「刹那。落ち着いて、聞いてね」
落ち着いて。そう繰り返すスメラギ・李・ノリエガの方がどうかしている、と俺は思う。黄色人種でありながら透き通った肌は心なしか気色良くないし、スメラギの隣に立つティエリアも難しい顔をしている。なぜ?ヴェーダに異常でもあったのだろうか。俺がそう尋ねると、ティエリアは自分のわかる範囲では問題なかったと答えた。義務的な内容だったが、やはり声は少し震えているような気がする。胸がざわざわする。
「言いたいことがあるならはっきり言ってくれ」
待つのは好きじゃない。そう言うと、スメラギは息を吸い込み、戦術予報士の顔になった。
「貴方の右脇の傷の治りが遅いのは、擬似GN粒子によるものだというのは、前に話したわよね」
「ああ。だが通常より進行が遅いとは聞いた。それが何かわかったのか?」
「………」
まただんまりか。溜息をつきたくなるのを堪えて、次の言葉を待つ。
しかし、いつになってもスメラギは顔を上げない。何を悩んでいるのか。そんなに深刻なことなのだろうか。ならば尚更早く教えてほしい。俺は助けを求めてティエリアを見遣った。
「ヴェーダにアクセスし、刹那、君のデータを解析させた」
ティエリアは目をそらすことなく此方に向いている。
「ヴェーダには4年前の君のデータ…即ち、君がマイスターになる前の健康状態のデータが保存されている。それと比較した。続けて、僕のデータ、そしてアレルヤとマリィのデータとも照合した」
「…なぜ?」
何故他の三人の健康データを比較しなければならないのか。それぞれ年齢も違うし、マリィなど性別すら違う。
パンツのポケットから端末を取り出し、作動させたティエリアはずい、と俺の方に差し出した。
そこに映し出されているのは、脳波、塩基の螺旋。そこには五人分のデータが一覧に並んでいた。アレルヤとマリィ、ティエリア、四年前の俺と、今の俺のデータだ。
「DNAを重ね合わせて見ろ」
ティエリアの言葉に従い、俺は端末を操作した。
重なっていく五つの螺旋。すると出来上がったのは、重なった二つの螺旋だ。
一つは少々ブレがあるものの、殆ど一致した塩基配列を表している。そしてもう一つは、四年前の刹那のものだった。それは他の四つと重なり合うことなく、独立していた。
歳をとるにつれDNAの配列が変わるなど、ありえることなのだろうか。その分野には生憎と詳しくない。
「次に、脳波」
呆然として端末操作が留守になっていた俺を見兼ねて、ティエリアが横から操作した。
先程と同じく重なり合っていく五本の脳波。すると、今度は不規則に動くものが三本。
「これがアレルヤとマリィ、これが四年前の刹那。…そしてこれが、僕と君の脳波だ」
ティエリアが言う。
俺は呆然と、そのグラフに見入っていた。
さすがに、もう彼らの言いたいことはわかっていた。
「人はそれぞれ違った脳波パターンがある。事故などのショックで脳波が変化することもあるけれど、それでも誰かと一致することはない」
「あるとすれば、それは人為的なもの。アレルヤやマリィさんに行われていた研究や、」
「僕達イノベイターが生まれる上で最も重要な操作」
言葉を詰まらせかけたスメラギの後をティエリアが継いだ。
二人とも言葉に出来ない表情を浮かべている。俺は今どういう顔をしているのだろう。特になんの感慨もない、ただ驚いているくらいだ。
「俺はこの四年間の間、特にそんな研究に付き合わされた覚えはないが」
「原因も把握している」
「なに?」
「ダブルオーガンダム。あれが原因だ」
イノベイターって歳とり難いなら、せっつんもそうなるのかなぁ。