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人生自分満足可其充分
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 夜。月は上弦。ブリタニア帝国のある州に広大な敷地を持つヴァインベルグ本邸の窓からは、シャンデリアから発せられるオレンジ色の光が煌々と漏れ出していた。
 恐らく、敷地でいえばペンドラゴン宮殿の大きさと然程変わらないのではないだろうか。島国で生まれたスザクにはその地価がどれほどなのかは知らないが、さすがは帝国貴族、と感嘆。アーニャは見慣れているのだろうか、特に興味を示すわけではなく、いつもと同じように携帯電話で写真を撮っている。
 「よ、来たな」
 声がする方に振り向けば、黒塗りのリムジンから降りた見知った金髪の長身がこちらに手を振っていた。ジノ・ヴァインベルグだ。スザクも片手を上げて応じながら、彼が邸の入り口からやってきたことに少し疑問が生じた。
 「あれ。ジノはここに住んでるんじゃないのか」
 「…ジノはナイトオブスリーとしての屋敷がある。ラウンズになってからは余り家には帰らない」
 小さく呟いた声はアーニャに届いていたようだ。彼女の言葉に「そうなんだ」と少し驚いていると、途端に後ろから首元に負担がかかった。何だと言わずとも正体はわかっているので、スザクはじとっとした目で後ろ斜め上を見上げた。
 「ジノ、重いよ」
 スザクが抗議しても、首をホールドするジノの腕は解かれない。それどころかもう片方の腕まで回して負担は増す一方だ。男として耐えられないことはないが、暑苦しくて仕方ない。
 ジノの姿はナイトオブラウンズのスーツではなく、ロイドがよく式典で着ているような、今まで見た彼の服装の中で一番貴族らしいものだ。以前アーニャの任務に非公式で付いていった際の人のセンスを問われるかのようなあれは私服であったし、そういえば彼が貴族らしいところはあまり見たことがなかったかもしれない、とスザクは一人ごちた。
 ジノはスザクとアーニャを交互に見やり、少し後悔したような表情を浮かべた。
 「私もラウンズの服で来ればよかったかな。いつもの三人なのになんか私だけ仲間はずれみたいだ」
 子供か、とアーニャが小さく呟いたのはあえて聞かなかったことにする。
 「仲間はずれも何も、これは仕事だろ。君は休暇を満喫すればいいじゃないか」
 「休暇!」
 ハッ、と鼻で笑う勢いで叫んだジノに、スザクは一瞬びくりとする。アーニャも物珍しそうに興味を携帯電話からジノに移した。
 「休暇、ねぇ。果たして休暇で終わってくれるのやら」
 スザクを腕から解放し、そう言うジノの瞳は、侮蔑するように邸の方へ向けられていた。彼の珍しく見せるその態度に、スザクは目を丸くする。自然と三人の視線は煌々と輝くヴァインベルグ本邸に向けられるようになった。
 「アーニャは大丈夫だろうけど、スザクは気をつけろよ。ここは権力に塗れた猛獣の巣窟さ」
 「…ジノ?」
 「変な猫に噛まれるなってこと」
 さ、行くか。とジノが大股で足を進める。いつの間にかスザクの手は彼の手の中にあり、バランスを崩しそうになりながら引き摺られるような形で屋敷に引っ張られる。アーニャは無言で、携帯電話を操作しながら後ろについて歩いた。



