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人生自分満足可其充分
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プラチナブロンドに殆どブルーグレイに近い紫がかった瞳。ラウンズの談話室に入ると、モニターを眺めるように壁に背を預けた見かけない人間を見つけ、スザクは警戒した。見た目は同じナイトオブラウンズのようだが、半年以上ナイトオブセブンを務めているスザクには見覚えがない。ラウンズ全員が揃う機会は殆どないが、評議の最は必ず皆出席するシステムだ。この男は生憎初見である。
訝しげにしていると、男はゆっくりこちらに振り向いた。スザクの警戒も更に強まる。
「スザク」
男は驚くほど整った顔で、ふわりと微笑んだ。警戒心もまるでなく、スザクは更に険しい顔をする。
「…どなたでしょうか」
ガチガチに固まった声で問うと、柔らかく微笑んでいた男は途端に傷付いたように顔を歪めた。しかしそれはほんの一瞬で、次の瞬間にはまた柔らかい雰囲気をまとった。
「初めましてナイトオブセブン。本日付けをもちまして、ナイトオブエイトの席を賜りました。ライといいます」
以後宜しく、と軽く会釈する動作は見るものを魅了するくらい綺麗なものだ。皇帝陛下からの通達はされていないが、スザクも今遠征から戻ってきたばかりである意味仕方ないのかもしれない。それに、彼がその肩に纏っている藍色の外套はラウンズにのみ羽織ることの許されたものだ。スパイである可能性も、このペンドラゴン宮殿の区画にいる時点で疑惑は晴れている。
あからさまな警戒心を解し、スザクも会釈する。
「ナイトオブセブン、枢木スザクです。こちらこそ宜しくお願いします」
頭を下げていたせいで、スザクは気づかなかった。
一瞬、ライと名乗る男が、酷く泣きそうな顔をして、懇願するようにスザクの名を呟いたことに。


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続きませんっ!
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 「ブラッドリー卿!お久しぶりです」
 女性、というにはまだ少し幼い色の残る声が背後からかかり、ルキアーノは振り返った。
 ブリタニアの吸血鬼と呼ばれている男の背中に臆せず立つ人物など、ラウンズを除いて数少ない。他の人間は恐ろしくて近寄りもしないが、ナイトオブテンを直属とするヴァルキュリエ隊は違っていた。
 「…なんだ、今回配属されたのはお前たちか」
 面倒そうな上司の声に、は、と意気込みよく敬礼するのはマリーカ・ソレイシィ。隣でも同様に、マリーカより幾らか大人びて見えるリーライナ・ヴェルガモン。ヴァルキュリエ隊は女性で構成されている。男がいないのは、単なるルキアーノの趣向だ。男と戦うなど面白くもないし暑苦しい、それこそ某お坊ちゃまといけ好かない裏切り者の騎士と共闘するのと同じくらい、ルキアーノは戦場において男と共に戦うことを嫌う。敵と味方という関係なら多少歯応えはあるだろうが、何より男の散り方は醜いのだ。元々作りのよくない顔を更に歪めて死んでいく。吸血鬼の名を持つ者としてそれが面白くないわけではないが、どちらかといえば綺麗な顔が恐怖に歪められる方が好きだとルキアーノは自負していた。その趣味は味方ですら矛先を向けられている。
 しかし、ルキアーノはどうもこの新人二人を苦手としていた。男っぽい性格は嫌いではないが、妙に懐かれているのだ。特にマリーカにはその傾向が強い。純血思考の兄の近くで育ったとかで、ルキアーノに重ねているのか、入隊して早々、短期間でルキアーノの後ろに立てるようになった人間など、この少女くらいだろう。リーライナは別だ。前から食えない女ではあるが、ヴァルキュリエ隊には既に二年所属しているという快挙を成し遂げている。快挙というのも、ヴァルキュリエ隊の隊員は早死にすることで有名だ。大きな戦がなければ他の部署とは殆ど変わらない生存率を誇るが、いざナイトオブテンが前線に出る戦場となれば、ひとりひとりの隊員の生存率は統計学でいうと五十パーセントを下回る。それがいくら士官学校でエリートであった者でも、だ。その為、ヴァルキュリエ隊に配属となる者はほぼ条件を満たし、志望する者だけだ。態々士官学校から引っこ抜くなどということは誰にしてみても死刑宣告に等しい。幸い、ルキアーノはその手のことに興味がないので、一応志願制ということになっている。要するに、ヴァルキュリエ隊には戦う上で物好きが多い。
 マリーカも例外ではない。新人であっても皇室への忠誠心は下手な兵士よりも気高いものだ。そして極端に、黒の騎士団の紅蓮弐式を毛嫌いしている。確か、兄キューエルはその機体と戦って殉職したのだと話された気がするが、ルキアーノは殆ど覚えていない。興味がなかったからだ。
 「紅蓮のパイロットなら独房だ。小奇麗なドレスを着せられてな」
 「知っています」
 「ほう、不当だとは思わないのか?」
 「殿下のご意思だとお聞きしています。私はブラッドリー卿と皇室に忠誠を誓うのみ。私情は慎むべきだと思っています」
 模範解答だ、とルキアーノはつまらなさそうに肩を竦めた。軍人としては合格だが、ルキアーノとしては不合格を下す。理由は言うまでもない、紅蓮のパイロットがいかに捕虜であれど、敵に違いはないのだ。それをあの総督は何を勘違いしているのか、殆ど野放し状態。さっさと殺してしまった方が国の為だという意見も少なくはない。ルキアーノの場合、国のためというよりは、血を見たいという願望の方が勝るので、捕虜の処遇に関しては興味はない。
 「なるほど」
 感慨無く答えたルキアーノの顔を覗き込むようにして、マリーカは意を決した。
 「もし、紅蓮が戦場に現れていたとして」
 「ああ?」
 「もし、です。…その時は、私に譲ってくださいましたか?」
 「マリーカ!」
 リーライナが咎めるように鋭く声を上げる。不敬である、と言っているのだ。しかしマリーカはじっと疑うような視線をルキアーノに向けた。ルキアーノは一瞬反応に遅れて、次の瞬間には破顔し、腹を抱えて笑った。
 「くく…っははははは!!面白いことを言うなソレイシィ!」
 「ブラッドリー卿!」
 リーライナがまた声を荒げる。冷や冷やしているといった感じだ。マリーカとルキアーノの纏う空気は、あまりにも近く、温度差があった。
 ひーっと喉を鳴らしながら、ルキアーノはニヤリと口元を下品に歪めた。黒い皮手袋に包まれた指先が、マリーカの顎に伸び、掴んだ。
 「そうだな、好戦的なお前に免じて、お零れくらいはやったろう」
 「…本当ですか?」
 また疑り深く首を傾げるマリーカに、ルキアーノは更に笑みを深くする。至近距離で繰り広げられる二人の様子に、リーライナは背中に流れる汗がやけに冷たく感じた。
 やがてマリーカは小さく溜息をついて、子供らしく微笑んだ。
 「もしもの話、ですもんね」
 「ああ、もしもの話だからな」
 ルキアーノの指が顎から外される。これで二人の距離は漸く一定に保たれた。それっきり二人は言葉を交わすことなく、ルキアーノはマリーカとリーライナの間を通り過ぎた。すっかり傍観者になってしまったリーライナは、一難去ったと肩を下ろす。
 しかし次の瞬間、ふと目に入った、ルキアーノを見送るマリーカの横顔を見て、言葉を失った。
 それは憎悪でも嫌悪でも嫉妬でもなく、ただ瞳は追憶に揺れている。
 「マリーカ?」
 「……キューエルの仇、討ち損ねちゃったみたい」
 私、まだ何もしてないのに。
 力なく笑ったマリーカは、一人の兄を喪ったただの少女のような影を残しつつ、一瞬にして軍人の顔つきに戻ってしまう。リーライナは複雑な心境でその一連を見つめていた。

