マイスター専用ブリーフィングルーム。目の前には鹵獲したイノベイターが一人。そしてロックオン・ストラトス、スメラギ・李・ノリエガ、アレルヤ・ハプティズム。ヘルメットを未だに被ったままの同類(認めたくもないが)に、鋭い眼光を光らせながら、ティエリア・アーデは俯き加減に悶々と思考に浸っていた。
『やめろぉおおお!!』
脳内に直接届いたあの声の感覚。あの感覚は、ティエリアに覚えがあった。岸壁の上で出会った、自分と同じ顔をした男。目の前にいるというのに、嫌がらせのように直接脳に語りかけてきた。忘れられるわけがない。あの能量子波は、彼に不快感しか与えなかった。自分の全てが覗かれているような、そんな感覚。
先の戦闘中に聞こえた叫び。
あれは、二重に重なっていた。一方は沙慈・クロスロード。そしてもう一方は、刹那・F・セイエイ。
彼らはイノベイターではない。だがあの時届いたのは確かに二人の声だった。そしてダブルオーから放出された、異常なまでのGN粒子。それが何か関係しているのか…。
現状を把握したいが、今はそんな暇はない。鹵獲したイノベイターから、ヴェーダの情報を引き出さなければ。
ティエリアは再度イノベイターを睨み付けた。
「気になるの?」
ヘルメットでくぐもらせながら、相手を探るような抑揚の声が響く。ティエリアは表情を厳しくし、銃口を向けた。
「発言を許可した覚えはない」
「これはこれは…酷い扱いだ。数少ない兄弟なのに、悲しいなぁ」
心にも思っていないことを。挑発に乗ることなく、ティエリアは目線で訴える。能量子波を受けているわけではないが、こういう手合いは会話に乗らない方がいいだろう。
「ねぇ、刹那・F・セイエイはどこ?」
個人名が出てきたことに、ティエリアはハッとする。
(何故、彼らは刹那のことを…。いや、この男はイノベイターだ。ヴェーダを掌握し、レベル7の情報を所持しているのなら、ありえないこともない)
彼が問う先にいたのはロックオンだったが、返答はない。当然の判断だ。男も深入りするつもりはないのか、肩を竦ませるだけで落ち着いた。
(だが、何故刹那なんだ…)
刹那がイノベイターと接触したという話は聞いている。彼の不在時の報告によれば、アリー・アル・サーシェスから銃撃を受け、そこでリボンズ・アルマークと名乗るイノベイターに出会ったと。だが、それだけだ。報告を受けた時、彼は重症でカプセルで長期間眠っていたから、詳しいことはあまり聞けずにいた。
目の前のイノベイターから刹那の名が出されたことに、深い意味はあるのだろうか。それとも、ただの興味か。
「すまない、遅くなった」
少し頬に汗を伝わらせながら、刹那は入室してきた。
正直、今の会話からして、彼を呼び込んだのは失敗だったような気がしてならない。刹那からイノベイターへと視線を向けると、存外、彼は特に反応しなかった。
「さぁ。ヘルメットを外して貰おうか」
ティエリアの言葉に、イノベイターはおとなしく従った。その数瞬の間でさえ、ティエリアの動悸が激しくなるには十分だった。
もし、あの時出会ったイノベイターと同じ、自分と同じ顔をしていたら?
形容できない畏れが胸を占める。
ヘルメットから見えたのは、ティエリアよりも遥かに色素の薄い紫がかった髪。そして、どことなく初対面ではないような顔つき。
「初めまして。僕はイノベイター。リヴァイブ・リヴァイバルといいます」
少年とも少女ともとれない中性的な顔は、挑むようにティエリア達を見渡した。壁に寄りかかっていたロックオンは何か反応したようだが、ティエリアと同じ考えだろう。彼の顔、髪色、容姿。そう、全てがアニュー・リターナーを彷彿させる。
「…まさか」
「どうかしたのかい?ティエリア・アーデ」
まるで「よくできました」と言わんばかりにリヴァイブは笑みを浮かべた。握り締めている銃口が、動揺で震える。
「ティエリア?」
アレルヤが不審げに声をかけた。
(まずい、まずい…危険だ、これは、危険だ…!)
