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人生自分満足可其充分
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 女っ気のない男所帯。イギリス式の邸をそう称したのはフランシスだった。さっさと新しい女でも探せ、そして娶れ。結婚式のディナーくらいだったらお兄さんが作ってやるからさ。バーでの酔い時に聞く文句はいい加減聞き飽きた。お前だってあの女のことが忘れられないからずっと独身なんだろう、とは思っていても口にはしない。お互い女に関して臆病なのはよく知っている。だから態々傷を抉ろうとは思わない。フランシスのそれだって、アーサーにとっては挨拶のようなものだった。
 アーサーには長い間連れ添っていた女がいた。エリザベスという、強く、聡明で美しい人だ。結婚が決まったのは突然で、エリザベスが両親や一般人に往来で宣言してしまったのだ。「私はこの人と結婚します」。突然のプロポーズだった。それまで恋人同士だったわけでもない、ただの昔馴染みで、少し年上だったアーサーが幼い頃から彼女を世話し遊んでいた程度の、ある意味兄妹のようなものだったかもしれない。そんな彼女が、どうして自分に告白したのかを尋ねたのは結婚式前日だ。マリッジブルーの欠片も感じさせない様子でエリザベスはあっけらかんと言って見せた。「だって、他の誰かと結婚するくらいなら、貴方と結婚した方がいいんだもの」。
 こればかりはアーサーは呆れた。プロポーズに何気なく答えてしまった自分もそうだが、まだ年若い女が誰かと結婚するくらいなら、などとロマンもクソもないそんな理由でプロポーズしたと言うのだから。どこで育て方を間違えたのだろう。いや、そこまでの干渉はしていなかったか。
 結婚してからというもの、アーサーとエリザベスは慎ましく、夫婦として愛し合った。驚くくらい自然体の彼らに、周囲が苦笑するくらいに彼らは理想の夫婦だった。
 しかしそれも長くは続かなかった。5年目の春、エリザベスは病に倒れた。それから一年も経たず、エリザベスはその短い生涯を終えた。話せないまで衰弱した彼女の最期の微笑みは言葉のないメッセージとして未だアーサーの脳裏に焼き付いている。
 それ以来、アーサーは女性関係を築かなかった。

 その代わり、エリザベスがこの世を去って二年経ったほどに、どういうわけかアーサーはある子供を預かることになった。
 聞けばエリザベスの遠い親戚だという。エリザベスの遠戚となれば、必然的にアーサーにとっての遠戚となる。その子供は両親に先立たれ親戚を転々としていたらしい。そして行き着いたのが、顔も見たことのない遠戚だったというわけだ。
 名をアルフレッド・F・ジョーンズといった。今は養子縁組を組んでいるので、アルフレッド・F・カークランドだ。預かった当時は十五歳で、アーサーとは十ほど離れていた。しかし国柄だろうか、いかんせんアルフレッドの容姿は二十歳でも通じる面持ちで、また子供らしくないまでに落ち着いていた。
 エリザベスさえも褒めやしなかったアーサーの料理を黙々と食べ、部屋に起こしに行く頃には既に身支度を済ませていたりとか、とにかく子供らしくなかった。子供の扱いは上手い自覚はあるのだが、こうもしっかりされていると、大人を相手にしている気分だ。