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マリーカ→ルキアーノに不覚にも燃えてしまった。とりあえずルキアーノさん、セクハラです。←
マリーカって小説で少ししか出てないからよく覚えてないんですが、キューエルの死についてはどう言ってかな…覚えてない。コーネリアが「お前の兄の仇は必ずとる」って言ってたのは覚えてるんだけど。
確か「兄は帝国に忠義を尽くして名誉ある死を遂げた」的なこと言ってた気がする。もう一回読もう。辛い巻だけど。
ルキアーノさんはラウンズ以外と絡めると結構良い奴なんじゃないかと勝手に妄想。性格的な意味でね。
ヴァルキュリエ隊をさりげなく寵愛してたらいいなと思う。さりげなく。
マリーカとははからずもいつの間にか兄妹みたいな関係になっちゃったんだぜ、みたいな。
それにしてもここのマリーカ、強すぎるw

 

 気付いたら、見知らぬクレーターの底に座り込んでいた。
 今までどうしていたのか記憶はない。カレンが乗る新型の紅蓮弐式に致命的な傷を負わされかけて、そして、…それからが思い出せない。
 ここはどこだろう。辺りを見渡す。土むき出しのクレーター。障害物で遮られない丸い空。世界の取り残されたような、そんな感覚だ。
 近くにあるランスロットのエナジーフィラーは尽きている。急な傾斜を自分で上がるしかないのかと思うと、少し気が重い。

 「違う」

 違う。根本的に違う。自分は知っている。ここを。このクレーターが何によって生み出されたのかを。
 見上げた頭上には宰相が率いる空中戦艦アヴァロン。ここはきっとエリア11。そして、ここは。

 「…撃った?」

 ランスロットの腰部分に取り付けられているはずのフレイヤは、ない。
 記憶はない。だがスザクは確信していた。あの時自分は「死ぬ」と思ったのに、今「生きている」という事実が鋭く頭に突き刺さる。

 トウキョウ租界。誰がいた。民間人だ。ブリタニア人も名誉ブリタニア人も、戦っていた軍人も、日本人も、黒の騎士団も、戦闘に関係のない人間が、たくさんいたはずだ。たくさんの人がこの地で生活していた。たくさんの建物があった。たくさんの人がいた。

 なのに。

 残っているのは大きなクレーターだけ。
 中心にいるのはスザクとランスロットしかいない。

 ナナリーは。ナナリーはどうしたんだ。あの時、まだ、

 「政庁に…?」

 既にエリア11に政庁は存在しない。今スザクの立っているその場所こそが、政庁が建っていた場所だ。
 逃げているはずだ。逃げているはずだと信じたい。否違う。違う、ナナリーじゃない。違う。

 「撃ったのか…?また、僕は…俺は…また…?」

 へたり、と少し熱を帯びた土に膝を折る。
 見開いた瞳は、丸い空に浮かぶアヴァロンを凝視する。

 太陽が、見えない。

 大きなノアの方舟はスザクに大きな影を作った。


 撃ってしまった。記憶はない。

 だが、撃ってしまったのだ。



 撃ってはならなかったのに。


 「は…はは…っ」

 渇いた音が喉を鳴らす。

 「あ…はは…撃ったのか、そうか…また僕は生きてるのか…また…っ

 ははは…ははははははっ」

 口は笑っていない。音だけが円形の壁に響く。
 もう、笑うことさえ忘れてしまった。


 もういい。

 「死んでやるさ、ルルーシュ」

 呪いに抗って、抗って、抗って。


 そして最期に、お前に。


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あれがもし、笑っているんだとして。
表情は笑っていないから、慟哭だと思うんだけど。でも肩が揺れてるからなぁ。
笑顔がもうわからなくなって、声でしか笑えなくなっちゃった、とか。
そんなやんでる枢木さん、好きになるしかない。

再確認した。かれこれ10回くらい検証してみた。

やっぱり笑ってるよあの子。壊れちゃったのかな。
これでルルーシュは本当に全部失った。ざまあ、とは言わんがな。自業自得だ。
このまま壊れたスザクが公式化してくれれば願ったり叶ったりなんだけどね。こういうと悪いけど、あの子ももうナナリーという負い目はないわけだ。もう好きにできる。新しいランスロットで暴れればいい。殺してくれる誰かを見つけるまで。
毒死って出来るのかな。どうなんだろう。でもスザクさんは誰かの為に死にたいんだよね。
ジノにはもう余り期待できない、かな…。もうここまで来ると手は出せないでしょうよ。だって何も知らないもん彼。
櫻井氏、まじで頑張れ。

 トウキョウ租界からそれ程離れていない、他のゲットーとは違いほぼ無傷の“外”の集合団地の一室を、ヒルダ・ログリエは間借りしていた。

 「クルルギ、クルルギ…ああ、旧日本の首相と同じ名前」
 じゃああんたはその子供、と得心いったという顔をして、ヒルダはバスタオルに包まれたスザクの頬を指で刺した。スザクはぴくりとも反応しない。普通なら、嫌がるくらいはするのに、ここに連れて来られる間もこの少年は無表情で無抵抗だ。
 敗戦国の人間は侵略国の人間である者に戦争の当事者でなくとも憎悪を向けるものだが、この子供は違った。空っぽなのだ。けれどそれは、彼の出自を考えれば当然かもしれなかった。

