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人生自分満足可其充分
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 白い病室。差し込む太陽光が反射するせいで更に白く眩しい部屋は、起き抜けの目には優しくなかった。
 今度は一体何時間寝たのだろう。いや、何日寝た?この部屋にカレンダーはない。時計がひとつあるが、それは今時アンティークにしかないレトロな丸時計で、日付などわかるものではなかった。
 「おはよう、ソラン」
 声がして、俺はその方を見遣った。そこには、見知った顔が二つ。というよりも、同じ顔が、二つ。
 「……ぁ」
 咽喉が渇いていてうまく声がでない。本当に、俺は何日眠っていたのだろう。ここにきてから何ヶ月経った?まだ季節は巡っていないはずだ。窓の外から決まった時間に見える、散歩に出ている老人はまだ健在だ。なら、そう時間は経っていないはずだ。もっとも、その老人が俺と同じ状態であるならば話は別だろうが。
 「おはよーさん。久しぶりだな」
 「…ライ、ル」
 軽い口調で喋ったのは、よく見舞いにくるライルだ。
 「俺は、何日眠っていた…」
 「五日ほどだ。ぐっすりだった」
 答えたのはライルと同じ顔をした方だ。右の目尻には完治した傷跡があり、ライルよりも落ち着いた雰囲気で、どこか頼りになりそうな笑みを浮かべている。
 「…あんたは…」
 誰だ、と言う以前に、俺は彼を知っている。ただ、目の前にいる男が本当に生きているのか信じられなくて、そもそも俺はまだ眠っていて、これは夢なのではないかと、どこかでそう思っていた。答えは聞くまでもないだろう。早くこんな夢など覚めてくれ、と俺は目を閉じた。
 「おいおい、起きろ、刹那」
 懐かしい名前を出してくる。そうだ、彼は一度だって自分の本名を口にしたことはない。ライルは俺を「ソラン」と呼んだ。ならば、未だ「刹那」と呼ぶ彼は、幻なのだ。
 「せーつーなー。せーっちゃん」
 甘い夢だ。もうすぐ死ぬのだろか。この世界に神などいないが、人は最期に幸せな頃だった夢を見ることがあるらしいとモレノが言っていた。医学的根拠も何もないがな、と付け足して。
 「せっちゃん、いい加減にしないと、お兄さん怒っちゃうよ」
 「兄さん、その歳でお兄さんはないだろうよ」
 「うっせえぞライル」
 モレノ。夢というのは、こんなに煩いものだのだろうか。
 いい加減目を覚ましてほしい。こんな夢、見ているだけで毒なのだから。

 ふいに、声がしなくなった。夢が終わったのだろうか。俺はそっと目を開けて、病室を見渡す。夢で見たのと変わらない、太陽はまだ高くて、白い部屋。

 「お!起きたな!」
 顔面にぶつかるかという勢いで、そいつは迫ってきた。因みに俺はベッドに仰向けに寝ていて、そいつは俺の頭の両横に両手をつき、覆いかぶさっている状態だ。
 突然のことに思わずひゅっと息を呑んで、自分とは人種的に作りの違う顔を凝視する。ライルにはないはずの、右目尻に見える傷。
 まだ、夢なのか。
 「……ライ、ル」
 ライルに助けを求めるために、点滴の刺さった腕を伸ばす。ライルは困ったように笑ったが、何もしなかった。
 行き場の失った腕は、いとも簡単に、ライルと同じ顔をした男に取られてしまった。拒もうとしたものの、筋力が殆ど衰えてしまった細腕では、ふりほどきようもない。
 「刹那。俺を見ろ」
 男は先程のように笑みを零さず、真剣に、どこか懇願するように俺を見ていた。掴んだままの俺の腕をそのまま自分の頬に当てて、その温かさに俺は驚いた。死人の冷たさはよく知っているのに。
 「俺の名前、呼んでよ」
 名前。名前なんて。あんたの名前なんて、俺は知らないじゃないか。
 そんな風に笑うな。名前なんて、あんたから教えられたことなんて、一度もないんだぞ。
 「刹那」
 いい年した男が、泣きそうに顔を歪めている。ああ、頼りないな。昔はあんなにも大きな存在だったのに。
 男の頬に添えられたままのだらりとした腕に力を込めて、俺はその頬をたどたどしく撫でてやる。
 すると、男は更に泣き出しそうに顔を歪めた。笑おうとして取り繕っているようだが、それにしたって、不細工だな、あんた。
 ライルも呆れたように見ているぞ。
 「……、オ…ン」
 「せつ、な…」
 「ロッ…、オン…」
 「刹那、刹那…」
 掠れた微かな音さえ逃さないように、額と額を合わせる。
 やっぱり熱かった。熱でもあるんじゃないかというくらい、その人肌は生きていた。
 「……ロックオン…」
 熱い水滴が俺の頬に落ちた。それが彼の、ロックオンのものだとわかるには容易く、俺は力の入らない腕をロックオンの頭に回した。彼の頭は俺の首元に埋まり、情けない嗚咽を漏らして俺にしがみついていた。
 「せつな…せつな、せつなぁ…っ」
 ぽん、ぽん、と頭を撫でるように叩いてやる。マリナが、泣いている子にはこうすればいいのだと教えてくれた。たぶん、正解だと思う。ロックオンの嗚咽はなかなか止まないが。
 その体温は、明らかに生きているもののそれだ。夢心地に、俺はその存在を確かめるように片方の腕を背中に回した。ああ、温かいな、生きているんだな、あんたは。
 ふと、横目に苦笑したライルが目に入った。この場にい辛さそうに、視線を泳がせている。
 そういえば、こんなことも前にあったな。
 「…泣き方、そっくりだな」
 ふと呟いた言葉は、ライルには届いていたようで、彼は顔を真っ赤にして視線を逸らした。俺はそれが少しおかしくて、咽喉を鳴らしながらロックオンを抱き締めた。
 「お帰り、ロックオン」
 ただいま、と聞いたことがないほど弱い声が答える。あんた、もう結構いい年だろうに。
 頬に熱いものが伝う。また、ロックオンの涙だろうかと思ったが、それは違った。
 俺はそこで漸く、俺が泣いていることに気づいた。

(書置きより)
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