「刹那。大丈夫か」
朦朧とする意識の中、自分がベッドの上にいることをを知った。視界が段々はっきりして、声のする方へ向く。そこには、少し心配そうな顔をしたティエリアがいた。
「…ここ、は」
酷く声がかれていた。そういえば、トレミーの電力は直っていたのか。見覚えのある天井は明るく、そこで漸くここが自分の部屋だと知った。
「ロックオン、は」
「彼は眠らせている。…刹那、何故抵抗しなかった。君にはその権利があった。彼には感謝されこそすれ、大人しくあのように殴られる理由はなかったはずだ」
「…本気で言っているのか、お前は」
少し俯き加減に、刹那は尋ねた。ティエリアはすぐには答えず、少ししてから、「いや、」と呟いた。
「だが、君が気を失うまでとなると、話は別だ」
「気を、失っていたのか」
「君の体は本調子じゃない。自分の体に今何が起こっているのか、わかっているだろう」
「…細胞代謝障害」
そうだ、とティエリアは頷いた。本来なら、死んでいるはずの体。ラッセのように、ガンダムを操るなど到底無理なはずの体。なのに今自分は生きている。何故?と尋ねても答える者などいない。
自分が死んでいたら、アニューは死ななかったんだろうか。途端見当違いなことをかんがえる。
「……ティエリア」
「なんだ」
「俺は、破壊しか出来ない。四年前は、破壊で世界を変えようとした。でも今は違う。破壊で、守りたいものがある。変えたいものも、もちろん」
「ああ」
「ニールが言っていた。俺の代わりに変わってくれと。俺はその願いを、叶えたい」
「ああ…」
「守りたいものの中には、ロックオンもいる」
「それは」
どちらの、と言いかけて、ティエリアは黙り込んだ。刹那は気に留めず、話を続ける。
「あいつの、願った、ライルの生きる未来。俺はその可能性を、ライルから奪ってしまった。ライルの大切なものを、また壊してしまった」
「…刹那」
「俺は、また…」
泣き出すかと思った。けれど、刹那は泣かずに、ただ下を向くだけだ。もう、涙すら忘れてしまったんじゃないかと思うくらい、ティエリアは刹那のそれを見ていない。代わりに、笑顔をよく見るようになった。他人からはわかりにくいかもしれないが、刹那にとってそれは確かに笑顔だ。だが、泣きそうな表情は、彼、ニールが死んでからは殆どない。悲しいことがあると、刹那の表情はうつろになるだけだ。それが彼が変わった結果なのかは、計りかねるが。
「刹那。お前の判断は正しかったといえる」
「………」
「もし僕が、不本意だが、同じことになっても、お前はそうしてくれると信じている」
「ティエリア、それは」
「ありえないこともない。奴が言っていた同タイプのイノベイター。僕も、僕と同じ顔をした奴に会ったことがある」
「……お前は、裏切らない。ティエリア・アーデである限り」
「ああ、もちろんだ。だから刹那、あまり背負い込もうとするな。奪った命に責任を持つなとは言わない。だが、あれは」
誰かがやらなければならないことだったんだ。