 終戦して一年。嘗て日本の首都とされていた東京には瞬く間に「トウキョウ租界」が建設され、政庁もそこに置かれた。一見そこだけ見れば、租界はブリタニアそのものだ。しかし一歩租界から足を踏み出せば、世界は一転する。見渡す限り瓦礫の山、まだ回収されていない身元不明な死体はごろごろ転がっている。悪臭の中、嘗て日本人と呼ばれたイレブンは最低限の生活水準が維持されていない環境での生活を強いられている。時折、良心的な民間の現地ブリタニア人がボランティアで救済活動を行っているが、それすら間に合ってはいない。これが国や貴族などがサポーターとしているならば話は別なのだが、いかんせん、国柄か皇帝始め、地位の高い人間はそのような微温湯を嫌う性質だ。最近になって、イレブンによるレジスタンスやテロも活発になっているのも手伝い、現地駐留部隊から弾圧を受けるイレブンの生活水準は低迷の一途を辿るばかりだ。
 だので、この少年のような子供はヒルダもよく見かけていた。だからといって手を差し伸べようなどとは思わなかったし、この子供を連れて来たのだって、政庁から軍人に連れられて出てきたのを見て興味をひいただけの、要するにただの気紛れだったのだ。

 それがまさか、亡国の主の忘れ形見だとは思いもしなかったわけだが。

 またとんだ当たりを引いたものだ、と小さく溜息をつきながら、ヒルダはベッドに座る少年と目線を合わせるように長い足を折った。
 「ブリタニア語は分かる?」
 駄目元で自信のない日本語で尋ねると、意外にも、少年は首を縦に小さく振った。なら話せるか、と訊けば、これも同じように反応を示した。
 よく出来た子供だ、とヒルダは笑ってタオル越しにやわらかい髪の毛を撫でてやった。
 触れられたことに驚いたのか、少年の小さな体はおかしなくらい大袈裟に震えた。ヒルダの貸したシャツと短パンから見える腕と足には痛々しい程の擦り傷と青痰が主張している。足もふらついていたし、風呂に入れた時はぞっとするくらいあばらが浮き出ていた。体を清める間、傷が痛むだろうに少年は抵抗もせずにいるのを見て、ヒルダは人形を風呂に入れているみたいで気味が悪い、と素直に思った。

 ダイニングのテーブルに出されたまま、口に付けられていない米の流動食は既に覚めている。横に置かれたコップの中に入っていた水は空っぽだ。少年、スザクはここに来て水しか手をつけなかった。
 もっと飲みなさい、とヒルダが勧めたものの、二杯目以降、スザクは吐いた。一体どれ程食物を口にしていなかったのか。これまで生きていられたのが不思議なくらいだ。
 「持ち物はこれだけ?」
 ベッドの脇に置かれたリュックを示すと、スザクは声を出さずに頷いた。先程本人の了解なしに中身を確認させて貰ったが、入っていたのは中身のない携帯食の殻と異臭を放つ空っぽの水筒、身分証明書、古びた彫刻のされた高そうな懐中時計。
 スザクは細すぎる腕でリュックを受け取ると、中からごそごそと何かを取り出した。懐中時計だ。それを大事そうに、ぎゅっと握る。そういえば、ここに来る途中、サイドカーで握り締めていたのはそれだった気がする。余程大事なものなのだろう。ヒルダは双眸を細めた。
 「お腹減らない?」
 「……食べられない」
 漸く、スザクはたどたどしく口を開いた。細々とした声は唇と同じように枯れている。
 「じゃあ、あとでまた作ってあげる」
 無理強いすればきっと先程のように吐き出してしまうだろう。ヒルダはスザクの顔を覗き込んだ。そこに表情は無い。どこかに捨ててきてしまったかのように、ごっそりと抜け落ちている。
 ごめんなさい、と口が動く。掠れすぎて、音にさえなっていないが、ヒルダは笑みを浮かべながら構わない、と頭を撫でた。小さな体は強張りを解かないが、先程のような大袈裟な拒絶ではないことに少しばかり安堵する。
 「ベッド、使って構わないから。今日はもう寝てしまいなさい」
 細い首と骨ばった背に手を添えながら、小さな体を横たえてやる。外見だけで見れば九歳か十歳くらいだと推測されるが、女のヒルダでも驚くくらい、子供にしては軽すぎるその重さが痛々しい。

 ベッドに横たえられた後も、スザクは目を閉じようとはしなかった。手にはずっと懐中時計が握られている。部屋に戻ってきた時には既に日は傾きかけていたが、夜になり、日付が変わり、夜が明けそうな時刻になって、漸く子供は目を閉じた。その間、ヒルダはずっと懐中時計の握られていない方の手に自分の手を重ねていた。
 

 午前四時を過ぎた頃、窓から漏れる青い光の下、小さすぎる子供はやっと寝息をたてた。
 

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あれー過去編いっちゃったよ(笑)すいませんあと一話で終わらない。頑張る。  
「え、ルルーシュ僕の父さんに会ったことあるの?」
購買で購入したライスボールの米粒を口端につけながら、異例の編入生枢木スザクは驚いたような顔をした。ルルーシュはそれを何かの冗談だろうと呆れながらフォークを止める。
「何言ってるんだ。お前一緒に住んでたろう」
スザクは更に首を傾げた。
「もしかして藤堂さんと勘違いしてる?あの人は違うよ」
剣道の先生だって、ルルーシュも知ってるだろ?とスザクは笑う。ルルーシュは思わず顔をしかめた。この男はこういう下らない冗談は言わないはずで、それにスザクは父ゲンブを敬愛していたように見える。だから尚のこと、スザクのその態度は明らかにおかしい。
「スザク、お前父親の名前知ってるか」
「枢木ゲンブでしょ」
なんだ、やっぱり冗談なんじゃないか、とルルーシュはため息をつき、また食事を再開した。
「どんな人だった?」
この話はもう終わりだと思っていたのに、スザクは興味津々とばかりにルルーシュを覗き込んでくる。さすがにルルーシュもこんなくだらない会話を続けるなど馬鹿らしいと思い、鬱陶しい、とスザクの頭を押しやった。
「からかうのはいい加減にしろ。俺を騙したいならもう少しマシな嘘をつけ」
「まさか、騙すだなんて」
スザクはきょとんとしながら誤解だよと言う。それだよそれ。
「今進行形で騙しているだろうが。大体ゲンブさんに会ったことがないって、お前なあ。子供でもまだマシな嘘をつくぞ」
「嘘じゃないって!ルルーシュこそ何言ってるんだよ、一緒に暮らしてたのは父さんじゃなくて母さんだろう」
ルルーシュの方が僕を騙そうとしてるじゃないか、とスザクは興奮して声を荒げた。その激しさに気圧されそうになるが、七年前の自分ではない。それに、正しいのはこちらなのだ、気負う理由もない。
「いい加減にしろ。もうこの話は止めだ…」
「ルルーシュが先に言い出したのに狡いよ。嘘つきなのはそっちじゃないか」
この期に及んでまだ言うか、とルルーシュはスザクを睨みつけるが、スザクの方も負けじと眼光を光らせている。
最初は子供じみた意地だとあしらっていたが、スザクの真剣さを見るに、とても嘘をついているようには見えない。
まさか、と思いつつも、ルルーシュは口を開いた。
「本当に知らないのか」
「だからそうだって言ってるだろ。両親は離婚して、僕は母方の枢木に引き取られて、そこに君とナナリーが来たんじゃないか」
忘れたのかい、とスザクは心底呆れた。ルルーシュは呆然とそれを聞いて、おかしい、と反論しようと口を開きかけたが、スザクの目が嘘を言っているとは思えなくて口を噤む。
七年前、皇帝に捨てられた自分とナナリーを取引として受け入れたのは紛れもない、当時の首相枢木ゲンブだ。彼の実家の枢木神社に身を置くことになり、それからスザクと一悶着しつつ交流を深めた。しかし、そこにスザクの言う母親の影などない。事実、当時のスザクは父親しかいないと言っていたし、ゲンブが仕事から帰ってくる時間になると何を置いても彼は家に帰り挨拶に向かっていた。彼は、ルルーシュには父親のことを誇りに思っていたように見えたのに、それが全部、根本から違っている。