 だだっ広いサロンにぞろぞろと蠢く人、人、人。幼少期暮らしていた環境のせいか、十八になってもこの人ごみには慣れない。今でも胃の辺りがムカムカして、ディーラーや貴族が時々前を通る度にイライラは募る。普段ならこんなもの苦ではないのに、今日の自分はやはり変だ、と痛感する。その理由が分かり切っているのと、解決策などないということもわかっているから余計にストレスは溜まる一方だ。
 この空間における自分という存在の異物感と、周囲の好奇と侮蔑の視線、こちらを見ながら小さな声で相手に耳打ちする音。何もかもがスザクに不快感を与える。無論、現状においてそんなことを言える立場ではないということは理解していた。仕事だ、仕事。そう思うように片付けてなんとか過ごしている。
 隣にいた筈のアーニャは外の空気を吸ってくるとかで不在だ。護衛の指揮官は一番人の多いサロンに配置をおかれている。今ナイトオブシックスがいない中、ナイトオブセブンまでもサロンを放っておくわけにもいかないだろう。
 時々視線の端でジノの姿を見つけるが(身長がやたら大きいせいで嫌でも目に付くのだ)、彼は彼でヴァインベルグ家の一員として役割があるのだろう。先程から十何人目かの令嬢の相手をしている。それを見ていれば、彼の立場よりも自分の方が遥かにマシだと思えた。
 (口達者の成せる業か、やっぱりジノは貴族だな)
 ミレイ会長とよく似ている、と思う。いやでもああいう空間にいなくてはならないという苦痛はスザクも知ってはいるがそれはもう昔のこと。風の噂、という程曖昧ではないが、枢木という家は滅びたと聞く。血縁者はまだ生きているかもしれないが、恐らくその中でスザクが知る者はいないだろう。もともと、スザクにとっては「家」ではなかったものだ。

 時計はもう十時を過ぎている。予定では夜会は深夜十二時まで行われる手筈だ。自分の屋敷に帰る頃にはきっと深夜二時を回っているだろう。執事に預けてきたものの、アーサーが寂しがっていないか心配になる。
 とはいえ、今は仕事に集中しなければならない。思考の海に落ちそうになったのをなんとか堪え、またサロンの方を注視する。

 「あらあら、貴方がナイトオブセブン様?」

 どこかの貴族か、いかにも女らしい高いトーンの声が赤を基調とするドレスの下に隠されたヒールの音で盛大に自己主張するのように鳴らしながらスザクの方へ近づいてくる。
 ドレスと同じように真っ赤に塗られた唇。整った顔ではあるが、少々化粧が濃い。それなりの歳なのだろうか、スザクは貴族式の礼を返した。
 「ご機嫌麗しゅう。ナイトオブセブン、枢木スザクと申します」
 「お噂はかねがね。貴族界でも貴方の名前はよく口にされましてよ、枢木卿」
 そう言うが、貴族の女性は名乗らない。いや、名乗るつもりなのないのだ。“下賤なイレブン”には。
 なるほど、とクッと口元を吊り上げそうになる自分をどうにか抑える。こういう腹の探り合いはあまり得意ではないが、そこそこ出来る方だ。これも、昔から玄武に会合へ連れて行かれていた賜物だろう。全く国柄の違う、しかも日本という国を失った今、こんなところで活用する日が来るとは思いもしなかったが。
 貴族の女は狐のようにころころと笑う。
 「そうですわね。例えば、ナンバーズでありながら“かの有名な”ユーフェミア様をその身体で誘惑し、そして主を喪っても尚、皇帝陛下をも…一体どんな手を使われたんですの?是非ご教授願いたいですわ」
 厭らしい笑みを浮かべながら、貴族の女はスザクの全身を舐めるように見やった。この場所でユーフェミアの蔑称を口にされなかったことに安堵しつつも(口にされてしまったら自分を止められる自信はない)、スザクは特に愛想笑いも浮かべずに、“軍人”としての顔で受けた。いつの間にか、ギャラリーの注意の大半はこちらに向けられている。
 「ユーフェミア様を敬愛しておりますが、その噂のような関係ではありませんでした。あと僭越ながら申し上げますが、ナイトオブラウンズに身分は関係ありません。実力が認められたが故に得られる称号であると自負しております。それに、そのような陛下のお気紛れで自分がナイトオブラウンズを名乗っているなど、同じラウンズであるヴァインベルグ卿への侮辱ではありませんか?」
 そう言うと、貴族の女の顔は一瞬にして真っ白になった。元々白い顔だったが、今ではチークの意味さえないくらい顔色が悪い。そう、ここはヴァインベルグ主催の夜会。彼女は間接的な失言を見事言い当てられてしまったのだ。おやおや、とギャラリーから様々な声が上がる。それは貴族の女への言葉であったり、“元ナンバーズ”でありながら言い負かしてしまったスザクが身の程知らず、という上から見た言葉だ。
 やがて顔色を悪くしていた貴族の女は恥と怒りで真っ赤な顔をして、憎悪の色を浮かべた瞳でスザクを睨みつけた。このまま引き下がってくれればいい。スザクは一歩も動かず、その目を一身に受け止めていた。
 その時、彼女の傍を赤ワインの入ったグラスを幾つか運んでいたディーラーが通りかかった。女はそのワインを先程まで振舞っていた優雅な仕草など感じさせない、激情した獣のように掴み取った。
 「この、ナンバーズ風情が!!」
 甲高い、金属のような鋭い声と共に、女はスザクにグラスを投げつけた。女とスザクの間の距離など、人が三人分くらい並べる程度のものだ。後ろが壁であるのも手伝って、スザクには避けるという選択肢がなかった。ギャラリーの方で、一歩踏み出した人物が目に入る。ジノだ。
 「スザク!」
 戦闘中のようなジノの鋭い声がサロンに響き渡る。一直線に向かってくるグラスに、スザクはどうにか急所は守ろうと青色の外套と腕で顔を覆った。うまく中身をぶちまけるくらいがベストだが、グラスのガラスは薄い。少しの衝撃で割れてしまうだろう。
 小さな怪我は覚悟して、スザクは目を閉じた。

