこととなる。彼とはすぐに打ち解けた。理由といえば、彼女自身よくわかっていない。

皇神楽耶
皇コンツェルン次期会長にして、皇家の次代当主。齢16歳にして経営の鬼才の芽が出始めている。
会社や家の実権は彼女の父親が握っているが、技量を信頼されているため、それなりの自由は許されている。
スザクとは親戚筋に当たる。スザクの母親が神楽耶の母の妹であり、彼女の死後、神楽耶の母はスザクの親権を巡って裁判を起こした。
スザクと仲がよく、枢木家での彼の実情を唯一知る“部外者”。
スザクの病を知り、会長権限を取引に利用するつわもの。

ロイド・アスプルンド
アヴァロン社キャメロット研究員兼チーフ。癌の研究を行う。医療免許を持つ。

セシル・クルーミー
同上。研究員兼副チーフ。医療免許と精神科もそれなりに齧っている。

アヴァロン社
シュナイゼル・エルガーを会長とするマルチカンパニー。メインは医療系。

皇コンツェルン
日本の大手企業。あらゆる産業に影響する。

ルルーシュ・ランペルージ
ブリタニア皇帝の側室にして騎士候マリアンヌ・ランペルージ卿(健在)が長男。ランペルージ家は庶民の出なので爵位無し。しかし母親が中々実力ある高位な軍人でそれなりに豊か。所謂成金。
爵位は無いが、血の半分は皇室。しかし12歳の時に廃嫡され(ルルーシュの意思)、母方のランペルージに姓を置いた。
スザクとは10歳の頃に留学したときに暫く世話になった。今でも連絡を取り合っている。

ナナリー・ランペルージ
ランペルージ家長女。ルルーシュの妹。少し身体が弱いが、脚は動くし目は見えるし、健康体。
あとは同上。

ユーフェミア・リ・ブリタニア
ブリタニア皇室第三皇女。まだ若いため、社交界進出はない。ブリタニアの一学生として生活している。
ルルーシュとナナリーとは腹違い。因みに彼女の母親が后妃(正妻)。
彼ら兄妹と共に9歳の頃日本に留学し、スザクに出会う。しかし、身分が身分なため、ルルーシュのように頻繁に連絡をとることはできないでいる。


・ブリタニア皇室備考
ブリタニアの旧体制の遺物。子供は、そんなに多くないです(笑)
第一皇子オデュッセウス、第二皇子クロヴィス、第一皇女ギネヴィア、第二皇女コーネリア、第三皇女ユーフェミア。以上が皇太子と皇女。
シュナイゼルさんはアヴァロン社の社長ですので、いらっしゃいません。


とまぁ、こんな感じかな…。裏話もちょびちょび入れてみました。出来たら書きたいです。

 外は、雪が降っていた。
 ブリタニアの冬は日本のそれよりも穏やかに訪れるが、寒さで言えば当然ブリタニアの方が厳しい。
 このときばかりは、仮面の中が暖かい。しかし、ゼロは今仮面をつけてはいなかった。ここは彼の自室。殆ど彼以外誰もこの部屋に訪れることはない。持ち主の彼でさえ、宮殿に赴くことが多い為に帰ることは少ない。

 本日は皇歴二〇一〇年、否、年号は改正され、正式には西暦二〇一〇年十二月五日。至上最悪、その行為から人々から人ですらない魔王だと罵られる存在の誕生日である。
 無論、魔王の誕生日など、世界にとっては忌むべくものだろう。悪逆皇帝の彼しか知らぬ人間にとっては、それは一年の中で最も忌むべき日かもしれない。だからといって、この日に何かあるかと言えば、特に何もない。人々は変わらず働き、家庭で暖をたいている。

 しかし、彼を知る者は、きっとこの日を祝福し、悔やむに違いない、と思う。

 ゼロはもう一度仮面を装着し、自室を抜け出した。

 彼の妹や、彼の友人達、彼と親しかった人間は、殆ど限られているだろう。しかし彼らはこの日を忌むことはないと確信していた。彼は、彼らに憎まれることが出来なかった。それが唯一の、あの計画の綻び。

 向かった先は、ブリタニアが管理している非公開墓地だ。非公開墓地には皇族の墓が代表的だが、それとは別に、皇族において罪を犯した者や、墓が国内外関わらず他者に荒らされそうな場合、また別の場所をとって非公開とされている墓地がある。

 誕生を祝うケーキはない。プレゼントもない。ユーフェミアと共に国の管理下の墓地に眠る彼へ挨拶はしたがそれだけだ。特に花を手向けることはなかった。
 ただ一言、「おめでとう」と呟いた。

 今年で、今日という日で君は僕と同い年だ。やっと大人になれたね。子供の頃が懐かしいな。あの時は無理をたくさんした。土砂降りの雨の中、ナナリーを探す為に野山に駆け出たり、免許もないのに大人の目を盗んで車を運転したり、今思えば本当に命知らずだった。子供なりに視野は狭かったんだろうな。僕だけでなく、君も。だってあの時本当に僕ら二人で出来ないことはないと思っていたんだ。でも、それを証明しちゃった君はやっぱり天才だよ。ねぇ、世界は凄く穏やかだ。ナナリーは頑張っている。君が残してくれた知恵…シュナイゼル殿下も、よくやってくれてる。時々引け目を感じるけれどね。でもそれも、僕にとっての罰なんだろう。
 僕は三ヶ月前からもう二十歳になっちゃったよ。ノネットさんが一緒に酒を飲もうとか言ってたけど、ゼロが成人してるって思ったのか、僕のことに気付いていたのか。だとすると、やっぱり僕は分かりやすいのかもしれないな。これでも頑張ってるんだよ。君に、ゼロになり切るために。甘えたことを言うなと君は言うかも知れない。だってこうしている内にも、僕は「僕」であることを止めていない。でも今だけだよ。今だけはいいかい。だって僕はゼロだし君もゼロだ。同じ人間が祝うって、そんなのおかしいからさ。
 今だけは、もう死んでるけど、ああ、枢木スザクの二年越しの遺言だとでも思ってくれていい。「おめでとう」、ルルーシュ。君とお酒飲みたかったよ。
 来年からは、きっと祝えない。枢木スザクは二十歳で死ぬ。君が二十歳まで生きられなかったから。
 だから、来年からは、ゼロとしてここに来るよ。ゼロとして君を労うよ。死人に口なしだからと言って、君が生まれたことを忌むだなんて、そんなの許されることじゃない。その時は私が粛清しよう。
 おめでとうルルーシュ。そしてさようなら。枢木スザクはすぐにそっちに行くだろう。そして私は世界を守り続けるよ。

 だから、おやすみ。また来年も来る。


 ゼロは静かに踵を返した。仮面から漏れる息は白く、やがて外気に溶け込んだ。
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