異常だ。

それは自分なのか、スザクなのか。
「ああ、そうだったな。ごめん」
ルルーシュは当たり障りのない嘘をついて笑った。スザクも漸くわかったかと納得したようで、またライスボールを頬張りだした。



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異常なのはスザク。
このあとルルーシュはナナリーに確認して自分が正しいことがわかります。
スザクがアーニャ的な存在なら陛下のギアスも納得いったのになあ。
 ヴァインベルグ邸の広い廊下をスザクとジノは歩いていた。外は夜も更けて真っ暗だというのに、そんなことを感じさせないこの廊下の照明、高い天井に飾られた見事なシャンデリアは煌々と道筋を照らしている。サロンは今頃ダンスでも踊っている頃だろう。

 スザクは先程の“事件”の当事者としてヴァインベルグ当主に謝罪を申し出たが、ジノに似て、否、ジノが彼に似たのだろう。紳士的な色気を感じさせる当主は、「いい余興でしたよ」とにこやかに言った。要するにお咎めはないということだ。けれどそれは、決してスザクに免じたわけではないということを、スザク自身よくわかっていた。彼はスザクだから、ラウンズだからと免じたわけではない。“皇帝陛下の目”だから免じたのだ。あとは、“ログリエ侯爵の関係者だから”というのも含まれるだろう。
 後ろから見ていたジノが声を掛けなければ、水面下の冷戦はきっと今も続いていたことだろう。気にするな、とジノは言うが、当事者であるからには気にするなという方が難しい。不満そうな顔をしていたのだろうか、ジノは少し苦笑を浮かべていた。
 そして、スザクという存在は良い意味など殆どなく、悪い意味でサロンの雰囲気をぶち壊す。アーニャに交代を頼み、ヒルデガード・ログリエ侯爵に呼ばれていたこともあり、スザクはサロンを後にした。そこに付いてきたのが、ジノだ。
 「君は駄目だろう。ヴァインベルグ家の一員なんだし、家業は全うしなよ」
 「十分やってやったさ。兄上達以上にな。それに、スザクだってテラスの場所なんてわからないだろう?初めてここに来たんだし」
 う、と痛いところを突かれて、スザクは押し黙る。アーニャも追い討ちをかけるように、「同意する。ジノも連れて行った方がいい」と携帯電話のディスプレイに集中しながら宣告した。的を得ているので、言い返すにも言い返せない。
 「迷惑だろう?」
 「スザクが?」
 「馬鹿言え。君が、だ」
 「だからそんなことないって」
 なら後ろで恨めしそうにこちらを見ている老若男女の淑女の皆々様を振り返り見ても言えるのか、とスザクは溜息をついたが、あえて言葉にはしない。強情なジノに言ったところで効果などないのだ。それに、ジノとしてもここを出たいのかもしれない。遠くから見ていた時は気付かなかったが、普段は見えない疲れが少し顔に出ている。これ以上噂を立てられるのは御免したいが、彼とて理由は必要だ、とスザクは自分を納得させた。
 「じゃあ、アーニャ、頼むね」
 「わかった。行ってらっしゃい」

 そして今に至る、というわけだ。


 面倒臭くない、と言えば、嘘になる。スザクとジノは現在進行形で“ヒルデガード・ログリエが待っていると思われるテラス”はどこか、と頭を捻っていた。
 テラスといっても、ここ、ヴァインベルグ邸の屋敷は前述した通り、広大だ。とりあえず広大なのだ。人生の殆どをここで過ごしたことがあるジノだって入ったことがない部屋も多い。こんな見事な屋敷に、テラスと呼ばれるものは十を超すというし、一つ一つ当たって見るにも、時間的余裕も、ましてやだだっ広い敷地内を端から端まで歩くなんて非効率極まりない。体力自慢である二人も、流石に今回ばかりは項垂れた。
 「噂には聞いていたが、いいや、噂通りの豪傑なお方だな。でもまさか、とは思っていたけど、スザクが当主ご本人と知り合いとはな」
 「え、君は知ってたんじゃないのか?」
 だから夜会に誘ったんだと思っていた、とスザクはジノの意外な言葉に目を丸くした。
 「いや、まさか、と思ってたんだ。だってお前あの時、ヒルダ・ログリエって言ったろう?ミス・ヒルデガードの愛称はヒルダ。九割は本人じゃないかと思ってたけどさ」
 「ああ…そうだね」
 「四年前、ログリエ侯はそう名乗ってたのか?」
 「うん。だからあの人の出自も、なんとなくしか…殆ど勘だったよ。気紛れな人だし、何よりお世話になっている身だったから詮索することなんて出来なかった」
 「昔も真面目だったんだな…お前」
 でもせめて相手の身元くらいは確認しとけよ、とジノは苦笑した。そんな余裕はなかったんだ、とスザクは反論しそうになったが、止めた。そんなものはただの言い訳で、ただあの頃の自分は自分のことで精一杯で現実から目を放そうと必死だったに過ぎない。
 今思えば、愚かしいと思う。現実から逃げたところで、得られるものなど何もなかった。
 (それすら気付かずに繰り返して、今、僕はここにいる)
 全ての結果だ。八年前抜いた刃の矛先はそこに向いているのだ。嘗て自分に生きるか死ぬかの選択肢を掲示してきた、荘厳な雰囲気を纏う老人を思い出して身震いする。
 「寒いのか?スザク」
 目敏く気付いたのか、ジノはスザクの顔を覗き込んだ。
 「いいや、大丈夫だ。それよりあの人を探さないと…」