 バリン、とガラスの割れる音がした。

 しかし、一向に衝撃は来ない。体感時間がおかしくなったのか、という考えが過ぎったが、先程までしんと静まっていたサロンがざわざわと騒がしくなっている。何が起こったのか、と視界を覆っていた外套を下ろすと、目の前で上の方で上げられた見事なブロンドの髪が揺れていた。赤ワインのせいで、所々赤く染まっている。グラスはといえば、シャンデリアの灯で金色に輝く床に砕け散っていた。
 ジノか、と思ったが、彼の髪はこんなに長くはないし、それにいつも見上げているような背丈ではない。紫に近い濃紺の動きやすそうなドレスの袖と白い手袋を嵌めた手はやはりワインで赤く染まっていた。
 「おやおや…いきなり何をなさるのかしら、エドワーズ嬢」
 「…ロ、…ログリエ侯…!」
 貴族の女がガクガクと肩を震わせ一歩、また一歩と下がった。女とスザクの間に立ちはだかった女性は、その場に留まっている。
 「前を通りかかったら突然グラスが飛んできてビックリ。夜会にこんな物騒なパフォーマンスがあるなんて存じませんでしたわ。ああそれとも手をお滑りになられたのかしら。いけませんねエドワーズ嬢、グラスは壊れやすいのですから、優しく扱わないと」
 声色は酷く穏やかだ。しかし、内容は毒に満ちている。エドワーズと呼ばれた女は逃げるように後ずさりをし、ギャラリーの中で同じように青ざめているかなり年配の男の後ろに隠れた。恐らく彼が、彼女の父親だ。
 「これはこれは、エドワーズ殿、いらっしゃったのですか」
 「ロ、ログリエ殿…娘が失態を…申し訳御座いません…!」
 「あら、別に良いのですよ?あたくしはただ“偶然前を通りかかった”ところに“突然グラスが飛んできて避けられなかっただけ”ですもの。けれど子爵殿。このような素晴らしい夜会にいらっしゃる前に、マナーというものを今一度勉強なさることをお勧め致しますわ」
 にこやかに言う女性に、エドワーズ父子は更に真っ青になり、ギャラリーは爆笑の渦でサロンを沸かせた。
 貴族達の侮蔑するような笑いに見送られながら、エドワーズ父子は互いの手と肩を抱き合いながら足早にサロンを出て行く。いや、逃げていった、という表現の方が正しいだろう。
 一部始終を特等席で見ていたスザクは、唖然としていた。ギャラリーで見ていたジノもそうだ。やがてブロンドの女性はワインに汚れたまま後ろを振り返り、軽快に、否、悪戯に笑った。
 「久しぶりね、スザク」
 ああ間違いない。スザクは四年前、空港で別れたきりの恩人と彼女を一致させた。
 ヒルデガード・ログリエ。非公式であるが、かつてのスザクの保護者が、昔と変わらないその笑みを浮かべながら、ワインの付着した手袋を取り払い、唖然とする彼の頬を抓った。


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名前がごつすぎる?スルーしてください。
公式せめて名前だけでも教えてほしい。

(修正)八年前→四年前 八年前ってwww自分ちょっと眠たかったんだと思います。
基準的には十四歳でお別れ。
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