 ある日アルフレッドは高熱を出した。
 いつもならもう食事に降りてくるはずなのに、なかなか遅いからアーサーが部屋に出向いた時、ベッドでぐったりとしているのを見つけたのだ。簡単に額に触れただけでも熱く感じた額に瞠目しながら、急いで氷嚢やらタオルやらを持って看病する。アルフレッドは殆ど意識がないように見えた。
 「…昨日今日じゃないな、これ」
 思い返せば数日前からアルフレッドの様子はおかしかった。どこか疲れているようだったし、学校での勉強が忙しいのだと本人も言っていたからさして深く追求しなかった。今となっては悔やまれる。
 「おい、アル。アルフレッド」
 「……ァ…?」
 「熱がある程度下がったら、病院に行こう。それまで絶対無理はするなよ」
 「………」
 熱い頬にかかった髪を指で梳き分ける。アルフレッドは苦しそうにくしゃりと顔を歪め、その指を逃がさないかのように熱い手で掴んだ。
 「どうした?水か?」
 「…やだ…」
 「え?」
 「病院は…いやだ…」
 震える声と手で、必至にアーサーを繋ぎ止めるようにアルフレッドは懇願する。病院はいやだ、行きたくない、ここにいたい。アーサーはただアルフレッドが病院嫌いなだけだと思って、安心させるように笑いかけた。
 「薬を貰わなきゃよくならないだろう。お前はまだ子供だから、市販のはだめなんだ」
 「いやだ……おねがいだよ…」
 おねがいだから。アルフレッドはアーサーの手を祈るように引き寄せた。青色の瞳が揺れ動く。
 「おねがい…捨て、ない…で……」
 「アル…?」
 限界だったのだろう。アルフレッドはすぅ、と寝息をたてて眠ってしまった。アーサーの手を両の手で握り締めたまま。
 結局アーサーはその手を解くことが出来ず、次にアルフレッドが目を覚ますまで、ずっと傍に居続けた。
 その頃には殆ど熱は下がっていたので、今度病院に行こうとアーサーが言ったとき、アルフレッドは素直に頷いたのだった。

 後にアーサーがアルフレッドがいたという孤児院施設にそのことを伝えると、返ってきた返答に愕然とした。
 昔、まだアルフレッドが今よりももっと幼く、両親をなくして間もない頃。一度親類に連絡がつかずに施設に預けられたアルフレッドは両親の血縁に引き取られた。
 施設の職員によれば、とても気のよさそうな人たちだったらしい。実際、定期的に来るその夫婦からの電話でのアルフレッドは孤児院にいた頃よりも明るく元気だったという。
 その定期連絡が段々と間を置くようになった頃、アルフレッドは熱を出した。まだ子供で、両親を亡くしたことで精神的にも不安定だったため、それは施設でもよくあったらしい。その夫婦によって、アルフレッドは病院に連れていかれた。待合室で、夫婦が受付に行ってくると言って離れ、アルフレッドは苦しみながらも夫婦を待っていた。

 夫婦はいつまで経っても来なかった。

 小さな子供が一人きりでいるのをおかしいと思った看護師が声を掛けるまで、アルフレッドはずっと夫婦を一人で待っていた。
 看護師が受付に連絡をとると、そんな人たちは来ていないと言う。院内で呼び出しを試みても、その夫婦は現れることはなかった。
 幸いにもアルフレッドがいた孤児院の主治医がその子供の顔を覚えていたので、なんとか施設に連絡は行った。もし彼がいなければどうなっていただろう。身元がわからず、また違う施設に入れられていたかもしれない。
 施設は急きょ夫婦に連絡をとった。しかし、電話は繋がらない。翌日住所を元に訪ねると、そこは空き家だった。
 結果的に、アルフレッドは捨てられたのだ。あの夫婦に。

 また施設に舞い戻る形となったアルフレッドに対し、大人達は真実を告げることはなかった。あの人たちはちょっと仕事で海外に行ってしまってね。暫く会えないんだよ。だからね。
 何がだからなのか。幼いながらもアルフレッドは気づいていたのだろう。自分が捨てられたということに。いや、その時は気づいてなくても成長してわかってしまったのかもしれない。

 ああ、だから拒絶したのか。
 薬が効いて深く眠るアルフレッドの少し湿った髪に指を入れる。いい子だと思う。礼儀正しいし、大人しい。自分の言うことに特に文句は言わずに、苦言など聞いたこともない。それが全て幼い頃の体験から来ているものだとしたら、可哀想だと思う。
 「だから、捨てないで、か」
 悪く言えば、アルフレッドは運がなかったのだ。子供は親を選べない。
 ふと、これまで全く思ったことはなかったのに、エリザベスがいなくて残念だと思った。お互いの間に子はなかったが、自分と同じく子供好きな彼女のことだ、きっとアルフレッドを可愛がったに違いない。アーサーよりも美味い料理をアルフレッドに食べさせて、自分のことのように嬉しそうにその姿をじっと見ているのだ。そんな叶わない夢を見る。どうだろう、ベス。アーサーは写真立てに映る彼女に笑いかけた。  

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