 「ゲットーは嫌いじゃない」

 
決して裕福なようなものではない、租界付近のゲットーの集合団地の屋上で、彼女は夜空をバックにそう言った。

 「特別好きってわけじゃないけどね。こうやってなんの障害もなく景色を見渡すことは、租界じゃ出来ないでしょ」


 ハッとして、スザクは顔を上げた。
 「ジノ」
 「おお?」
 「ここのテラスで、一番見晴らしがいいところはないか?そうだな…出来るだけ遠くが見えるところだ」
 「ああ、麓の街が見えるところなら二箇所あるな。夜になると夜景が綺麗に見えるところだ。それにこの二つはそんなに離れてない」
 「じゃあ、そこに案内してくれ」
 淡々と話を進めるスザクに、ジノはおいおい、と肩を竦ませた。
 「目星でもついたのか?」
 そう尋ねると、スザクははっきりと頷いた。顔を覗き込んでいたジノは、その時浮かべた彼の表情に息を呑んだ。
 「あの人は、そういう所が好きなんだよ」
 (なんて顔するんだ、お前)
 懐かしむような、慈愛に満ちた、少し泣きそうな微笑を浮かべたスザクに、ジノはかける言葉が見つからなかった。ジノは最初、彼は余り表情を変化させない人間なのだと思っていた。付き合っていくうちに、段々と表情の変わる様を見れるようになったから、勝手に打ち解けたのだと思っていた。
 しかし、それはただの身勝手な勘違いなのだと、今気付かされた。
 「ジノ?」
 スザクは首を小さく傾げた。先程の表情はもう消えている。ジノが知っているいつもの彼だ。ジノは少しそれが残念だと思った。
 「ああ、わかった案内する」
 いつものようにジノも笑顔を浮かべながら、また廊下を歩き出す。
 遠いな、というジノの呟きは、後ろを歩くスザクには聞こえなかった。


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17話要素急遽混ぜてみた。
あと一、二話くらいで終わると思う。
最初に序盤の方書いてて手違いで消えたときは本当に泣きそうでしたが、うん。約束破ってごめんなさい!
宰相閣下がおわす一室から帰ってきたスザクは、酷く憔悴していた。一体何があって、どこに行っていたのか尋ねたいという欲望はすぐに消え去った。今何か言えばきっと彼を傷つける。けれど何もしないで居られるほど忍耐はないから、ジノは学生服の肩を抱き寄せた。

スザクは抵抗しなかった。いつものように「重い」、「暑苦しい」と嫌味も漏らさない。最近彼の様子がおかしいのは明白であったが、自分の手の届かないところでスザクが傷ついてしまっては、出来ることは本当に少ないのだとジノは痛感した。

「あったかいなあ」

スザクは独り言のように呟いた。内容の割りに、感情がないその声色にジノは言い知れぬ恐怖を覚え、思わず彼の胸の前で組んでいた腕を解きそうになった。それでも、ぴくりと動いてしまったからきっとスザクは気付いている。

「どうかしたのか」

とうとう声を掛けてしまったジノは、その次に後悔した。後ろからでも分かる。スザクは泣いていた。ぽろぽろと大粒の涙がジノの白い袖に落ちた。

(そんな顔が見たいわけじゃないのに)

泣かないで、笑ってくれよ、とは言えない。何も知らないから、スザクが望む言葉もわからない。

涙を拭わないスザクの背に守るようにのし掛かりながら、ジノは固く目を閉じた。

(お前がブリタニア人ならよかったのに)

あの少女のように、彼を正当化させる甘い血が流れていれば、甘い言葉を囁いてきっと助けてやれるのに。







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逆効果なときだってあるさ。ユフィはもう冷たかったんだよね。
 行くところがなかったのは、事実だ。司令部に行けと言われて行ってみたものの、何やら難しいことを言われて、事情聴取が終わったらゴミのようにゲットーに置き去りにされた。取引材料にも、人質にもする価値がないと、態度で示された。なぜかあの時永らえてしまった命だが、このまま朽ちていくのもいいと思った。何日か飲まず食わずで、もう生きる意思すら沸かなかった。けれどそんな時、目の前で二本の足が立ち止まった。
 顔を見ようとする気力もなくて、ただ地面を感慨なく見つめていると、頭上ではぁ、と大きな溜息をつくのが聞こえた。その人は落ち着いた声で「あんた、イレブンでしょう」と断定した。ブリタニア語だったから、すぐにその人がブリタニア人だとわかって、恐ろしさで身体を強張らせ、もう上を見上げることは叶わなかった。
 反射的に、ぶたれる、と思った。司令部で抵抗した時、身体が悲鳴を上げて動けないくらい殴られたのは、今でも記憶に新しい。けれどそれは、つい最近まで自分が他人にしていたことと変わりなかったことに気付かされた。その結果が、アレだった。

 (とうさん…)

 祈ったところで父は助けにこない。父はもういない。生きていない。自分が殺した。
 それでも恐怖心は抑えられなくて、固く目を瞑っていると、両頬を冷たい両手で包まれた。
 存外優しいそれに、少年、枢木スザクはゆっくりと視界を開いた。

 スザクよりも澄んだ緑色の瞳。エメラルドに近いそれと、少し目にかかる分けられた金色の前髪。綺麗、というには強靭そうな顔つきの女性は、にっこりと笑った。

 「私があんたを引き取ったげる。その代わり、あんたは家の炊事洗濯掃除全部するのよ。オーケイわかった?あ、そういえばあんた名前なんていうの?」

 スザクはきょとんとした。はい、ともいいえ、とも答えないまま、女性はスザクの手を引いて、恐らく彼女が乗ってきたであろうバイクのサイドカーに乗せた。突然のことで何が何だかわからない、と泣きそうな顔をしていると、それを吹き飛ばすかのように、太陽のように女性は笑った。