「船橋に、船橋に連絡を!」
ティエリアははち切れんばかりに叫んだ。
「アニュー・リターナーはどこだ!?」
すぐさま反応したのはロックオンだったが、「艦の操縦を…」と答えたのはスメラギだった。
「今すぐ彼女を拘束するんだ!」
「ティ、ティエリア?一体何を…」
「彼女はイノベイターだ!!」
室内が驚愕に震える。ティエリアはキッとリヴァイブを睨んだ。
リヴァイブはただ不敵に笑みを浮かべるだけだ。
「アレルヤ、船橋に連絡をとってアニューの行方を」
「わかりました」
「刹那は格納庫とイアン達の安否確認を」
「了解」
頷いた彼らは手早くブリーフィングルームを後にする。
テキパキと指示を出す戦術予報士をよそに、ティエリアは怒りに染まりあげグリップを両手で握り締めた。
「ティエリア!」、スメラギが制止の声を上げるが、ティエリアには聞こえていない。
人差し指がトリガーにかけられる。
「やはり君は、殺しておくべきだったようだ…!」
全てはイノベイターによる策略だったのだ。我々は、彼らの手に踊らされていただけ。
リヴァイブは恐れ慄くこともなく、にやりと笑う。
「いいのかい?」
小首を傾げて、目を細めた。
「僕を殺してしまったら、ヴェーダの所在は掴めないのでは?」
クソヤロウが、と吐き捨てたのはロックオンだ。
それを聞いたリヴァイブはロックオンに向き、くすくすと笑った。
「アニューは何も知らないよ?ヴェーダに関しては、ね」
途端、艦内のアラートがけたたましく鳴り響いた。
それに気をとられ、次の瞬間には、ティエリアの目の前からリヴァイブの姿は消えていた。
しまった、と掴みかかろうとするロックオンをあしらいながら出入り口に向かおうとしているリヴァイブに照準を合わせる。しかし、彼の腕にはスメラギが捕らえられていた。
「貴様…ッ!」
「撃てないの?」
「なんだと…!?」
顔を怒りに歪めているティエリアに、リヴァイブは心底軽蔑するような目で見下した。
「ふーん、……撃てないんだ」
「てめぇッ!」ロックオンが右腕を繰り出す。
「おっと」
リヴァイブはひらりと交わし、スメラギを突き飛ばした。ここは無重力だ。飛ばされたスメラギの体はなすすべもなくロックオンにぶつかった。
人質が離れた隙にティエリアが何発か撃つが、どれも空振りでリヴァイブはあっという間に扉の奥へと消えてしまった。
「くそ…ッ!」
「ティエリア、ロックオン、すぐに格納庫へ向かって!」
「ミススメラギ…?」
ロックオンに支えられつつ体勢を持ち直しながら、スメラギは戦術予報士の顔になった。
「…彼らの狙いは、おそらく、ダブルオーよ」
その後を聞くまでもなく、ティエリアとロックオンは飛び出した。
その先に待っている、悲劇を知らずに。
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悲劇って何←お前
『やめろぉおおお!!』
脳内に直接届いたあの声の感覚。あの感覚は、ティエリアに覚えがあった。岸壁の上で出会った、自分と同じ顔をした男。目の前にいるというのに、嫌がらせのように直接脳に語りかけてきた。忘れられるわけがない。あの能量子波は、彼に不快感しか与えなかった。自分の全てが覗かれているような、そんな感覚。
先の戦闘中に聞こえた叫び。
あれは、二重に重なっていた。一方は沙慈・クロスロード。そしてもう一方は、刹那・F・セイエイ。
彼らはイノベイターではない。だがあの時届いたのは確かに二人の声だった。そしてダブルオーから放出された、異常なまでのGN粒子。それが何か関係しているのか…。
現状を把握したいが、今はそんな暇はない。鹵獲したイノベイターから、ヴェーダの情報を引き出さなければ。
ティエリアは再度イノベイターを睨み付けた。
「気になるの?」
ヘルメットでくぐもらせながら、相手を探るような抑揚の声が響く。ティエリアは表情を厳しくし、銃口を向けた。
「発言を許可した覚えはない」
「これはこれは…酷い扱いだ。数少ない兄弟なのに、悲しいなぁ」
心にも思っていないことを。挑発に乗ることなく、ティエリアは目線で訴える。能量子波を受けているわけではないが、こういう手合いは会話に乗らない方がいいだろう。
「ねぇ、刹那・F・セイエイはどこ?」
個人名が出てきたことに、ティエリアはハッとする。
(何故、彼らは刹那のことを…。いや、この男はイノベイターだ。ヴェーダを掌握し、レベル7の情報を所持しているのなら、ありえないこともない)
彼が問う先にいたのはロックオンだったが、返答はない。当然の判断だ。男も深入りするつもりはないのか、肩を竦ませるだけで落ち着いた。
(だが、何故刹那なんだ…)
刹那がイノベイターと接触したという話は聞いている。彼の不在時の報告によれば、アリー・アル・サーシェスから銃撃を受け、そこでリボンズ・アルマークと名乗るイノベイターに出会ったと。だが、それだけだ。報告を受けた時、彼は重症でカプセルで長期間眠っていたから、詳しいことはあまり聞けずにいた。
目の前のイノベイターから刹那の名が出されたことに、深い意味はあるのだろうか。それとも、ただの興味か。
「すまない、遅くなった」
少し頬に汗を伝わらせながら、刹那は入室してきた。
正直、今の会話からして、彼を呼び込んだのは失敗だったような気がしてならない。刹那からイノベイターへと視線を向けると、存外、彼は特に反応しなかった。
「さぁ。ヘルメットを外して貰おうか」
ティエリアの言葉に、イノベイターはおとなしく従った。その数瞬の間でさえ、ティエリアの動悸が激しくなるには十分だった。
もし、あの時出会ったイノベイターと同じ、自分と同じ顔をしていたら?