 「私はヒルダ・ログリエっての。よろしくね」

 今まで出会った大人の中で、彼女だけは輝いて見えた。




 「久しぶりね、スザク」
 そう言って頬を抓る彼女、ヒルデガードはとても楽しそうに笑った。髪の毛や服についてしまったワインが気にならないのだろうか。唐突すぎてリアクションがなあなあなスザクが不満なのか、ヒルデガードは先程の言葉責めの際にさえ見せなかった不機嫌な顔をする。
 「久々に会えたのに何かないの?相変わらずドン臭いのねあんた」
 ああこの罵倒も久々だ、と思わず懐かしみそうになったが、今はそんな状況ではない。スザクは急いでハンカチーフを取り出し、ヒルデガードに押し付けた。
 「これで拭いて!」
 「あ。ありがと」
 「一体どうして前に出てきたりしたんだ!」
 「あんたがドン臭いから」
 ドン臭いドン臭い、と連発するヒルデガードに、スザクは顔を真っ赤にしつつも彼女の手からハンカチーフを奪い取り、髪についたワインを拭き取っていく。周りがざわざわと騒がしいが今は気にしている暇はない。あとでどんな噂がどう流れようともどうでもよかった。ただ、目の前で彼女が自分を庇ったことが問題なのだ。
 この時点で、最初に「会わないでいるべきだ」と考えていた自分が既にいなくなっていることに、スザクは気付いていない。
 「怪我は?」
 グラスは床で砕け散っているが、スザクは当時の状況をリアルタイムで見ていない。声が震えているのが情けないが、ワインの色が赤色のために分かりづらいのだ。
 ヒルデガードは首を横に振り、グラスは右手で叩き落したのだと言う。右手の手袋にワインが付着していたのは、頭を庇ったからではないらしい。とりあえず外傷はないようなので、スザクは安堵の息をついた。
 「ログリエ侯」
 ギャラリーの中を割って駆けつけたのだろう、少し焦った様子のジノが二人に駆け寄った。その時、やっとスザクは自分が勤務中であることと、この場で相応しい態度がとれていなかったことに気付いた。対してヒルデガードは気にした様子もなく、ジノに振り返り気丈に笑みを浮かべた。上品、というよりは男らしい、ワインに汚れたドレスなど気にさせない、そんな笑みだ。
 「ああ、ヴァインベルグ殿の…ジノ、だったかしら」
 「まさかお見知りおき頂いていたとは、光栄の至りで御座います。この度は我が一族主催の夜会でありながら監督不届きであったことをお詫びします。今すぐに代えの服をご用意致しますので」
 「大丈夫、もう一着あるから。シャワーを貸してくださる?」
 「畏まりました」
 既にメイドを呼びつけていたのだろう、ジノは傍らに置いていた、見るからにベテランそうな女性に事の旨を伝え、ヒルデガードはにこやかに受け応えしながらメイドの案内に頷いた。先導されるままサロンを出て行くところで、彼女はスザクを振り返った。彼女と彼女の近くにいた人間くらいしか聞き取れないくらいの声量で。
 「ここのテラスで待ってなさい」
 母親のような物言いと共に、メイドに先導されながらヒルデガードはサロンを後にした。
 待っていろ、と言った割には、具体的な時間は教えられていない。相変わらずだ、と溜息をつきつつ、スザクはジノの肩越しに騒然とするギャラリーを見渡した。最初よりも強い好奇の視線が向けられている。正直、気分がいいものではない。一瞬紛れていた胃の辺りのムカムカがぶり返した気がした。
 「……なにごと?」
 背後で声がして、驚いて振り向く。視線の延長上に犯人はいない。しかし少し下にずらせば、桜色の髪の少女が怪訝そうにジノとスザクを見上げていた。ナイトオブシックス、アーニャ・アールストレイムだ。
 「アーニャ。戻ってきたのか」
 「サロンの方が騒がしかったから戻ってくる途中、二人の貴族とすれ違った。あれはなに?」
 エドワーズ父子のことだ。きっと事情の知らないアーニャにとって、余程彼らが奇妙に見えたに違いない。想像してしまったのか、ジノは噴き出しそうになりながらも、肩を震わせながらアーニャの頭に手を置いた。
 随分滑稽な喜劇と、感動も何もない衝撃的な再会があったんだよ、とジノが言うと、ますますアーニャは首を傾げて、
 「意味不明」
 と呟いた。


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予想以上に地味に続いている。きっと需要は私しかないのにな!

 

 夜。月は上弦。ブリタニア帝国のある州に広大な敷地を持つヴァインベルグ本邸の窓からは、シャンデリアから発せられるオレンジ色の光が煌々と漏れ出していた。
 恐らく、敷地でいえばペンドラゴン宮殿の大きさと然程変わらないのではないだろうか。島国で生まれたスザクにはその地価がどれほどなのかは知らないが、さすがは帝国貴族、と感嘆。アーニャは見慣れているのだろうか、特に興味を示すわけではなく、いつもと同じように携帯電話で写真を撮っている。
 「よ、来たな」
 声がする方に振り向けば、黒塗りのリムジンから降りた見知った金髪の長身がこちらに手を振っていた。ジノ・ヴァインベルグだ。スザクも片手を上げて応じながら、彼が邸の入り口からやってきたことに少し疑問が生じた。
 「あれ。ジノはここに住んでるんじゃないのか」
 「…ジノはナイトオブスリーとしての屋敷がある。ラウンズになってからは余り家には帰らない」
 小さく呟いた声はアーニャに届いていたようだ。彼女の言葉に「そうなんだ」と少し驚いていると、途端に後ろから首元に負担がかかった。何だと言わずとも正体はわかっているので、スザクはじとっとした目で後ろ斜め上を見上げた。
 「ジノ、重いよ」
 スザクが抗議しても、首をホールドするジノの腕は解かれない。それどころかもう片方の腕まで回して負担は増す一方だ。男として耐えられないことはないが、暑苦しくて仕方ない。
 ジノの姿はナイトオブラウンズのスーツではなく、ロイドがよく式典で着ているような、今まで見た彼の服装の中で一番貴族らしいものだ。以前アーニャの任務に非公式で付いていった際の人のセンスを問われるかのようなあれは私服であったし、そういえば彼が貴族らしいところはあまり見たことがなかったかもしれない、とスザクは一人ごちた。
 ジノはスザクとアーニャを交互に見やり、少し後悔したような表情を浮かべた。
 「私もラウンズの服で来ればよかったかな。いつもの三人なのになんか私だけ仲間はずれみたいだ」
 子供か、とアーニャが小さく呟いたのはあえて聞かなかったことにする。
 「仲間はずれも何も、これは仕事だろ。君は休暇を満喫すればいいじゃないか」
 「休暇!」
 ハッ、と鼻で笑う勢いで叫んだジノに、スザクは一瞬びくりとする。アーニャも物珍しそうに興味を携帯電話からジノに移した。
 「休暇、ねぇ。果たして休暇で終わってくれるのやら」
 スザクを腕から解放し、そう言うジノの瞳は、侮蔑するように邸の方へ向けられていた。彼の珍しく見せるその態度に、スザクは目を丸くする。自然と三人の視線は煌々と輝くヴァインベルグ本邸に向けられるようになった。
 「アーニャは大丈夫だろうけど、スザクは気をつけろよ。ここは権力に塗れた猛獣の巣窟さ」
 「…ジノ?」
 「変な猫に噛まれるなってこと」
 さ、行くか。とジノが大股で足を進める。いつの間にかスザクの手は彼の手の中にあり、バランスを崩しそうになりながら引き摺られるような形で屋敷に引っ張られる。アーニャは無言で、携帯電話を操作しながら後ろについて歩いた。



 だだっ広いサロンにぞろぞろと蠢く人、人、人。幼少期暮らしていた環境のせいか、十八になってもこの人ごみには慣れない。今でも胃の辺りがムカムカして、ディーラーや貴族が時々前を通る度にイライラは募る。普段ならこんなもの苦ではないのに、今日の自分はやはり変だ、と痛感する。その理由が分かり切っているのと、解決策などないということもわかっているから余計にストレスは溜まる一方だ。
 この空間における自分という存在の異物感と、周囲の好奇と侮蔑の視線、こちらを見ながら小さな声で相手に耳打ちする音。何もかもがスザクに不快感を与える。無論、現状においてそんなことを言える立場ではないということは理解していた。仕事だ、仕事。そう思うように片付けてなんとか過ごしている。
 隣にいた筈のアーニャは外の空気を吸ってくるとかで不在だ。護衛の指揮官は一番人の多いサロンに配置をおかれている。今ナイトオブシックスがいない中、ナイトオブセブンまでもサロンを放っておくわけにもいかないだろう。
 時々視線の端でジノの姿を見つけるが(身長がやたら大きいせいで嫌でも目に付くのだ)、彼は彼でヴァインベルグ家の一員として役割があるのだろう。先程から十何人目かの令嬢の相手をしている。それを見ていれば、彼の立場よりも自分の方が遥かにマシだと思えた。
 (口達者の成せる業か、やっぱりジノは貴族だな)
 ミレイ会長とよく似ている、と思う。いやでもああいう空間にいなくてはならないという苦痛はスザクも知ってはいるがそれはもう昔のこと。風の噂、という程曖昧ではないが、枢木という家は滅びたと聞く。血縁者はまだ生きているかもしれないが、恐らくその中でスザクが知る者はいないだろう。もともと、スザクにとっては「家」ではなかったものだ。

 時計はもう十時を過ぎている。予定では夜会は深夜十二時まで行われる手筈だ。自分の屋敷に帰る頃にはきっと深夜二時を回っているだろう。執事に預けてきたものの、アーサーが寂しがっていないか心配になる。
 とはいえ、今は仕事に集中しなければならない。思考の海に落ちそうになったのをなんとか堪え、またサロンの方を注視する。

 「あらあら、貴方がナイトオブセブン様?」

 どこかの貴族か、いかにも女らしい高いトーンの声が赤を基調とするドレスの下に隠されたヒールの音で盛大に自己主張するのように鳴らしながらスザクの方へ近づいてくる。
 ドレスと同じように真っ赤に塗られた唇。整った顔ではあるが、少々化粧が濃い。それなりの歳なのだろうか、スザクは貴族式の礼を返した。
 「ご機嫌麗しゅう。ナイトオブセブン、枢木スザクと申します」
 「お噂はかねがね。貴族界でも貴方の名前はよく口にされましてよ、枢木卿」
 そう言うが、貴族の女性は名乗らない。いや、名乗るつもりなのないのだ。“下賤なイレブン”には。
 なるほど、とクッと口元を吊り上げそうになる自分をどうにか抑える。こういう腹の探り合いはあまり得意ではないが、そこそこ出来る方だ。これも、昔から玄武に会合へ連れて行かれていた賜物だろう。全く国柄の違う、しかも日本という国を失った今、こんなところで活用する日が来るとは思いもしなかったが。
 貴族の女は狐のようにころころと笑う。
 「そうですわね。例えば、ナンバーズでありながら“かの有名な”ユーフェミア様をその身体で誘惑し、そして主を喪っても尚、皇帝陛下をも…一体どんな手を使われたんですの?是非ご教授願いたいですわ」
 厭らしい笑みを浮かべながら、貴族の女はスザクの全身を舐めるように見やった。この場所でユーフェミアの蔑称を口にされなかったことに安堵しつつも(口にされてしまったら自分を止められる自信はない)、スザクは特に愛想笑いも浮かべずに、“軍人”としての顔で受けた。いつの間にか、ギャラリーの注意の大半はこちらに向けられている。
 「ユーフェミア様を敬愛しておりますが、その噂のような関係ではありませんでした。あと僭越ながら申し上げますが、ナイトオブラウンズに身分は関係ありません。実力が認められたが故に得られる称号であると自負しております。それに、そのような陛下のお気紛れで自分がナイトオブラウンズを名乗っているなど、同じラウンズであるヴァインベルグ卿への侮辱ではありませんか?」
 そう言うと、貴族の女の顔は一瞬にして真っ白になった。元々白い顔だったが、今ではチークの意味さえないくらい顔色が悪い。そう、ここはヴァインベルグ主催の夜会。彼女は間接的な失言を見事言い当てられてしまったのだ。おやおや、とギャラリーから様々な声が上がる。それは貴族の女への言葉であったり、“元ナンバーズ”でありながら言い負かしてしまったスザクが身の程知らず、という上から見た言葉だ。
 やがて顔色を悪くしていた貴族の女は恥と怒りで真っ赤な顔をして、憎悪の色を浮かべた瞳でスザクを睨みつけた。このまま引き下がってくれればいい。スザクは一歩も動かず、その目を一身に受け止めていた。
 その時、彼女の傍を赤ワインの入ったグラスを幾つか運んでいたディーラーが通りかかった。女はそのワインを先程まで振舞っていた優雅な仕草など感じさせない、激情した獣のように掴み取った。
 「この、ナンバーズ風情が!!」
 甲高い、金属のような鋭い声と共に、女はスザクにグラスを投げつけた。女とスザクの間の距離など、人が三人分くらい並べる程度のものだ。後ろが壁であるのも手伝って、スザクには避けるという選択肢がなかった。ギャラリーの方で、一歩踏み出した人物が目に入る。ジノだ。
 「スザク!」
 戦闘中のようなジノの鋭い声がサロンに響き渡る。一直線に向かってくるグラスに、スザクはどうにか急所は守ろうと青色の外套と腕で顔を覆った。うまく中身をぶちまけるくらいがベストだが、グラスのガラスは薄い。少しの衝撃で割れてしまうだろう。
 小さな怪我は覚悟して、スザクは目を閉じた。