形容できない畏れが胸を占める。
ヘルメットから見えたのは、ティエリアよりも遥かに色素の薄い紫がかった髪。そして、どことなく初対面ではないような顔つき。
「初めまして。僕はイノベイター。リヴァイブ・リヴァイバルといいます」
少年とも少女ともとれない中性的な顔は、挑むようにティエリア達を見渡した。壁に寄りかかっていたロックオンは何か反応したようだが、ティエリアと同じ考えだろう。彼の顔、髪色、容姿。そう、全てがアニュー・リターナーを彷彿させる。
「…まさか」
「どうかしたのかい?ティエリア・アーデ」
まるで「よくできました」と言わんばかりにリヴァイブは笑みを浮かべた。握り締めている銃口が、動揺で震える。
「ティエリア?」
アレルヤが不審げに声をかけた。
(まずい、まずい…危険だ、これは、危険だ…!)
「船橋に、船橋に連絡を!」
ティエリアははち切れんばかりに叫んだ。
「アニュー・リターナーはどこだ!?」
すぐさま反応したのはロックオンだったが、「艦の操縦を…」と答えたのはスメラギだった。
「今すぐ彼女を拘束するんだ!」
「ティ、ティエリア?一体何を…」
「彼女はイノベイターだ!!」
室内が驚愕に震える。ティエリアはキッとリヴァイブを睨んだ。
リヴァイブはただ不敵に笑みを浮かべるだけだ。
「アレルヤ、船橋に連絡をとってアニューの行方を」
「わかりました」
「刹那は格納庫とイアン達の安否確認を」
「了解」
頷いた彼らは手早くブリーフィングルームを後にする。
テキパキと指示を出す戦術予報士をよそに、ティエリアは怒りに染まりあげグリップを両手で握り締めた。
「ティエリア!」、スメラギが制止の声を上げるが、ティエリアには聞こえていない。
人差し指がトリガーにかけられる。
「やはり君は、殺しておくべきだったようだ…!」
全てはイノベイターによる策略だったのだ。我々は、彼らの手に踊らされていただけ。
リヴァイブは恐れ慄くこともなく、にやりと笑う。
「いいのかい?」
小首を傾げて、目を細めた。
「僕を殺してしまったら、ヴェーダの所在は掴めないのでは?」
クソヤロウが、と吐き捨てたのはロックオンだ。
それを聞いたリヴァイブはロックオンに向き、くすくすと笑った。
「アニューは何も知らないよ?ヴェーダに関しては、ね」
途端、艦内のアラートがけたたましく鳴り響いた。
それに気をとられ、次の瞬間には、ティエリアの目の前からリヴァイブの姿は消えていた。
しまった、と掴みかかろうとするロックオンをあしらいながら出入り口に向かおうとしているリヴァイブに照準を合わせる。しかし、彼の腕にはスメラギが捕らえられていた。
「貴様…ッ!」
「撃てないの?」
「なんだと…!?」
顔を怒りに歪めているティエリアに、リヴァイブは心底軽蔑するような目で見下した。
「ふーん、……撃てないんだ」
「てめぇッ!」ロックオンが右腕を繰り出す。
「おっと」
リヴァイブはひらりと交わし、スメラギを突き飛ばした。ここは無重力だ。飛ばされたスメラギの体はなすすべもなくロックオンにぶつかった。
人質が離れた隙にティエリアが何発か撃つが、どれも空振りでリヴァイブはあっという間に扉の奥へと消えてしまった。
「くそ…ッ!」
「ティエリア、ロックオン、すぐに格納庫へ向かって!」
「ミススメラギ…?」
ロックオンに支えられつつ体勢を持ち直しながら、スメラギは戦術予報士の顔になった。
「…彼らの狙いは、おそらく、ダブルオーよ」
その後を聞くまでもなく、ティエリアとロックオンは飛び出した。
その先に待っている、悲劇を知らずに。
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悲劇って何←お前
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