 バリン、とガラスの割れる音がした。

 しかし、一向に衝撃は来ない。体感時間がおかしくなったのか、という考えが過ぎったが、先程までしんと静まっていたサロンがざわざわと騒がしくなっている。何が起こったのか、と視界を覆っていた外套を下ろすと、目の前で上の方で上げられた見事なブロンドの髪が揺れていた。赤ワインのせいで、所々赤く染まっている。グラスはといえば、シャンデリアの灯で金色に輝く床に砕け散っていた。
 ジノか、と思ったが、彼の髪はこんなに長くはないし、それにいつも見上げているような背丈ではない。紫に近い濃紺の動きやすそうなドレスの袖と白い手袋を嵌めた手はやはりワインで赤く染まっていた。
 「おやおや…いきなり何をなさるのかしら、エドワーズ嬢」
 「…ロ、…ログリエ侯…!」
 貴族の女がガクガクと肩を震わせ一歩、また一歩と下がった。女とスザクの間に立ちはだかった女性は、その場に留まっている。
 「前を通りかかったら突然グラスが飛んできてビックリ。夜会にこんな物騒なパフォーマンスがあるなんて存じませんでしたわ。ああそれとも手をお滑りになられたのかしら。いけませんねエドワーズ嬢、グラスは壊れやすいのですから、優しく扱わないと」
 声色は酷く穏やかだ。しかし、内容は毒に満ちている。エドワーズと呼ばれた女は逃げるように後ずさりをし、ギャラリーの中で同じように青ざめているかなり年配の男の後ろに隠れた。恐らく彼が、彼女の父親だ。
 「これはこれは、エドワーズ殿、いらっしゃったのですか」
 「ロ、ログリエ殿…娘が失態を…申し訳御座いません…!」
 「あら、別に良いのですよ?あたくしはただ“偶然前を通りかかった”ところに“突然グラスが飛んできて避けられなかっただけ”ですもの。けれど子爵殿。このような素晴らしい夜会にいらっしゃる前に、マナーというものを今一度勉強なさることをお勧め致しますわ」
 にこやかに言う女性に、エドワーズ父子は更に真っ青になり、ギャラリーは爆笑の渦でサロンを沸かせた。
 貴族達の侮蔑するような笑いに見送られながら、エドワーズ父子は互いの手と肩を抱き合いながら足早にサロンを出て行く。いや、逃げていった、という表現の方が正しいだろう。
 一部始終を特等席で見ていたスザクは、唖然としていた。ギャラリーで見ていたジノもそうだ。やがてブロンドの女性はワインに汚れたまま後ろを振り返り、軽快に、否、悪戯に笑った。
 「久しぶりね、スザク」
 ああ間違いない。スザクは四年前、空港で別れたきりの恩人と彼女を一致させた。
 ヒルデガード・ログリエ。非公式であるが、かつてのスザクの保護者が、昔と変わらないその笑みを浮かべながら、ワインの付着した手袋を取り払い、唖然とする彼の頬を抓った。


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名前がごつすぎる?スルーしてください。
公式せめて名前だけでも教えてほしい。

(修正)八年前→四年前 八年前ってwww自分ちょっと眠たかったんだと思います。
基準的には十四歳でお別れ。
 明日の夜までに配置図を覚えろ。それが今夜の課題だと、アーニャは寄越した。無論あの後、特務総監ベアトリス・ファランクスにアポを取った。
 「僭越ながらお尋ねしたいことがあります。今回承った任務、護衛はわかりますが、監視とはどういう意味でしょうか」
 「いつも命令には従順に従う貴方が珍しい詮索をするのね」
 理知的な眉の片方を上げながら、ベアトリスは冷たい声音で言う。ジノはこういう女性は苦手だというが、スザクは一兵卒であったことやその境遇からして、色んな意味で耐久はついていた。そりゃあ、好きな部類ではないが、苦手な部類でもないのだ。
 「…自分には明かせない、ということですか」
 「いいえ。どうせあの娘のこと、貴方には話さなかっただけでしょう」
 あの娘、とは恐らくアーニャのことだろう。まったく、といった風にベアトリスはわかりやすいため息をついた。セシルのような悩ましげなものではない、面倒くさい、そんな感じだ。
 「現在の皇帝陛下の時代から、ブリタニアという国はこれまで数々の国という国を潰し、貪り、掌握してきたわ。普通、何十年か前まで一国家であったブリタニアが、突然何故そんな偉業を成し遂げることが出来たのか、わかるかしら」
 「…軍事力の拡大、でしょうか」
 「三割方正解ね。元々、科学的に頭角を現していた国であったことや、逸早い人型装甲兵器の開発もそう。けれど、それは結論の域を出ない。では何故、諸外国を凌ぐ勢いで国力が上がったのか」
 そこでスザクは、エリア11で短期間通っていた学園の生徒会長を思い出した。アッシュフォードは確か、元帝国貴族。一般に言う没落貴族だ。学園祭でガニメデを貸し与えられたときに、何故学園にこんなものがあるのかとぼやくと、ミレイは苦笑を浮かべながら、自分の家は昔ナイトメアフレームの開発研究をしていたと言っていた。しかしガニメデを実戦投入されていないことを見る限り、恐らく敵対する開発チームに負けた、ということなのだろう。
 国を豊かにするためには、外部への意識はもちろんだが、より前提とされるのが内部での競争でどれだけ生き残れるかだ。何事においても、お互いを蹴落としながら高め合い、やがて頂点に達した者が、結局は覇者となる。
 となれば、ブリタニアが二十何年にして植民エリアを拡大できた理由はただひとつ。
 「………内部抗争、ですか」
 「そう。皇族や貴族だけでなく、企業も軍もみんな同じ。陛下は真っ先に国の方針を変え、その方向へと誘った。だから貴族だって失態を犯せば簡単に爵位を剥奪される。私が生まれる前のブリタニアならきっとありえなかったことね。弱者は情けさえ与えずに切り捨てる。そこに、今のブリタニアの強さがあるのよ」
 「それが、今回の監視の理由だと」
 「話が早くて助かるわ。貴族といえど陛下に仇名す様な不穏な動きは見過ごすわけにはいかないの。だからこういう大きな夜会には必ず“番犬”としてラウンズも出席するのよ。これで納得されたかしら?」
 嫌味な内容なのに、ベアトリスが言うとなぜかしっくりこさせた。スザクははっきりと「Yes, my lord.」と軍式の敬礼をして青色の外套を翻した。
 「枢木卿」
 扉に手を掛ける直前、後ろから呼び止められて身体半分振り返る。
 「本来これはナイトオブシックスに託されるはずの任務だったの」
 前触れもなく引き合いに出されて、スザクははっきりとはわからない程度に顔を顰めた。ベアトリスは澄ました顔で続ける。
 「実をいえば、名誉ブリタニア人の貴方に、行かせるべきではないと思っている」
 「…自分もそうだと思っていましたが」
 「えぇ。だからこそ、念を入れておくわね」
 ベアトリスの両の瞳がぎらりと光る。その鋭さに、スザクは無意識に身体が固まるのを感じた。
 蛇に睨まれた蛙。そんな気分だ。
 「所詮ナンバーズだと侮られ、陛下の剣であるラウンズの名を傷つけることは許さないわ」
 目は本気だった。元ラウンズの鋭い眼光はきっと引退したところで衰えてはいない。
 「はっ!」
 再度敬礼し、スザクはその部屋を後にした。
 無論、侮られてやる気など毛頭ない。

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また地味に続く。
ベアトリスさんがよくわからない。

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